子供の頃に初めて見た時からファンになり、マグカップやハンカチ、お財布、タオル、ボールペンなど、関連グッズはすべて持っていた。
由佳は手を叩いて彼らの登場を歓迎し「楓のお父さんとお爺さん、今年も頑張ってるわね~」と、労をねぎらった。
しかし、その発言には楓がすかさず反応した。
楓は由佳の両肩をがっしりと掴み、真正面から由佳と向き合うと「由佳、わたしのお父さんとお爺ちゃんは何も頑張っていないわ。あの子たちの中にね……あの子たちの中に「
楓は由佳にそのことを言いきかせようと肩をゆさぶった。
「そ、そうだったっ! ごめん、楓っ! わかったっ! わかったから許してっ!
そうよね。あの子たちに「
楓があまりにも強く肩を揺さぶるので由佳は目を回した。
「そうよ、由佳。わかればよろしい。あの子たちに「
以後、発言には気をつけるように」
「はい、楓さま。すみませんでした」
楓は「着ぐるみの中の人」発言には厳しい人だった。
それは、楓もこの着ぐるみに入ることがあるからだった。
特にネズミの方は、楓の祖父が担当だったが、着ぐるみを着てパフォーマンスをすることはとても重労働で、老体では長く活動することができず、楓と交代することが多かった。
楓は、目立つことが苦手で、人前でパフォーマンスをすることは避けたかったが、着ぐるみであれば自分が表にでないので、祖父の為にも中に入ることを了承していた。
そして楓は、いざ着ぐるみに入ると、子供たちが嬉しそうに集まってくるので、そうした子供たちの期待を裏切らないためにも、キレのあるパフォーマンスを披露していた。
ここでも楓は「空気を読む女」だった。目立ちたくないという自分の気持ちを「気遣い」が上回るのだった。
しかし、着ぐるみを脱いで我に返ると、自分が行ったパフォーマンスを思い返し、後悔の沼に沈むのだった。
そうした状態の楓には、「最高のパフォーマンスで子供たちも大喜びだったよ!」という誉め言葉は逆効果で、楓が自分で自分の気持ちに折り合いをつけて、立ち直ってくれるのを待つしかなかった。
由佳は楓の手伝いをしながら、隙あらば自分も着ぐるみたちと握手しようとチャンスを伺った。
高校生にもなり、
しかし、そうして様子を伺っていると、由佳はネズミの着ぐるみの足元に、別のネズミがチョロチョロとまとわりついていることに気付いた。
「…あれ? あのネズミ…」
由佳はそのネズミが、他の人には≪視え≫ない特別なネズミであることに気付いた。
何故ならそのネズミは二本足で立って歩き、平安装束を着て、烏帽子をかぶっていたからだ。
「ね、ねぇ、楓。あのネズミ…」
由佳はネズミを指さしたが、楓にはそのネズミは≪視え≫なかった。
「ネズミって、お爺ちゃ──じゃなくて、着ぐるみのネズミ以外にいるの?」
楓は眉間にしわを寄せて懸命にネズミを≪視よう≫と目を凝らしたが、由佳の言うネズミを≪視る≫ことができなかった。
由佳は、「ほらっ! あそこっ!」とちょこまかと動き回るネズミを盛んに指さしたが、楓にはやはり≪視え≫なかった。
「わたしたちも≪視える≫といっても、由佳ほどはっきりと≪視えて≫いるわけじゃないの。うすぼんやりと存在がわかるだけの神様だっているの。だからそのネズミは、きっと由佳くらい≪視える≫力がないと、認識することができない神様なんだと思う」
楓の説明に、由佳はなるほどと思った。
そうして楓と話をしていると、ネズミも由佳に≪視ら≫れていることに気付いたようだった。
じっと由佳の目を見て、間違いなく由佳が自分を≪視て≫いることを確信すると、由佳の前にやってきて、恭うやうやしく一礼を尽くした。
由佳も一礼を返してネズミの礼節に応えた。
お互いに挨拶が済むと、ネズミは由佳の袖口を引いて、一緒に来て欲しいという素振りを見せた。
「由佳、行って。きっと何か助けて欲しい事情があるのよ」
販売所が忙しく、さらにネコとネズミのマスコットも登場したので、苗蘇神社は今日一番の盛り上がりと忙しさだったが、「空気を読む女」を自称する楓は、その名の通り、空気を読んで由佳を送り出した。
「ありがとう、楓っ!」
由佳は楓の無事を祈りつつ、ネズミの後を追って駆け出した。
楓のことは気がかりだったが、ネズミの神様の誘う先に、きっと今回の様々な事件に関する答えがあるように感じたのだった。
由佳の胸は高鳴った。
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着ぐるみのマスコットに、中の人などいません!(キリッ
私の小説を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。
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皆さまに「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります。
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