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第20話 不幸な星

 予定していなかったが、オレは航太の部屋へ行くことにした。あまりにも彼の様子がいつもと違って暗いからだ。

 夕飯はファストフード店で買ったハンバーガーをテイクアウトした。

 食べた後に片付けをすることもなく、航太はオレをベッドへ押し倒した。

「ごめん……こう見えて、けっこう落ち込んでるんだ」

 と、甘えるようにオレをぎゅうと強く抱きしめる。

 オレは大人しく抱かれたまま返した。

「見れば分かるよ。夕飯はハンバーガーだし、ずっと泣きそうな顔してたし」

「……少し、自信がなくなってしまった」

 深瀬さんの言葉を脳裏に思い出し、やっぱり航太には向いていないのかもしれないと思う。

「今にして思えば、たしかにあの時の僕はどうかしていた。消去対象の虚構を消したくないなんて、ひどいわがままだし、公私混同もはなはだしい。でも、僕があの物語を読みたいと思ったのも、事実なんだ」

 航太は物語を愛している。小さな頃から本が好きで、特にミステリーを好んでいて。

「あらためて『幕引き人』は業が深いと思った。だけど、そうしなくちゃいけない理由も、事情も分かっているから、こんなところで迷っている場合じゃないんだ」

 航太はどうやら迷子になってしまったらしい。それなら、オレが導いてやらないと。こっちだよって、手を取ってやらないと。

「人類は増えすぎたんだ。昔、どこかの種族が言ってた。知的生命体として理想的な進化を遂げたけど、数が増えすぎたのが問題だって」

 航太がオレを離して隣へ寝転ぶ。オレは寝返りを打って彼と向き合う。

「増えれば増えるほど、切り捨てなくちゃいけないものは増えていく。貧しい人を一人残らず救うことはできなくなるし、不公平や理不尽も増えていく。だから地球は不幸な星なんだ、って」

 航太がゆっくりとまばたきを繰り返す。

「アカシックレコードの問題は、他の種族たちもどうにかしたいと思ってる。だから、増えすぎた人類の一人でしかないお前が、迷うことなんてないんだ」

「……でも、僕がやらないと」

 苦しそうに航太が返し、オレは少し語気を強めにする。

「分かってる。航太は責任感が強いし、自分でやらないと気がすまないんだろ? でもさ、嫌ならやめたっていいんだ。もちろん、反対派になったら困るけど」

 オレが冗談めかして言うと、航太がやっと穏やかな表情を見せた。

「反対派になるのも悪くないな」

「やめろよ。そうなったらオレたち、敵同士になっちまうだろ」

 と、オレは少し笑いながら返す。

 航太もくすくすと笑いながら言った。

「おもしろいな。敵同士なのに恋人なんて、ドラマチックじゃないか」

「おっと、それ以上は言うなよ? 『創造禁止法』に違反するぞ」

「分かってるよ」

 ふといつものようににこりと微笑んで、航太は上半身を起こすと、軽く唇を重ねた。

「もう少し考えてみる。ありがとう、楓」

「おう」

 オレは少しほっとした気持ちになり、彼の後頭部に片手を回して引き寄せた。

 察した航太がもう一度唇を重ね、今度は長いキスをした。

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