「由佳ちゃん、どうしたのっ? 顔が真っ青だし、様子がおかしいよっ?」
顕乗は心配そうに由佳の様子を伺った。
「け、顕乗さん…」
由佳は不安と孤独感に苛さいなまれていたので、見知った顕乗があらわれたことに、大きな安堵感を得た。
そしてその事で緊張の糸が切れ、その場に力なく屈みこんでしまった。
「と、とかくこっちにおいで。車に乗ろう」
顕乗は由佳を支えるようにして立たせると車の助手席に乗せた。
「あ。ちょうどよかった。温かくはないけどココアがあるよ。由佳ちゃん、ココア好きだったよね?」
そういって顕乗はペットボトル入り飲料のココアを由佳に差し出した。
由佳は、顕乗からココアを受け取ったが、手が震えてペットボトルのキャップを回すこともできなかった。それを見かねた顕乗がキャップを開けてくれた。
一口ココアを飲むと、ほのかな清涼感が喉を通って胃に広がり、同時に甘味の優しさが、興奮状態にあった頭を癒し、緊張をほぐしてくれた。
そうして由佳は、急速に気持ちが落ち着いていくのを覚えた。
「顕乗さん、ありがとうございます。とても助かりました」
由佳が落ち着いたのを見て、顕乗もほっと胸を撫でおろした。
「驚いたよ。由佳ちゃんが血相を変えて走ってくるし」
顕乗は自分もペットボトル入りの緑茶飲料を取り出すと、一口、口に含んだ。
それから改めて由佳に何があったのかを訪ねてみた。
「何かを探しているようだったけど、どうしたの?」
そう訊かれて由佳は返答に困った。
まさか「神様を探していたんです」とは言えず、なんと答えようかと迷ってしまった。
由佳は何かを言おうと口を開いたが、うまく言葉が出ず、結局、口をつぐんでしまった。
「あ。ごめん。無理に答えなくてもいいよ。言いたくないなら答えなくても大丈夫だから」
答えに窮する由佳の様子を察し、顕乗は由佳をなだめた。
由佳はその言葉に優しさを感じ、とても感謝した。
しかし、その一方で、そう言われることで自分がいつまでも秘密を他人に打ち明けられない壁のようなものも感じた。
本当は、もっとずうずうしく、ずけずけと詮索して欲しい。自分が覆い隠しているものを強引に引きはがして秘密を露わにして欲しい。そんな少し自暴自棄な思いが脳裏の片隅をよぎっていた。
何故なら、そうして秘密が暴かれた場合、自分が暴露したのではなく、相手が無理やり暴いたんだと責任を転嫁できるからだ。
そうした浅ましい考えがよぎってしまうほど、今の由佳は余裕がなくなっていた。
今、由佳の身の回りで起こっていることは、受験を控えた高校3年生の女子には、荷が重いことだった。
由佳はこの重みから解放されたい、逃げ出したいと少なからず思っていたのだ。
「僕は今から祭り会場に戻るけど、由佳ちゃんはどうする? 一緒に戻る?」
そう訊かれて由佳はどうしようか迷った。
一時でもここに一条神社の神様が現れたのだ。もう少し辺りを捜索した方が良いのではないかと思う反面、周囲の様子を見渡すと、一人で手がかりを探しても砂山の中から小さな小石を探すような途方もなさを感じてしまっていたのだ。
「何か事情があるみたいだけど……、そうだ。一回、
由佳の様子を見かねた顕乗は、自分では由佳の助けにならなさそうだと無力感を覚えた。
しかし、それでもなんとか由佳の力になりたいと知恵を巡らし、狗巻の名前を出した。
それは顕乗にとって、苦し紛れの末の逃げ口上のようなものだったが、その一言が由佳に進むべき指針を大いに与えることとなった。
由佳は今、一番自分がしたいこと、そして望んでいることがはっきりとした。
そして由佳はそのことを口にした。
「狗巻に会いたいです」
不安という足のつかない空中に、揺蕩うように浮かんでいた由佳だったが、狗巻の名前を聞き、狗巻の顔を思い出すと、足が地面につき、しっかりと立ち上がることができるような安心感が得られた。
「狗巻に会いたいですっ」
由佳は、もう一度、今度は大きな声ではっきりとそう口にした。
由佳は自分の中で、狗巻の存在がどれほど大きく、必要としている存在であるかを再認識した。
今、狗巻がこの状況を即座に解決し、神様を見つけてくれるわけではない。
しかし、狗巻と一緒にいれば、それだけでどんな困難も乗り越えられるという自信が湧いてきた。
それは狗巻に傍そばにいて欲しい。そして狗巻の傍に居たいという強い願望のあらわれでもあった。
「わかった。じゃあ。祭り会場に戻ろう」
そういうと顕乗は車のエンジンをかけ、ウィンカーを出すと、ハンドルを切って車をめぐらし、祭り会場に向けて車を発進させた。
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