昼食の最中、最近人が増えた気がするという話をオレがしたら、航太は平然と答えた。
「ああ、『幕引き人』が増員されたらしいな」
「え、マジで?」
航太はトマト牛丼を食べながら返す。
「今回は三十人雇ったっていう話だ」
思わずオレは眉間にしわを寄せた。
「多くね?」
「うん、多いな。僕たちの時は十二人だった」
およそ三倍もの人数を一気に雇ったことになる。
すげぇな、終幕管理局。何しようとしてるんだ? なんて思いながらも口には出さず、オレは冷やし中華をすする。
咀嚼の後で飲み込み、言う。
「やっとオレたちにも後輩ができるってわけか」
「そうなるな」
言ってからふっと航太が笑い、オレは少し不快になった。
「何だよ、その笑い。何か企んでるだろ」
「いや、ここへ入ったばかりの頃を思い出しただけさ」
一年と三ヶ月前のことが無意識に思い出される。オレと航太が出会ったのもその時だ。
「お前の第一印象、すごく悪かったよ」
「こっちこそだ」
と、オレはにらみながら返すが、航太の笑みは変わらなかった。
「誰ともつるもうとしないし、アトラリスス語でぶつぶつ言ってるし、あの時は派手な金髪だったよな」
「航太はみんなにちやほやされてたな。すげームカつくって毎日思ってた」
「それは初耳だな。でも、今は恋人同士だ」
満足気に言う航太がムカつくほど憎らしく、オレはふんと視線をそらす。
「お前の押しが強かったんだ」
「でも嫌がらなかったのはお前だ」
即座に返されてオレはムッとする。じわじわと頬が熱くなっていく。
「っつーか、何でオレなんだよ? お前の周り、いっぱい人がいるだろ」
と、たずねると、航太はどこか意外そうな顔をした。
「可愛いからに決まってるじゃないか」
「だから、他にもいるだろって言ってんだよ」
別にオレ以外の誰かのところへ行ってほしいわけじゃない。むしろ行かないでほしい。
でも、どうしてオレなのかは気になる。
すると航太はオレの気持ちを察したらしく、にこりと笑った。
「意識したのは、楓がエイドス分解方程式の話を振ってきた時だな」
思わず心臓が跳ねた。オレが彼を意識したのもその時だった。
「お前、僕のことを馬鹿にしてただろう? でも、僕が方程式を知ってると分かった途端に、いろんな話をしてきた。ああ、こいつはただ話の合う人間を見つけられずにいただけなんだなって気づいて、可愛く思えたんだ」
「……そ、そうか」
オレは顔が真っ赤になっているのを感じ、黙って食事に集中した。
航太がくすりと笑う声がした。