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第2話 採用

「ここが御霊陰陽局か……」

 私は地図を片手に一つの建物の前に立っていた

 ただ本当にここで合っているのだろうか

 寂れたビルにボロボロの看板

 着いてそうそう不安になる出で立ちだ

 だがこんな私を受け入れてくれると言ってくれたのはここだけ

 勇気を出して階段を上る

 家を飛び出したはいいがどの陰陽局に行っても払えないとしれば門前払い

 良くて事務でよければと言われるだけ

 だがここだけは電話をした時に力が弱いと話しても大歓迎だと喜ばれ面接がしたいとここへ呼ばれた

 もしかしたら詐欺かもしれないと怪しみつつ結果ここしかなくこうして訪れた

 階段を三階までのぼればこれまたみすぼらしいドアが見えてきた

 ドアの目の前で大きく深呼吸する

 歓迎だと言われたが面接でミスをすればまたダメになるかもしれない

 私は緊張しながらドアをノックして扉を開いた

「失礼しま一一」

「よく来てくれたっ!!」

 こういうことは初めが肝心だと意気込んでした挨拶は大きな声にかき消された

「さぁさぁ座ってくれ! いやはや粗茶しか出せなくて申し訳ない」

「えっ、と……」

 私は言葉に詰まる

 開かれた扉の先

 部屋のなかには私が見渡す限り声の発信源がいない

 机の上に白い猫が一匹いるだけだ

 だが促されたのであればと部屋のなかに置かれたボロボロのソファに腰かけようとして動きを止める

 ソファには既に先客がいた

 仰向けに寝転がり顔のうえに開いた本を置いている恐らく少年

 ということはこの少年が声の主だろうか

 だがそれにしては微動だにしない

「何をしている、座ってくれ座ってくれ、って主人!! 何をしている早く座らんかっ! そして客人に茶をいれろっ!」

「うぐぅっ!!」

 私が困惑している間に先ほどの猫が駆け寄ってきて思い切り少年の腹を踏みつけた

 踏みつけられた少年はうめきながらソファから落ちて腹を押さえながら立ち上がる

「月ちゃんいきなりひでぇよ……」

 立ち上がった少年は気だるそうに頭をぽりぽりとかきながら歩いていきお茶をいれはじめる

「申し訳なかったな、さてさて座ってくれ」

 猫は言いながら目の前のソファにちょこんと座る

 先ほどの主人という呼び方に二股に分かれた尻尾

 なるほどこの猫は彼の式神なのか

 それにしては容赦ない蹴りだったが

「……本日はお時間いただきありがとうございます、ご挨拶が遅れて申し訳ありません、継千帝弓麻と申します」

 私は促されるままソファに座るととりあえず猫に挨拶をする

「そんなにかしこまらんでよいぞご客人、我は見ての通りただの式神じゃ、我の名は月、そしてあっちが我の主人だ、おい主人! 茶はまだか! 早く来て自己紹介しないか!」

「だから月ちゃんそんな叫ばないでって、はいどーぞ」

 少年はおぼんにお茶を3つのせてやってくると私の前に一つ置いて月さんの前にも置き月さんの隣に座った

「あ、ありがとうございます……」

 私は軽く会釈して返す

「んじゃ改めて、オレは甘羅、この月ちゃんの主人で御霊陰陽局の社長、っていっても所属陰陽師オレしかいないんだけど」

 言い終わると甘羅さんは欠伸しながら軽くのびをする

 甘羅さんはパーカーにスウェットといういたってシンプルな格好だ

 髪の毛は普通の長さだが後ろでなん房かに所々伸ばしている髪の毛を結んでいるのは特徴的だ

 だがそれ以上に右目の下に書かれた不思議な模様が気になる

 こうして身体に術を施すのは陰陽師ではよくあることだが今まで見てきた印のなかにこんなものは見たことがない

 私の勉強不足か、あるいはただのファッションだろうか

「ふーん、継千帝っていったらかなり名の知れた陰陽師の一族じゃん、なんでまたわざわざこんなボロボロの事務所に」

 甘羅さんは不思議そうに首をかしげる

「おい主人! 電話の対応は我がしたがその後にちゃんと伝えたではないか!」

「ごめん聞いてなかったわ」

「あ、それでしたら説明します」

 2人のやり取りを見て私が手をあげる

 甘羅さんは私がなぜここに来ることに至ったのか知らない

 ということは最悪また断られる可能性もあるということ

 でも事実を隠してもしょうがない

「私は陰陽師の名家である継千帝の家に産まれましたが陰陽の才がありませんでした、あやかしを認識することは出来るのですが払えるほどの力もなく、家ではお荷物扱い、それに反発して家を飛び出しこうして民間の陰陽師への就職活動中という訳です」

