見慣れない部屋で目が覚めた。ここはどこだと怪訝に思った直後、昨夜のことが思い出されて眠気が吹き飛ぶ。
そうだ、航太の部屋に泊まったんだった!
耳を澄ますと隣の部屋から音がする。どうやら航太が朝食を作っているらしい。
そろそろと起き上がり、脱ぎっぱなしになっていた下着を履いた。Tシャツを着て、ズボンは……まあいいかと思い、そのままの格好で部屋の扉を開けた。
気づいた航太が振り返り、にこりと笑う。
「おはよう、楓。朝ご飯、出来てるぞ」
「お、おはよう」
食卓にはおにぎりが並んでいた。味噌汁とたくあんもある。
「具は梅干しとおかかにしてみたんだが、大丈夫だったか?」
朝からおにぎりが食べられるなんて最高だ! と思いつつも、オレは素っ気なく「うん」とだけ返して席へ着いた。
「いただきます」
きちんと両手を合わせてから、おにぎりを手に取った。口へ運ぶと、巻かれた海苔がパリッと音を立て、ふわふわの白米と一緒に入ってくる。
ちょうどいい塩加減、たっぷり入った具。梅干しの素朴な酸っぱさが朝の目覚めにぴったりだ。
「美味い……」
本当に航太は何でもできるな。すごすぎないか、オレの彼氏。
航太が向かいに座り、にこにことオレを見る。
「気に入ってもらえたようでよかった」
「うん。お前、料理上手いよな」
「自分ではまだまだ勉強中なんだが」
「昨日の肉じゃがも美味かったし、完璧だと思う」
「楓が褒めてくれるなんて、嬉しいな」
少し照れたように笑う航太から思わず視線を外す。しかし、ふと聞いてみたくなった。
「お前、短所とかねぇの?」
「僕の短所? うーん、そうだなぁ」
何故か考え込み、航太もおにぎりを一口かじる。
「何でも自分でやらないと気がすまない、かな」
「ああ、そういうところあるよな」
と、オレが返すと、航太は口の中を空にしてから言う。
「『幕引き人』になったのも、自分でやりたいと思ったからだしな。終幕管理局が組織されるにあたっていくつか協力はしたけれど、上に立って指示を出す人間にはなりたくなかった」
「だからって現場に出ることなくね?」
「いや、現場こそ重要だ。僕は自分の力で惑星インフィナムを救いたい。周りからはとやかく言われたけれど、僕は何でも自分でやりたいんだ。教授にもフィールドワーカー向きだと言われたしな」
部屋にこもって大人しく研究するのではなく、現場に行って自ら調査する。それが航太のやり方らしい。
「けど、それって短所じゃねぇよな」
「そうか?」
「うん」
口には出さないが、むしろ長所だ。航太の個性であり強みだ。
「じゃあ、何だろうな……」
再び考え始める航太を見つつ、オレは味噌汁をすすった。うん、美味しい。
「分かった。短所がないことが短所だ」
と、航太が言い、オレは思わず笑ってしまった。
「何だよ、それ。ポジティブすぎだろ」
「だって思いつかないんだ。しょうがないだろう?」
「じゃあ、オレが決めてやるよ。お前の短所は激辛が好きなことだ」
「別に激辛が好きでもいいじゃないか」
「いやいや、キッチンにデスソースがあるなんておかしいだろ」
「おかしくないよ」
言い返しながら航太もくすりと笑いだす。こんな風にくだらないことで笑い合える人ができて、オレは幸せ者だと思った。