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アイ・ラブ・ユー

 妻からLINEメッセージが来た。

 今日どこへ行ったとか、隣の夫婦が別れたとか、娘がだれと砂場でケンカをして泣いたとか。そんな細々こまごまとしたことを書いてある。ぼくの仕事の帰りが遅いから、暇をもて遊んでいるのかもしれない。


 時計を見ると、8時を少し回ったところだった。あとは明日にして、今日はこれで帰ろう。ぼくはオフィスを後にした。 夜のオフィス街は蒸し暑かった。昼間の熱気がまだ空気中に漂っているのだろう。


 ぼくは電車に乗った。つり革につかまりながら、もう一度妻のLINEを再読してみる。おや、最後の数字はなんだ?

 数字で831と打たれている。それ以外なにもない。ぼくは検索エンジンで831と打ち込んでみた。831とは、8文字の言葉を3つの単語で3つの数字に表現したものだという。

 すなわち、I LOVE YOU(全体で8文字、3つの単語、3つの数字で表現)の意味なのだそうだ。なんとシャイな女だろう・・・・・・ぼくは苦笑した。


 帰宅すると妻が何食わぬ顔で「おかえりなさい。ご飯にする、それとも先にお風呂?」と訊いてきた。

 ぼくは妻をそっと抱き寄せて、娘の前でも構わずにキスをした。

「どうしちゃったの。なにかあった?」

 妻がうるんだ目をしてぼくを見た。

「これ」

 ぼくは携帯電話の画面を妻に見せた。

「あら、これ。このあいだ決めた、帰りに野菜(831)買ってきてっていう暗号じゃない」

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