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☆第23話 酒を飲むと本性が出る

 楓が酒を飲んだことがないと言うので、泊まりに来た日に飲ませてみた。コンビニで買ったスパークリングワインだ。

 最初こそ「美味い」と、ご満悦な様子だったのだが……。

「おーい、楓。大丈夫かー?」

 僕の向かいで楓は目をとろんとさせていた。頭も心なしかふらふらと揺れている。

 まだグラスの半分ほどしか飲んでいないのに、もう酔ったらしい。

「だい、じょぶ……」

 ふにゃっとした笑顔で返す彼を見て、これはもうダメだと思った。相手をしていたら僕の理性が崩壊する。

「もう眠いんじゃないか? 寝た方がいいぞ」

「ねむく、ない」

「ダメだ、寝てくれ」

「うーん?」

 とりあえず楓の手からグラスを取り上げる。

「もうお酒は終わりにして」

「おわり?」

「そう、終わりだ。僕の理性が終わる前に、どうか大人しく眠ってくれ」

 言いながら立ち上がり、楓のそばへ移動した。

「ほら、立って」

 じっと僕を見上げた楓は、普段は見せない無邪気な顔で笑った。

「だっこー!」

「何だって?」

 楓は両腕をこちらへ伸ばし、駄々っ子のように繰り返す。

「だっこして、こーた」

「待て待て待て待て」

 本当に理性が終わりそうになってきた。やばい、これはまずいぞ。

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、しぶしぶ楓を姫抱きにする。知っていたが、軽い。

「えへへ」

 嬉しそうに笑い、ぎゅっと抱きついてくる楓。

 酒を飲むと本性が出るとはよく言うが、こんなに甘えん坊だったとは。いや、薄々気づいてはいたけれど。

 隣の部屋のベッドまで運び、そっと下ろす。

「ほら、横になって」

「うん」

 大人しく寝転がる楓だが、視線はずっと僕を見ている。

「こーたのにおい、すき」

 くすくすと笑いながら楓がつぶやき、取り戻したはずの理性に再びひびが入る。

「お前の匂いだってまざってるよ」

 と、わざと呆れたように言ってから、彼の体にタオルケットをかけてやった。

「おやすみ、楓」

 と、ベッドから離れようとした直後、楓が言った。

「おやすみのちゅーは?」

「は!?」

 あまりに不意打ちすぎて、僕らしくない声を出してしまった。

 見ると、楓は両目を閉じて唇をこちらに突き出している。

 ……そういえば、いつもキスをしてから眠ってたな。僕の自己満足だと思っていたが、楓もまんざらではなかったらしい。

「分かった」

 僕は床へ膝をつき、そっと唇を重ねた。すぐに離して立ち上がり、部屋を出ようとすると。

「こーた」

 名前を呼ばれると同時に、今度は手をつかまれた。

「何だ?」

 そろそろ理性が終わりそうなので早いところ離れたいのだが、楓はにこにこと嬉しそうに微笑みながら言った。

「だいすき。おやすみ」

 と、僕の手を離す。

「……おやすみ」

 真顔で返してからダイニングへ戻り、部屋の扉をそっと閉める。

「……」

 抑えていた心臓が一気に高鳴り始めた。

 何なんだ、さっきのは! 可愛すぎないか!? アトラリスス語だけでなく、酒を飲ませても好きって言ってくれるのか!?

 どうして普段はあんなに頑ななんだ! いや、もう全然理解してるけど! でもやっぱり、直接好きって言われたらドキドキしちゃうじゃないか!!

 その場にしゃがみ込み、僕は熱くなった頬を押さえながらため息をつく。

「何なんだよ、本当。ますます好きになっちゃうじゃないか……」

 可愛すぎる。でも、もう酒を飲ませるのはやめようと、僕は心に決めたのだった。

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