「月白、とりあえず押さえろ」
「分かっておる」
甘羅さんの指示に月さんは大きく飛び上がるとフーリンカムイを前足で押さえつける
「クォォオォォ!!」
押さえつけられたフーリンカムイはただ苦しそうに叫ぶだけで、人語を介する高位のあやかしにはとても見えなかった
「やっぱり、正気を失ってるってことか……」
そんな様子を見て甘羅さんはふむ、と唸る
「羅刹様! 雷が来ます!」
だが私の後ろにいる暁くんの叫び声にすぐに目の前のフーリンカムイへと視線を戻す
そこではバチバチと青白い雷をを口元で発生させているフーリンカムイがいた
あれを落とされればここら一体が焼け野原となるだろう
私はもしもの時の為に札を構え直す
暁くんを守ることが私の任された任務だ
甘羅さんの霊力の練り込まれた札であればもしくは
「雷……フーリンカムイにそんな力は……ああ、そういうことか……」
甘羅さんはまた考える様子を見せるが今にもフーリンカムイの雷は放出されそうで
「甘羅さんっ……」
「大丈夫ー、撃たせないから、禁!」
私が慌てて名前を呼べば甘羅さんは少しも慌てた様子を見せずに札を構えて術を唱えた
瞬間札が光り放たれた緋色の波動がフーリンカムイに届いた瞬間雷は跡形もなく消え去った
「能力の緊縛術……!?」
陰陽師の使う術には数多の種類がある
それは家系や個人でも違う
だが基礎の術というのが存在し、それが壁や縛といった防御や拘束の術である
それ以外にも攻撃用の術などもある
そしてこれらにも使うにあたっての難易度というものが存在する
禁というのは相手の陰陽的な力を無理矢理封じる術であり、その難易度は低、中、高に分けるのであれば紛れもなく高難度の術である
一端の陰陽師においそれとは使えない代物だ
「ギァオォ!!」
雷が解かれたタイミングで月さんがフーリンカムイの嘴に前足をかけて押さえつける
「甘羅や、押さえたぞ」
月さんのその体格に押さえられて禁をかけられたフーリンカムイはなす術もない
「よくやった月白、縛」
「クォォ……!」
そんなフーリンカムイにたいして縛で作り出した土蜘蛛を押さえた時よりもより強度がありそうな太い鎖でさらに拘束を強める
それを確認した月さんはポンッと音をたてて元の猫と見間違う見目に戻り甘羅さんの肩へと飛び乗った
「さて、と……確認確認、あーやっぱりあったか」
鎮圧されたフーリンカムイのほうへ甘羅さんはいそいそと近付くと羽毛をかき分けて額をまさぐり何かを取り出した
「甘羅さん、それは……?」
私は甘羅さんの手に持つ、何か嫌な赤い光を放つ石を見ようとするが
「これは、秘密ー、まぁあやかしを強制的に従わせる道具、とだけ」
甘羅さんはそれだけいうとそそくさとそれを胸元にしまってしまった
「フーリンカムイは……操られていたんですか?」
石を外したきり動かなくなってしまったフーリンカムイに視線を送る
「そ、今はこれを外した反動で眠ってるけど起きたら帰ってくだろうなー」
「おいおい、これは一体全体なんだってんだ」
甘羅さんの説明の後に聞くのは今日2度目になるその声のほうを見る
「強い霊力を感じて来てみればフーリンカムイですって!? しかものされてるなんて誰が……」
「落ち着け、とりあえずは話を聞かせていただけるか甘羅殿、そちらにいる龍の子の件に関しても詳しく話していただきたい」
慌てた様子の弓近兄様と風麻姉様を鳳炎兄様がたしなめて甘羅さんに問いかける
「なんだお前ら追ってきたのかー?」
「バカ言え、八多比原からそう遠くない場所で力が観測されたんだその場にいたオレ達が派遣されるのは当たり前だろうが!」
呆れた様子でそちらを見やる甘羅さんに弓近兄様はキレた様子でそう返す
「弓近、落ち着きなさい、とりあえず聞きたいことは……そのフーリンカムイを制圧したのは貴公で間違いないな?」
鳳炎兄様は言いながらフーリンカムイを指差す
「いんや、オレじゃあないぜ」
だが甘羅さんはそれを真っ向から否定する
「はぁ? お前に出来るとも思わないがじゃあ誰がこんなこと出来るって言うんだよ」
「もう一人、目の前にいるじゃねーか、こいつだよこいつ」
甘羅さんはにやにやと笑いながら私の肩を掴んで三人の前に押し出す
「え……私っ……」
「そう、私私、弓麻がやったんだよなぁこれが」
確かに甘羅さんは自分のすることは全て私のしたことにすると言っていたし私もそれに賛同した
だがいきなり出来損ないがはい、フーリンカムイ倒しましたーなんて言い出したらそれこそ明日槍が降るだろう
「そ、そんな訳ないだろ! 術もまともに使えないやつが……」
「陰陽の力っていうのはいつ覚醒するか分からない力だ、水龍の子を狙う操られたフーリンカムイを目の前にして危機を脱するために覚醒した弓麻がやってのけたんだ、それが事実だ認めろよ、なぁお三方?」
弓近兄様が焦ったように言うそれを遮って甘羅さんは語る
そして三人を見据えてニヤリと笑って見せた