「なんか、色々と理由がありそうだが話は後だな、フーリンカムイ! ここはお前の寝床ではないだろう、荒らしてもいない、何故いきなり攻撃をしてきた」
甘羅さんは後ろ手に暁さんや私達を庇ってフーリンカムイに語りかける
本来であればフーリンカムイは人語を理解し人間にも温厚なあやかし、そう本来であればその筈だ
だが今目の前にいるフーリンカムイの瞳孔は開き甘羅さんの呼び掛けにも答えようとする様子はない
それどころかフーリンカムイはそのまままたその大きな足を振り上げて攻撃の体勢を取った
「……聞く耳なし、もしくは聞こえてすらいないのか、まぁとりあえず制圧するか、だが庇いながらはなぁ、龍の子を傷つけるわけにもいかないし仕方ないな」
甘羅さんはうんうんと自問自答した後に軽くため息を吐いて胸元から短刀を取り出してざっくばらんに後ろ手に縛られている髪の毛の一房にあてがいなんの躊躇もなく切り離した
「喰え、月白」
甘羅さんの合図に呼応するように私の腕のなかから月さんが飛び出して甘羅さんの手から離れ落ちた髪の束に噛みついた
月さんの食んだ髪の毛は青白い炎に代わりそのまま月さんの身体を包み込み、業火となったその後に現れたのは二股の猫、ではなく九尾の大狐だった
「ふむ、この姿になるのも果たしていつぶりのことやら、さて甘羅や、あの小鳥、どうしてくれよう、喰っても構わんか?」
「駄目に決まってるだろ、機を見てオレが術で押さえ込む、だから弱らせろ月白」
普段と違う二人の会話に唖然としているとくるりと甘羅さんがこちらを向く
「龍の子は、お前に任せた、後ろに被害が行くことはまぁ、ほぼ100%あり得ないが、頼めるか?」
私はその言葉に身を引き締めると装具から札を取り出した
私みたいな出来損ないに何かを頼もうなんて人は今までいなかった
私の行動理由はそれ一つで十分で
「この子には、掠り傷一つ負わせません」
現状の展開に置いていかれていようとも、私は啖呵を切ったのだった
「そうこなくちゃな」
私の返事に満足したようで甘羅さんは少し広角を上げて目の前の巨鳥へとまた向き合うのだった