「じゃあ陰陽師としてはなんも出来ないわけだ」

 甘羅さんは私の話を聞くとスパッとぶった切った

「主人!!」

 それを月さんがたしなめる

「あ、いいんですその通りですから」

 まぁストレートすぎて若干傷ついた感はあるが

「で、例えばここに入れたとして君は何をするんだ? 事務仕事は嫌なんだろ、でもなにかをする力も持ってない、この事務所に入ってこちらに何かメリットは?」

 事務仕事が嫌だと言うことは電話でしか伝えていない

 今の話の中には入っていなかった内容だ

 つまり彼、甘羅さんは元より月さんからの言伝てを聞いていなかった訳ではなかったということだ

「陰陽師としての力は産まれながらに才を持っているものが優れている、ですが鍛練で培える部分だってある、だから私は誰かに鍛えていただきたい、先ほどは就職と言いましたがどちらかと言えば弟子入り先を探しているのです、もし師事させていただけるのでしたら雑用でも事務でも何でもやります!」

 私は言いきると誠心誠意頭を思い切り下げる

 もう何件断られたか分からない

 これで決められなければまた一から話を聞いてくれるところまでこぎ着けなければいけなくなる

「……まぁ別にオレは構わないんだけどさ、何件も断られてなくなくここになだれ込んできたことぐらいはわかる、だってオレの局超有名でしょ、悪い意味で、そんなオレに師事仰いだってなんの勉強にもならないとか思わないわけ?」

 そう、この人

 甘羅さん、というより御霊陰陽局は陰陽師の中では悪い意味で有名だ  

 理由は至って単純

 所属している陰陽師はたったの一人

 その上甘羅さんは出生不明であやかしを祓うのにも消極的で実力もそこまで高くないと言われている

 陰陽師は家柄や家系を重んじる為出生不明の甘羅さんは煙たがられているのだ

 勿論無名の家の出でも成功している陰陽師はいるが仕事にこうも消極的では好印象は持たれない

「確かに良い評判は聞きませんでした、しかしこちらに来るまでにこの陰陽局のことはちゃんと勝手ながら調べさせていただきました」

「それで?」

「貴方が参加したあやかしの討伐記録はどれも大型だったり強力なあやかしばかり、しかしそのどれでも討伐自体には貢献したという記録はない、ですがその場にいてすべての戦闘において生き延びている、それだけで充分に実力があると判断するに余りあるのではないでしょうか?」

 とどのつまり

 言葉にはあえてしていないがこの人はあえてこの落ちこぼれという汚名を背負っているのではないか

 というのが私の見解だ

 まぁ実際のところ最初からそう思っていたわけではなく他のところで断られまくった後にここに電話をする前にしっかり下調べしたことで気づいたのだが

「……ふっ」

 私の説明を聞くと甘羅さんは少しぽかーんとした後に軽く吹き出した

「……何か変なことを言いましたでしょうか?」

「いや面白いな君、その感じだと断られた局全部行く前にしっかり下調べしてるんだろうなーって」

 全くもってその通りだ

 面接を申し込む前の電話をする段階でその陰陽局のことは調べられる限り調べている

 その局のやり方や記録を見て私の考えに合わない場所は避けるためだ

 だがそれくらい当たり前ではないのだろうかとも疑問に思うが

 就活だろうと弟子入りだろうとやる前に調べるのは基本だ

「いぶかしそうな顔してるけど、別に調べた事が面白いって言ってる訳じゃない、物事の捉え方だよ、オレが大きな祓いに参加して何も戦果をあげずに帰ってきた記録を見れば基本何の役にも立っていない点に目をつけるが、生き残ってるってことは実力があるなんて考えはなかなかしない、人間悪いところのほうが目につくからな」

「はぁ……」

 本人は楽しそうに話しているが目が死んでるせいでいまいち何が言いたいのか汲み取れない

「つまりは採用ってこと、明日から来な、簡単な生き残る術ぐらいは教えてやる、でも弟子は取ってないから従業員ってことで、まぁそれよりも大切な役回りを君にはしてもらうことになるけどね」

「大切な役回り、ですか?」

「まぁそれはその時まで内緒」

 甘羅さんはそう言うと片目をつぶって見せた

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