次の日、航太はさっぱりとした顔をしていた。どうやらもう吹っ切れたらしい。
虚構の住人を弓矢で的確に撃ち抜く姿は、以前に増してきりっとしていてかっこよかった。やっぱりオレの彼氏はかっこいい。たぶん、宇宙一。
午前中の仕事を一通り終えると、昼休みまで少し時間があった。
土屋さんがポーチを片手に廊下へ出て行き、室内に二人きりになったところで航太が言った。
「昨日はごめんな」
「何のことだよ?」
「いや、その……弱いところを見せてしまった」
航太は申し訳ないとでも思っているのか、めずらしくうつむいている。
オレは椅子の背に体重をかけて天井を仰ぎつつ返した。
「お前が本当はネガティブなやつだってことくらい、とっくに知ってるし」
「……え、本当に?」
驚いたように航太が言い、オレは顔を向けてにやりと笑う。
「真面目すぎてネガティブになるんだよな、航太は。ポジティブなのは好奇心が強いからだし、時々そのバランスがくずれるんだ」
「そ、そうかもしれない……」
と、航太はショックを受けた様子だ。そしてつぶやくようにぼそりと言う。
「けっこう僕のこと、分かってるんだな」
「当然だろ。オレはお前の彼氏なんだから」
オレが即答すると何故か室内がしんとなる。
航太はうつむいていた顔を上げ、こちらを見つめながら真面目な顔で言った。
「楓、ちょっとトイレに行かないか?」
オレは不機嫌な顔を作って言った。
「行かねぇよ」
「じゃあキス、キスさせてくれ」
と、席を立って迫ってくる。慌ててオレは両手を出してガードする。
「やめろ。土屋さんが戻って来る」
「大丈夫だ、女性のトイレは長い」
航太はそう言いながらガードを無理やり突き抜けて、顔を近づけてくる。
「そういう問題じゃねぇよ! A班やB班の人たちだって、そろそろ戻ってくる頃だろ!?」
オレが叫んだ直後、土屋さんが戻って来た。
「何してんのよ、あんたたち」
じとりとした目で言われ、オレはそっと航太から視線を外す。
航太は残念そうにしながらもキスをあきらめると、さっと自分の席へ戻った。
「何でもありません」
「……まったく、職場でいちゃつくのはやめなさい」
呆れたように言いながら土屋さんがデスクへ着き、オレはほっと胸を撫で下ろした。やっぱり誰かに見られるのは嫌だ、恥ずかしい。
だけど、仕事が終わった後にきっとまた航太に迫られるんだろう。もしかすると、今日は泊まりになるかもしれない。