三ヶ月に一回、オレたちにはメンテナンスと呼ばれる身体検査がある。虚構世界へ入る時、現実と同じように動けるよう、設定を合わせておく必要があるのだ。
特に体重は変動しやすい人もいるため、定期的なチェックが欠かせなかった。
すべての検査を終えて更衣室へ戻ると、航太がオレの体をじっと見ながら言った。
「お前、本当に痩せてるよな。体重何キロだ?」
細いとはよく言われるが、実質的に言うとオレの筋力は普通の地球人より少ない。無重力空間で育ったため、筋肉があまり発達しなかったのだ。
「五十キロ」
「うーん、二十八キロも差があるのか」
と、航太はつぶやいてから着替えを始めた。
「これでも前よりは太った方なんだぜ」
「それにしても細い。時々、骨折させてしまわないかと心配になる」
「その心配はいらない。子どもの時からずっとサプリ飲んでっからな」
筋トレも多少はしたものの、元々筋肉のつきにくい体質らしく、結果が出る前にやめてしまった。一方で骨密度は高く保てるよう、毎日サプリメントを摂取している。
「ところで、
航太がたずね、オレはシャツのボタンを留めながら言う。
「ああ、やっぱバグってたんで修正してもらった。次からはもう大丈夫だ」
「よかったな。武器が使いづらいと仕事に支障が出る」
「見た目的には刃こぼれしてただけだけどな」
と、オレは少し笑った。
破砕機は虚構世界で使用する道具、いわゆる武器の総称だ。オレが使用するのは大きな鎌で、その刃が一週間ほど前からバグっていた。先端が欠けて虚構の住人に与えるダメージが半減してしまったのだ。
「実は僕も少しだけ改良してもらった」
ズボンに足を突っ込みながらたずねる。
「へぇ、どんな風に?」
「これまでより速度が出るようにしてもらったんだ。といっても、ほんのわずかだけどな」
航太が使うのは長弓だ。逃げ回る住人や、遠くにいる住人を消すのに役に立つ。
「学生時代、弓道部だったんだっけ」
「ああ、そうだ。大会にも出たことがある」
こうした得意を活かせるのが破砕機のいいところだ。ちなみにオレが大鎌を使っているのは、一気に刈り取れて楽だから。
「かっこいいよな、弓」
何気なくオレが返すと、航太がにやりと笑った。
「僕のことをかっこいいと言ったのか?」
「ち、違っ……」
思わず顔を赤くして言い返すオレだが、航太は顔を近づけてくる。
すると、すぐ後ろを三柴さんが通り過ぎた。
「更衣室でいちゃつくのはやめてね」
と、まるで誰かさんのように言いながら。
オレたちははっとして、黙々と着替えに集中するのだった。