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14話 刹那と修羅

「ふむ、やはり羅刹に託したのは正解だったか、心配したぞ暁よ」

 禍月の山を降りてすぐに八多比原へと戻ると月さんが空に向かって大きな火柱を上げた

 そうすると最初に出会った時のような威圧感の全くない蒼緋様が降りてきて暁くんの元へと近寄った

「勝手に住み家を離れてしまい申し訳ありません蒼緋様、どうしても羅刹様にお伝えしたいことがあり、いてもたってもいられずに探しに地に降りたのですがその先で密猟者に追われ、禍月の山に逃げ込んだところを土蜘蛛に匿っていただき、その後のことを考えていればちょうど羅刹様が山に来るとのお告げを聞きお待ちしておりました」

 暁くんはかしこまった様子で蒼緋様に説明をする

 龍の子、というのは存外色々と難しい存在なようでどうやら当代の属性を統べる龍自身の子供、というわけではないようだ

 世代交代を迎えようという時にどの龍からか産まれ、それを属性を統べる龍が育て次代へと繋いでいく、というものらしい

「ふむ、そうであったか……それであれば人間に怒りを向けるのもお門違いというものか、感謝するぞ羅刹」

 蒼緋様は自身の背中に暁くんを乗せて甘羅さんに頭を下げる

 龍というのは高貴な存在であり人間に頭を下げるなんて見たことも聞いたこともない

「いや、大丈夫、これも陰陽師の仕事だから、それよりも暁、オレに伝えたいことって何だったわけ? 少し想像はついてるけど」

 だが甘羅さんは特に気にする様子もなく流すと暁くんに話しかける

「はい! そのことなのですが、私は先見の明で見たのです、これから先陰陽師、あやかし、人間、式神……すべての種族が争い猛り狂う未来を」

 暁くんの言葉に私はごくりと喉を鳴らす

 この沢山の種族のいる世界でそんなことになれば国の1つや2つ簡単に滅びるだろう

「それを、オレに言って何をして欲しいんだ?」

 そんな話をされたのに甘羅さんは何も焦った様子はなく逆に聞き返していた

「羅刹様が長年この世界の均衡を保つためにお働きになっているのは我ら龍族のなかでも周知の事実、今回も是非お力添えしていただきたく、何よりも今回は刹那様がお関わりになっているのです」

 やはり甘羅さんが記録に残るような大あやかしの討伐に携わっていたのには理由があったのか

 自分の推測が当たっていたことは内心嬉しいがまた新しく出た名前には少し聞き覚えがあった

「あー、やっぱりあいつか……」

「刹那……どこかで聞いたことがある気が……」

 がしがしと頭をかく甘羅さんの横で私は首を傾げる

 誰かの口から聞いたことのある名前、だけどそれが何だったのかどうしても思い出せない

「羅刹と一緒で刹那っていうのも昔の名前だ、しかも基本あやかしに名乗っていたもの、今の名前は……修羅って名乗ってる」

「に゛ゃ!」

 そんな私に甘羅さんは端的に説明してくれる

 修羅という名前に驚いて抱いていた月さんを強く抱き締めてしまい月さんの口から苦しそうな声が漏れる

「しゅ、修羅ってあの!?」

 しかしそれどころではなかった

 私が聞き返せば甘羅さんはこくりと頷く

「ああ、あの修羅だ」

 修羅、という名前を知らない陰陽師は存在しないだろう

 修羅とは、いつの時代からいるのかも分からない下法に堕ちた陰陽師の名前だ

 時折人間の前に現れては厄災を撒き散らしてまた消える、何がしたいのか分からないのに力は壮大で手につけられないそんな災害のよう人物

 それが修羅だ

「にしても今回の狙いは、何だ……?」

「弓麻様です」

「え、私ですかっ!?」

 考えている様子の甘羅さんに暁くんはなんの躊躇もなく言ってのけた

 それに私はすっとんきょうな声を上げてしまったが許して欲しい

 そんなヤバい相手に狙われるようなことをした覚えはこれっぽっちもない

「……詳しく」

 甘羅さんはいつものぐだぐだとした感じを完全に取っ払って暁くんに詰める

「弓麻様は……あの、お方と関係がありますから、現世にいられるのは刹那様的にも良いことではないのでしょう、何より刹那様には風龍がついております、風龍の子の力で現状を把握して行動を開始しているようです」

 龍には属性がある

 今回目の前にいるのは水龍の、暁くんは水龍の子

 他にも基本として地水火風の龍が存在する

 例外の龍も存在するが生きていて会うこともない筈のそれは置いておこう

 暁くんが言った風龍は龍族のなかで唯一修羅の行動に賛同しついていくことを選んだ異端の龍だ

「下法に堕ちた陰陽師についた風龍は我ら龍のなかでも恥ずべき存在、こちらとしてもいずれどうにかしないといけないとは思っていたが……」

 暁くんの言葉に蒼緋様はブルルっと鼻を鳴らす

「まぁ、なんだかんだとちょうどいいかもしれないな、ちょうどオレのところに弓麻が来て、ちょうどスケープゴートを手に入れて、ちょうどあいつもこちらを狙っているなんてな」

 緊迫したその状態を打ち破ったのは甘羅さんだった

 起きていることにたいして甘羅さんの言葉はあまりにも軽い

「甘羅さん……」

「とりあえずは暁は蒼緋と一緒に帰りな、ここら辺は今は龍の子に取って良い環境とは言えない、密猟者なんかも修羅と繋がりのある組織かもしれないから暫くは蒼緋と離れず、地上には降りないほうがいい」

「分かりました……」

 淡々と話を進める甘羅さんに暁くんもそれ以上は何も言えずに引き下がる

「蒼緋も、よく見てやってくれよ」

 そして蒼緋様にもしっかりと釘を刺す

「勿論、龍の子は我ら龍族の宝だ、しっかり守り育てよう、それでは今回は世話になったな、何か困り事があれば月白にまた狼煙を上げさせよ、力添えしよう」

 言いながら蒼緋様は長い尾を巻いて天に登っていく

「それはありがたいことだ、また、近いうちに呼ぶことになるかもしれないがよろしくな」

 そんな蒼緋様に甘羅さんは手を振って見送る

「帰ったか―」

 それからしっかりと帰っていったのを確認すると手を下ろした

「あの、なんで私が修羅に狙われるなんてそんなことに……っていうかあの方って誰ですか!」

 私は空が晴れていくのを合図に甘羅さんに詰め寄る

 聞きたいことは沢山あった

 何故私が修羅に狙われるのかとか、あの方っていうのが誰なのかとか

「だーかーらー、そんなに矢継ぎ早に聞くなよ……時が来れば全て分かるって」

 だが甘羅さんは答える気がないようでそれだけ言うと私の手から逃れて来た道を戻りだした

「そんな適当な……」

「大丈夫だぞ弓麻や、甘羅と我がいるのだ何も問題ない、心配することはないぞ」

 月さんも私の腕のなかでそんなことを言うがはっきり言ってお門違い

 心配してるとかそういうことじゃなくて私は現状が知りたいのだ

「そういうことー」

 だが甘羅さんも月さんの言葉を肯定して振り返ることすらない

「……わかり、ました」

 私はこれ以上聞いても無駄、ということを悟って甘羅さんの後を追った

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