昼休みの食堂は常ににぎやかだが、ここ最近は特ににぎやかな気がする。どうしてだろうかと考えて、もしかして人が増えたのではないかと思った。
そんな話を何気なく航太にしたら、彼は平然と答えた。
「ああ、『幕引き人』が増員されたからな」
「え、マジで?」
航太は夏季限定のトマト牛丼を食べながら返す。
「今回は三十人雇ったっていう話だ」
思わずオレは眉間にしわを寄せた。
「多くね?」
「うん、多いな。僕たちの時は十二人だった」
およそ三倍もの人数を一気に雇ったことになるのか。すげぇな、終幕管理局。でも、それくらいアカシックレコードが逼迫しているということでもある。
オレは冷やし中華をすすり、咀嚼の後で飲み込んでから言った。
「研修は四ヶ月だったな」
「ああ。その後は二ヶ月の調整期間があるから、配属されるのはまだ先だ」
「三ヶ月なんてあっという間だよ。どんな後輩が来るのか、楽しみだな」
にやりとオレが笑うと、航太はどこか馬鹿にするような笑みを浮かべた。意地悪を言おうとしている時の顔だ。
少し身構えつつオレは不快感を表情に出す。
「何だよ、その笑い。何か企んでるだろ」
「いや、ここへ入ったばかりの頃を思い出しただけさ」
一年と三ヶ月前のことが無意識に思い出される。オレと航太が出会ったのもその時だ。
「お前の第一印象、すごく悪かったよ」
「こっちこそだ」
と、オレはにらみながら返すが、航太の笑みは変わらなかった。
「誰ともつるもうとしないし、アトラリスス語でぶつぶつ言ってるし、あの時は派手な金髪だったよな」
「航太はみんなにちやほやされてたな。すげームカつくって毎日思ってた」
「それは初耳だな。でも、今は恋人同士だ」
満足気に言う航太が憎らしく、オレはふんと鼻を鳴らして視線をそらす。
「お前の押しが強かったんだ」
「でも嫌がらなかったのはお前だ」
即座に返されてオレはむっとするが、じわじわと頬が熱くなっていく。
「っつーか、何でオレなんだよ? お前の周り、いっぱい人がいるだろ」
航太はどこか意外そうな顔をした。
「可愛いからに決まってるじゃないか」
「だから、他にもいるだろって言ってんだよ」
別にオレ以外の誰かのところへ行ってほしいわけじゃない。むしろ行かないでほしい。でも、どうしてオレなのかは気になる。
すると航太はオレの気持ちを察したらしく、にこりと笑った。
「意識したのは、楓がエイドス分解方程式の話を振ってきた時だな」
思わず心臓が跳ねた。オレが彼を意識したのもその時だった。
「お前、僕のことを馬鹿にしてただろう? でも、僕が方程式を知ってると分かった途端に、態度を変えて
「そ、そうだっけ……」
耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かる。
「話の合う人間を見つけられずにいただけなんだなって気づいた途端、可愛くてたまらなくなったんだ」
「へ、へぇ」
オレがぎこちなく相槌を打つと、航太がたずねてきた。
「楓はどうなんだ? 僕を意識したのはいつだった?」
脳と心が反発し合った末、オレは周囲のにぎわいにかき消されるような声量で言った。
「トノル・ゥンザァ・シャ」
航太の耳には届いたらしい。笑みをいっそう深めて返した。
「フィィラッサ」