夏休みが終わり、新学期の初登校日。
いつものようにふたりで登校した由佳と狗巻は下駄箱で楓と叡斗と合流した。
「この夏休みは一生の思い出に残る夏休みだったわね」
楓がそういうのは、夏休みの、それも特に夏祭りの出来事のことを言っているのだと由佳は察した。
「しかしさぁ。あの4人はなんだったんだろうな」
いつものように後ろ頭で手を組みながら叡斗が漏らした。
4人とは相田 詠子、備井 米美、椎名 詩衣、泥田・ディーン・禰栖子のことだった。
「あの子たちは誰かから指示されて動いていたようだったけど、謎は謎のままになってしまったね」
「もう会うことはないでしょうけど、どんな目的があったのかだけは聞き出したかったかも……」
そういいながら楓が指をボキボキ鳴らすので、由佳は物騒だと思った。
そこに静子が走り込んできた。
「あ。静子。おはよう。どうしたの? 血相を変えて?」
「ゆ、由佳っ。それにみんな。ごめんやけど助けておくれやすっ」
そういうと静子は由佳たちの後ろに隠れた。
「会長~、待って下さい~」
「夏休みの間、会長のお姿を見られなかったので辛かったです」
「貴方は会長とのツーショット写真を持ってるでしょ! それを眺めて飢えを凌げるからまだいいじゃない!」
「ワタシも会長と写真をとりたいデース」
静子の後を追って来たのは例の4人の女生徒だった。
「ええ~っ!? あ、貴方たち、なんでここにいるのっ!?」
由佳たちは心底驚いた。
「あ、貴船先輩。おはようございます」
「なんでここにいるのかって、私たちはこの学校の生徒だから……ですかね?」
「そうですよ! 高校生が自分の学校に登校して何が悪いんですか?」
「まだ夏休みボケが抜け切れてなくて、ちょっとしんどかったデスが、静子会長のお姿を見られて元気がでましたデース」
4人は自分たちが登校することはさも当たり前といった様子だった。
「い、いや、あの夏休みの流れで言うと「その後、君たちは学校を去り、以後、4人の姿を見たものは誰もいなかった───」
っていう流れだよね?」
叡斗がそういったが、4人は小首をかしげて「?」といった様子だった。
「確かに漫画やアニメだとそうですけど……」
「私たちは普通の高校生ですし、そんな大それたことはしませんよ?」
「そうよ! 私たちは普通の高校生なのよ! 家族だっているし家だって学校の近くですもん! いなくなるわけないじゃないですか!」
「あ。ワタシのペアレンツはカナダにいるので、ワタシだけはあるホストファミリーの元に下宿しているデース」
「いや、普通の高校生とは……」と叡斗は言おうと思ったが、自分も人の事を言えないので口に出せなかった。
「あ、あの、それじゃあ、ちょっとだけ話を聞きたいんだけど───」
「「「「それはダメです!」」」」
由佳が切り出したが、4人に息を揃えて拒否された。
「「「「今回の件で私たちは何を聞かれても何もお話ししません!」」」」
4人は手を突き出して由佳を制し、きっぱりと言って撥ねつけた。
これは駄目そうだ……。
食い下がりたい気持ちでいっぱいだったが、4人の毅然とした態度を見て由佳は断念せざるを得なかった。
そしてホームルーム開始の予冷がなったので、全員、それぞれの教室に戻っていった。