フーリンカムイと水龍様の一件以来私に対する周りの反応はあからさまに変わった
何も出来ない継千帝の面汚し、から潜在能力は鳳炎兄様にも引けを取らない期待のホープとして見られるようになった
向けられる瞳も蔑んだものではなく期待の込められたものになり、力に覚醒したばかりでフーリンカムイを単身戦闘不能にしたその力を求めて色んな陰陽局から異動しないかと声までかけられる始末
しまいには御霊陰陽局にいるのは宝の持ち腐れ、とか、甘羅に良いように使われるのは勿体ないとか、そういうことを言う人まで現れるようになった
たった一件の出来事でここまで変わると流石に笑えてくる
「ねぇ黒ちゃん、人間って単純だよねー」
私は自宅の近所に住み着いている友達の黒い野良犬、黒ちゃんの頭を撫でながら一人ごちる
「クーン……」
黒ちゃんはまるで私の気持ちが分かるというように悲しそうに鳴くと私の手に頭をぐりぐりと擦り付ける
「あ、そろそろ行かないと遅刻しちゃうか」
私はもう一度黒ちゃんの頭を撫でてから出勤するために立ち上がる
あれから陰陽局でする仕事が変わったかと言うとそんなことは無くて、いつも通り甘羅さんはソファでだらだらしているし私は月さんのブラッシングしたり事務作業をしているだけだ
そしてたまにいつものようにいきなり起き上がった甘羅さんのあやかし退治についていき術の練習をする
1つだけ変わったことがあるとするならそれは甘羅さんが他の陰陽師が来る前にあやかしを退治してしまうようになったことだろうか
そしてそれは全て私の功績になる
その度に上がる自身の名声に罪悪感を覚えるし、居たたまれなくなっていく
それでも甘羅さんと約束したことだから誰かに言うことも出来ず悶々としていくだけの日々
果たしてこれでいいのか、そう悩む回数は日に日に多くなっていくばかりで
少しずつ御霊陰陽局へ出勤することが苦痛になっていくことがまた嫌になる
「あー、本当に遅刻しちゃう、行かないと」
私は何とか自分にカツをいれると重い足を引きずりながら職場へ向かった