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第21話 彼氏なんだから

 次の日、航太はさっぱりとした顔をしていた。どうやらもう吹っ切れたらしい。

 虚構の住人を弓矢で的確に撃ち抜く姿は、以前に増してきりっとしていてかっこよかった。やっぱりオレの彼氏はかっこいい。たぶん、宇宙一。

 午前中の仕事を一通り終えると、昼休みまで少し時間があった。

 土屋さんがポーチを片手に廊下へ出て行き、室内に二人きりになったところで航太が言った。

「昨日はごめんな」

「何のことだよ?」

「いや、その……弱いところを見せてしまった」

 航太は申し訳ないとでも思っているのか、めずらしくうつむいている。

 オレは椅子の背に体重をかけて天井を仰ぎつつ返した。

「お前が本当はネガティブなやつだってことくらい、とっくに知ってるし」

「……え、本当に?」

 驚いたように航太が言い、オレは顔を向けてにやりと笑う。

「真面目すぎてネガティブになるんだよな、航太は。ポジティブなのは好奇心が強いからだし、時々そのバランスがくずれるんだ」

「そ、そうかもしれない……」

 と、航太はショックを受けた様子だ。そしてつぶやくようにぼそりと言う。

「けっこう僕のこと、分かってるんだな」

「当然だろ。オレはお前の彼氏なんだから」

 オレが即答すると何故か室内がしんとなる。

 航太はうつむいていた顔を上げ、こちらを見つめながら真面目な顔で言った。

「楓、ちょっとトイレに行かないか?」

 オレは不機嫌な顔を作って言った。

「行かねぇよ」

「じゃあキス、キスさせてくれ」

 と、席を立って迫ってくる。慌ててオレは両手を出してガードする。

「やめろ。土屋さんが戻って来る」

「大丈夫だ、女性のトイレは長い」

 航太はそう言いながらガードを無理やり突き抜けて、顔を近づけてくる。

「そういう問題じゃねぇよ! A班やB班の人たちだって、そろそろ戻ってくる頃だろ!?」

 オレが叫んだ直後、土屋さんが戻って来た。

「何してんのよ、あんたたち」

 じとりとした目で言われ、オレはそっと航太から視線を外す。

 航太は残念そうにしながらもキスをあきらめると、さっと自分の席へ戻った。

「何でもありません」

「……まったく、職場でいちゃつくのはやめなさい」

 呆れたように言いながら土屋さんがデスクへ着き、オレはほっと胸を撫で下ろした。やっぱり誰かに見られるのは嫌だ、恥ずかしい。

 だけど、仕事が終わった後にきっとまた航太に迫られるんだろう。もしかすると、今日は泊まりになるかもしれない。

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