「さて、禍月の山に入るまえに、言っとくことがある」
八多比原からさして遠いところではない禍月の山の入口にたどり着くと甘羅さんは月さんを抱き抱えてこちらを振り向いた
「一つ、何があっても絶対にオレより前に出るな、今日はお前の訓練でもないから、何かあってもオレの後ろにいれば月ちゃんが守ってくれる、それと、オレ、戦うけどその様子を絶対別の誰かに吹聴するなよ、それからこれが一番大事、ちゃんと聞いとけよ」
甘羅さんはそう言って少しにやけた顔で私の肩に手を置いてこう言った
「これからオレがすることは、全てお前が成したことにする」
「……はぁ!?」
つい口をついてすっとんきょうな声を漏らすが甘羅さんは気にせず続ける
「オレは訳あって目立てない、だから余り表だって行動が出来なかったんだが最近そうも言ってられない状況になってて、そこにお前が丁度来てくれた、力を付けたいっていう意志があってそこそこ頭も切れる、それに何よりこの1ヶ月ちょっと観察してた限りではわざわざオレのことをバラすこともしないだろうという見解に至った、つまりのところオレはお前を鍛えお前はオレの替え玉を勤める、そういうこと」
Win-Winな関係だ
そう締めくくると甘羅さんは私の肩をトントンと叩いて月さんをこちらへ差し出してくる
「確かになんでもするとは言いましたが……」
私は苦言を呈しようとしながらも月さんを受けとる
まぁその行動の時点で私がその提案を飲んだようなものなのは明確だったようで甘羅さんはくるりと背中を向けると山の中へと入っていった
「あ、待ってください!」
私は慌てて甘羅さんの後をおった
この山はあやかしの巣窟
それなのに、何故か恐怖は感じなかったのはこんな会話をした後だったからだろうか