次の休みにオレは新東京四区へ来ていた。第二日本と称されるこの国では、東京を模した街が広がっている。人口はまだ百万人ぽっちで、面積は東京の二十三区よりいくらか小さいらしい。
終幕管理局があるのは二区のオフィス街で、近くには国会議事堂や各省庁などがある。
一区には大型のショッピングモールがあり、服や日用品を買うならそっちの方がいいのだが、個人商店があるのは三区と四区だ。
ちなみに新東京には五区、六区、七区もあるが、それらはまだ開発途中で、これからやってくる移住者のための場所だった。
この前話した緑茶を買うべく、航太と並んで道を歩いている時だった。
「楓、せっかくだから手をつながないか?」
「は?」
思わず驚いてしまったオレだが、航太は平然とした顔で言う。
「手をつないで歩きたいんだ」
差し出された左手を見て、オレは戸惑わずにいられない。男らしく無骨な手だが、ピアノの経験があるとかで指は長い。というより、確実にオレの手より大きい。
オレが右手を出せずにいると、航太は気づいた様子で言った。
「ああ、楓は素直じゃないから、僕がリードしなくちゃな」
彼がさっとオレの右手を取り、ぎゅっと少し強めに握ってくる。
伝わる体温に心臓がドキドキと早鐘を打つ。航太と手をつなぐのは初めてだ。しかも外で、である。
「さすがに僕も少し、恥ずかしいな」
少し歩いたところで航太が小さな声を漏らし、オレの恥ずかしさがピークへと達する。つないだ手を振り切って駆け出したかったが、脳より先に心が体を動かした。
ぎこちなく、ぎゅっと彼の手を握り返した。
「楓……」
航太がオレを見る。オレはうつむいて口を強く閉じている。たぶん、耳まで真っ赤になっているはず。
手の平がじわりと汗ばんだ気がするが、きっと今日は気温が高いせいだ。歩いている人たちの中には半袖の人だっているし。
「うん、嬉しいな」
彼が笑顔を浮かべてつぶやき、言った。
「買い物が終わったら、僕の部屋に来ないか? それで、キスをしよう。ハグもして、もっともっといろんなことをしよう」
彼に求められていることが何より嬉しかったが、オレはいつもの癖で叫ぶのだった。
「そういうことをわざわざ言うな!」
航太はくすくすと楽しそうに笑い、オレはわざとらしくそっぽを向いた。
なかなか素直になれないオレと違って、航太はとても自分に正直だ。だからこそ、一緒にいて落ち着くのだと思うし、もっとずっと一緒にいたいと思ってしまう。
「あれ? そろそろ曲がるんじゃなかったか?」
「あっ、行き過ぎた」
慌てて立ち止まるオレへ航太は言う。
「動揺してるな、楓。すごく可愛いよ」
「か、可愛いとか言うなって!」
恥ずかしくてたまらず叫ぶが、笑っている航太を見ていると悪くない気もして、オレの感情はぐちゃぐちゃだ。
でも、今日はきっといい日になる。そんな予感がした。