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17話 陰陽局統括との因縁

 二人が入ってくると月さんは勢いよくドアを閉める

 それだけで月さんも二人を歓迎していないことがよく分かった

 片方の男性はおそらく二十代前半、といったところだろうか

 ストレートの黒髪の短髪と左目を覆う大きな眼帯、そして腰に携帯された異様に長い刀が特徴的だ

 そしてもう一人の、おそらく女性は、年齢を推測するのは難しいだろう

 何故なら顔には狐の面をつけているからだ

 後は、長い黒髪を低いところで縛っているくらいしか情報はない

 甘羅さんの言葉と彼らのスーツの襟元に付けられたピンズのおかげですぐに二人が陰陽局統括の国家陰陽師であることは見て取れた

 国家陰陽師は民間の陰陽師と違い難題と言われている国家試験を突破することでなれる言わば公務員だ

 だからこそ、統括という立場にいる彼らが動くことは極めて少ない

「突っ立ってられても邪魔だから座るならとっとと座れよ」

「それでは失礼します」

 甘羅さんの粗雑な対応になんの遺憾の意も示さずに2人は甘羅さんの向かいのソファに軽く腰かける

「で? 用件だけ言ってとっとと帰ってくれない?」

 それを見て尚甘羅さんの口調は苛立たし気で、いつもだったらフォローを入れる月さんも何も言わずに甘羅さんの横に座る

「そうですね、こちらとしてもそうしたいところです」

 男は言いながら物言いたげに部屋の中に視線を巡らせる

 その行動は何か、こう、まるで蔑んでいるようでそれだけで癪に触るものがあった 

「端的に申し上げますが継千帝弓麻がしたとされている偉業、直近で言えばフーリンカムイの制圧などですがそれらを実際にやったのがあなたである、というのは陰陽局統括の中でも一部の上級職の人間しか知らないことです、そして、目立つ行動はしないようにと再三忠告もさせていただいているはずですが」

 男の言葉にピクリと肩が震える

 秘密にするように言われていたことだが流石に陰陽局統括はしっかりとその件についても把握しているのか

「あなたの正体がばれれば困るのはあなたではなくこちらなのですよ」

 狐面の女性は困ったようにそう言う

 まだ隣の男性よりは人間味のある口調に感じる

 それでもどこか機械的な感じと不快感は拭えない

 陰陽局統括の国家陰陽師になんて会う機会はそうそうないが皆こういう感じなのだろうか

「だからバレないように上手くやってるだろ、修羅も動いてるんだオレも動くしかない、それはお分かり? その固い頭でよく考えろよ」

 甘羅さんは怒りを隠そうともせずに言いながら頭を叩きバカにするジェスチャーをしてみせる

「修羅に関してはこちらで対処を考えています、あなたがたのような過去の遺物がしゃしゃり出る幕などないということです、何よりあなたは信用に足らない、理解出来ましたでしょうか?」

 それに対しても男はまた機械的に返答する

「それが出来てないからこんなことになってるって分かってるか? その証拠にいまだに修羅は野放しだ、あやかしにも被害が出てる、そしてオレはお前達の信頼なんて欠片も必要としてねーんだよ、お分かり? 分かったらとっとと帰れよ、お前達とキャッキャウフフで話してる時間が無駄だ」

 甘羅さんはこれで話は終わり、というように一方的に話を区切るとさっさと帰れと手をしっしと振る

「……こちらもそれなりに譲歩しているということを理解して――」

「玉樹!」

 流石に腹がたったのか少し語気を荒げた男に向かって女性が強く牽制する

 玉樹、というのは名前だろうか

「っ……」

 玉樹、と呼ばれた男はそのまま深くソファに沈む

 これはあまりにも不憫だったろう

 殺気を向けられている本人ではない私でさえ背筋が粟立ち震えが止まらないのだから

「そろそろ我も限界が近くてのぉ、最近は小鳥も食えず仕舞いじゃ、お主らみたいな骨ばった人間でも少しは腹の足しになるかも知れんのぉ、なぁ甘羅や」

 見た目は九尻の大狐にこそなっていないもののそう語る月さんからは異常なほどの殺気が放たれていた

「そうだなー、不味いかもしれないけど、腹壊したりはしないだろ」

 そして月さんの言葉を止めもしない甘羅さん

「……そんなことをすれば上層部が黙っていませんよ」

 そんな二人を牽制するように狐面の女性が何とかつぶやく

 だが甘羅さんはそれを聞いて逆に笑った

「そうしたら全面戦争と行こうじゃないか、オレは……陰陽局統括がオレ達にしたことを一切赦してはいない、修羅討伐より前にオレら……羅刹対陰陽統括ってなりゃ分かりやすくていいことだろう?」

 甘羅さんは言いながらどかりとソファに深く腰かけて脚を組む

 その姿は壮観であり、まるでいつものぐだぐたした少年ではないようだった

「……今回はこれで失礼します、しかしあなたも陰陽師を名乗る以上は陰陽局の統括の元に行動できていることをしっかりと理解しておくべきです」

「それでは失礼します」

 2人は諦めたのか、命の危険を感じたのか

 それだけ言い残すとそそくさと部屋を出ていった

「やっと帰ったか……月ちゃん! 塩、塩撒いといて!」

「ええい既に撒いておるわ!」

 甘羅さんが言うよりも早くキッチンから持ってきた塩を月さんが玄関にばらばらと撒き散らす

「あの、あのお二人とは何かあったんですか?」

 甘羅さんの機嫌が悪くなることは今までも何回かあった

 兄様達のときもそうだ

 だが今回は度合いが違った

 止めに入ることも出来ないほどに双方共に敵意を剥き出しだった

「……あの二人っていうか、昔陰陽局管轄と揉めたことがあって、それからはずっとこんな感じなんだよね」

 甘羅さんは二人がいなくなった途端にからっといつもの様子に戻って組んでいた脚をほどいた

「理由は……聞いても教えてはくれないんでしょうね」

 聞いたところでまた秘密とかなんとか言われるだけだということはよく分かっている

 だから聞いても無駄だ

「よく分かってるじゃん、やっとここの感じにも慣れてきてくれた? よかったよかった」

 そう言って甘羅さんは笑ったが

 慣れてきたからこうなった、というのは少し違うと思う

 ただ、諦めただけというのが、きっと正しい

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