航太の部屋に来て十分もしないうちに、オレはベッドに押し倒されていた。
「っ……」
長いキスを終えて見つめ合う。室内の電気がついていない、薄暗い中で。
買ったものは食卓の上へ無造作に放ったままだった。
「今日、泊まっていかないか?」
いきなりすぎる提案にオレはむすっとする。
「外泊許可、取ってねぇよ」
「申請はネットでできないのか?」
「寮長に連絡すればいいだけだけど」
そうはしたくない、というオレの主張を航太はキスでふさいだ。
すぐに唇を離して言う。
「じゃあ、すぐに連絡して。そうしたら明日も一緒にいられる」
にこりと笑う彼にため息を返しつつ、オレは手首に装着したデバイスを操作した。メッセージで寮長に外泊する旨を伝える。
「これでいいか?」
「ああ」
満足気に航太はうなずき、ふと体を起こして眼鏡を外した。日本人にしては整った顔立ちで、悔しいがかっこいいと思ってしまう。
眼鏡を近くの棚の上へ置いてから、航太がまたオレに覆いかぶさってキスをする。
体が密着して、彼の体重を感じる。逃げそうになるオレをしっかりと抱きしめるようにして、航太は飽きずに何度もキスをする。
オレのデバイスがメッセージの受信を知らせ、航太はようやく離れてくれた。
呼吸を整えるように息をしつつ、オレはメッセージを確認する。寮長からの返信だった。
「許可、取れた」
「それはよかった」
にこりと笑う航太だったが、何故か隣へ寝転んだ。
てっきりこのまま進行するものと思っていたオレは、拍子抜けしてしまって彼を見る。
航太は両目を細めながらたずねた。
「どうした?」
「えっ、ああ、いや……」
素直になれないオレが、やらないのかなどと聞けるわけもなく。
何となく腑に落ちない気分で寝返りを打ち、背中を向けた。
「夕飯、どうする? さっき話した肉じゃがにするか?」
先ほどまでの空気はどこへやら、航太が普通に話し始める。
「うん、それでいい」
「でって……まあ、いいか。食後は緑茶、淹れような」
「うん」
まるでやることやった後の会話みたいだ。これからだと思ってドキドキしてたのに。
勝手に裏切られたような気持ちになって、オレは背中を丸めた。
すると航太が、めずらしくため息まじりに言う。
「言わなきゃ伝わらないとはよく言うけれど、本当にそうだよな」
「……何の話だよ」
「キスをしているだけじゃ、何も伝わってないのかもしれないってことだ」
そんなことはない。航太に求められて、すごくすごく嬉しい。心の中でどれだけ思っても、言わなきゃ伝わらないのだと脳で気がつく。
そう、航太はオレに言わせたいのだ。正直な気持ちを、本当の思いを。
どんな言葉にしたらいいかを考えて、頬が熱くなる。
実際に言おうとしてためらい、考え直して寝返りを打つ。
航太がじっとオレを見つめていた。目に少しの意地悪さを宿して。
「……お、オレは、その」
目を合わせていられずに視線をそらし、オレはたまらず航太の胸へ額を押しつけた。
「好きだよ。キスされるの、すっげぇ嬉しいよ。も、もっと、もっとしたいって、思ってるよ……っ」
言ってしまった。
航太がオレの頭を優しく撫でた。
「それじゃあ、続きやってもいいか?」
「う、うん……」
小さな声で言ってうなずき、おそるおそると顔を上げる。
航太が顔を近づけてきて、オレたちはまたキスをした。