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恋愛小説-Love Story
杉村行俊
恋愛現代恋愛
2024年12月03日
公開日
50,002文字
連載中
第一話 長すぎた春を過ごしてきたカップルが、ちょうど同じ日に別々の友人の結婚式に出席することになった。そこで訊いた話によると、もし引き出物がお互いバウムクーヘンだったとしたらそのカップルは別れる運命だという。最後に主人公が取った行動とは・・・。
第二話 大工の同級生とつき合うようになった主人公。彼の分かりづらい性格に愛想をつかしながらも惹かれていってしまう。
第三話 主人公は中学の女教師。担任クラスのにひとりの問題児がいた。そんなある日、主人公が不良達に絡まれて。
第四話 高校の仲良しグループが花火大会に集まった。人混みの中、彼の手を取って助けてくれたのはクラスメイトの織江だった。
第五話 あこがれの図書館司書に本を紹介してもらえることになった。何気なくそれらの本の題名をつなげてみるとある言葉が浮かび上がってくるのだった。
第六話 小学校にサーカス団の少女が転校してきた。恋に堕ちた主人公は将来サーカス団に入団することを誓う。高校を卒業して訪ねるてみるとそこに少女の姿はなく・・・。
第七話 偶然見つけたカクテルバーで亡き妻の思い出のカクテルを作って貰い堪能した。翌日その店に行ってみるとその店はすでに閉店してしまっていた。
第八話 鼻が低くて悩んでいる主人公が整形美容で鼻を高くした。翌日登校すると、周囲の反応が微妙に変化する。とくに彼氏の反応がいまひとつだった。
第九話 読書家の主人公は時々同じ本を購入してしまうという失態を犯してしまう。ある日同じような女性を書店でみかけて声を掛けて・・・。
第十話 彼と別れる決心をした主人公は、別れの印にハンカチーフを渡すことにする。ところが彼の反応は予想外のものだった。
第十一話 バイトの後輩が熱い眼差しでクリスマスの予定を訊いてきた。これはチャンス。
第十二話 女子たちの手違いでお互いに間違った相手からバレンタインのチョコを貰ってしまう。それを交換する姿を別の女子に目撃されてしままう。
第十三話 ホワイトデーで彼女たちと距離をおくために恋の達人に対応を相談する。
第十四話 交番にいたずら電話を掛けてくる女性に恋をしてしまった巡査の物語。
第十五話 彼女に浮気と勘違いされてしまった主人公のサプライズとは。
第十六話 上から読んでも下から読んでも同じになる回文カップルが遠距離恋愛になってしまった。悩んだ末別れを決意したその時・・・。

バウムクーヘン・エンド

「あれ、今度の日曜日って友子の結婚式だっけ?」おれは由香利に訊いた。

「そうよ」

「こっちも学生時代の友達の結婚式だってよ」招待状をひらひらと由香利に見せる。

「うわ。きっと大安だからだよ。結婚ラッシュだ。瞬は友だちが多いからね」

 おれたちは同棲して5年、お互いの将来のことを真剣に話し合ったことがなかった。でもきっといつか結婚するとは思っている。ただ、なぜかお互いそのことを口にせずに今まで来てしまったのである。

 由香利も何か言いたそうな素振りを見せたものの、急に話題をそらしてしまった。

「あのさ、ゆうべのドラマでね・・・・・・」


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 結婚式の引き出物はバウムクーヘンだった。バウムクーヘンは大昔ギリシャにて、木の棒にパン生地を焼いて作ったお菓子が原型だと言われている。ドイツ語で“バウム”は木、“クーヘン”はケーキという意味なのだそうだ。

「瞬君。もう帰っちゃうの?」学生の時の女友達の映子がおれを見上げる。「もう一軒いこうよ」

 おれたちは結婚式の二次会がはけた後、なんとなく同じ方向に歩いていたのだ。

「うん、いいけど。田中たちは?」

「あいつらはほっとけばいいの」映子が口をへの字に曲げる。「お姉ちゃんのいる店に行こうって相談してたし」

「ふうん、一杯だけなら」

「よし、レッツゴー!」

 映子に腕を組まれて、おれたちはカクテルバーに入って行った。


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 由香利の引き出物もバウムクーヘンだった。

 バウムクーヘンは木の年輪のような形状をしているので、縁起物として引き出物によく使われるのだそうだ。

 結婚式の2次会の後、由香利たち仲良し5人のグループは喫茶店でお茶をすることにした。

「ねえ、“バウムクーヘンエンド”って知ってる?」と猫のような顔をした和佳子が言う。

「なにそれ」面長の玲子が興味津々という顔で訊く。

「たとえばよ・・・・・・」


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 ぼくはソルティドッグを、映子はテキーラ・サンライズを飲んでいた。

「・・・・・・そう、すごく仲のいいカップルがいるとするわよね。二人が同じ日に別々の結婚式に呼ばれたとします。そしてお互いの引出物がバウムクーヘンだったりすると・・・・・・そのカップルは結ばれず、別々の相手と一緒になってしまうんですって」

「そんなの迷信だろ」

「まさかだとは思うけど。彼女の引出物がバウムクーヘンじゃないことを祈るわ」

「悪いけど先に帰るわ」おれは席を立った。「マスターお勘定」

「ええ、まだいいじゃない」

「ごめん。また連絡する」

 おれは何となく胸騒ぎがしてタクシーを拾った。


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 由香利はすでに帰宅していた。

「どうだった。結婚式」とテーブルに座っていた由香利が顔をあげる。

「うん、まあまあ良かったよ。ところで、それ何?」

 おれはテーブルの上の白い箱を指さした。

「バウムクーヘンだけど・・・・・・」

「あ・・・・・・おれも・・・・・・」

 おれも由香利も一瞬硬直してしまった。おれは由香利のバウムクーヘンを箱から出した。

「由香利。こうしないか」

 おれは自分のもらってきたバウムクーヘンを取り出すと、由香利のバウムクーヘンにギュッと押し付けた。それは無理やり8の字のような形になっていた。

「どうこれ」

「なに?」

「“無限”ってこと。おれ、由香利といつまでも一緒にいたい」

「あたしも」

 由香利もおれも泣いていた。

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