予定していなかったが、オレは航太の部屋へ行くことにした。あまりにも彼の様子がいつもと違って暗いからだ。
夕飯はファストフード店で買ったハンバーガーをテイクアウトした。
食べた後に片付けをすることもなく、航太はオレをベッドへ押し倒した。
「ごめん……こう見えて、けっこう落ち込んでるんだ」
と、甘えるようにオレをぎゅうと強く抱きしめる。
オレは大人しく抱かれたまま返した。
「見れば分かるよ。夕飯はハンバーガーだし、ずっと泣きそうな顔してたし」
「……少し、自信がなくなってしまった」
深瀬さんの言葉を脳裏に思い出し、やっぱり航太には向いていないのかもしれないと思う。
「今にして思えば、たしかにあの時の僕はどうかしていた。消去対象の虚構を消したくないなんて、ひどいわがままだし、公私混同も
航太は物語を愛している。小さな頃から本が好きで、特にミステリーを好んでいて。
「あらためて『幕引き人』は業が深いと思った。だけど、そうしなくちゃいけない理由も、事情も分かっているから、こんなところで迷っている場合じゃないんだ」
航太はどうやら迷子になってしまったらしい。それなら、オレが導いてやらないと。こっちだよって、手を取ってやらないと。
「人類は増えすぎたんだ。昔、どこかの種族が言ってた。知的生命体として理想的な進化を遂げたけど、数が増えすぎたのが問題だって」
航太がオレを離して隣へ寝転ぶ。オレは寝返りを打って彼と向き合う。
「増えれば増えるほど、切り捨てなくちゃいけないものは増えていく。貧しい人を一人残らず救うことはできなくなるし、不公平や理不尽も増えていく。だから地球は不幸な星なんだ、って」
航太がゆっくりとまばたきを繰り返す。
「アカシックレコードの問題は、他の種族たちもどうにかしたいと思ってる。だから、増えすぎた人類の一人でしかないお前が、迷うことなんてないんだ」
「……でも、僕がやらないと」
苦しそうに航太が返し、オレは少し語気を強めにする。
「分かってる。航太は責任感が強いし、自分でやらないと気がすまないんだろ? でもさ、嫌ならやめたっていいんだ。もちろん、反対派になったら困るけど」
オレが冗談めかして言うと、航太がやっと穏やかな表情を見せた。
「反対派になるのも悪くないな」
「やめろよ。そうなったらオレたち、敵同士になっちまうだろ」
と、オレは少し笑いながら返す。
航太もくすくすと笑いながら言った。
「おもしろいな。敵同士なのに恋人なんて、ドラマチックじゃないか」
「おっと、それ以上は言うなよ? 『創造禁止法』に違反するぞ」
「分かってるよ」
ふといつものようににこりと微笑んで、航太は上半身を起こすと、軽く唇を重ねた。
「もう少し考えてみる。ありがとう、楓」
「おう」
オレは少しほっとした気持ちになり、彼の後頭部に片手を回して引き寄せた。
察した航太がもう一度唇を重ね、今度は長いキスをした。