ひたすら恥ずかしさに耐えているオレへ、彼がゆっくりと話しだす。
「昨日、田村が僕の知らない男と歩いているのを見て、ふと不安になったんだ。田村は僕を受け入れてくれるけれど、もしかしたら他の人に迫られた時も嫌がらないんじゃないか、って」
窓の外は暗くなってきていた。夜だ。季節は春、五月のちょうど半ば。
「僕はずっと脈ありだと思っていた。でも、田村が本当は僕をどう思っているのか、ちゃんと聞いたことがないから分からない」
オレの部屋で千葉が滔々《とうとう》と語る。
「昨日までは疑いもしなかった。あらためて考えてみると、僕は現状に甘えていたのかもしれないと気がついた。だから、はっきりさせるべきだと思ったんだ。田村の気持ち、ちゃんと聞かせてもらいたい」
「お願いだ、田村。本当は嫌なら、そう言ってくれてかまわない」
だけどオレは知っている。大事なのは心なんだって。
うずくまったまま、小さな声で言う。
「……好きじゃなかったら、キスなんてしねぇよ」
千葉の耳にはうまく届かなかったようで、彼が「何て言った?」と、聞き返してくる。
限界まで熱くなった顔を上げ、オレはかすかにうるんだ目で千葉をにらんだ。
「好きじゃなかったらぶん殴ってる」
千葉が目を瞬かせ、理解した様子でにやりと口角をつり上げる。
「そういえば、まだ殴られたことは一度もないな」
殴れるわけがない。オレより十センチも背が高いし、細身のオレと違って体格はいいし、頭だっていいのに運動神経もいい。勝てるはずのない相手なのだ、と言いたいのはやっぱり脳だけで。
千葉がそっとベッドへ上がってきて、オレのすぐ横へ座った。
「僕のこと、好きか?」
さっきまでと違い、にこにことたずねてくる。
意地悪なやつだと思うけど、心臓はドキドキと高鳴って今にも爆発しそうだ。
オレは再びうずくまって顔を隠そうとするが、その前に千葉の手が伸びてきた。
「っ……」
「教えてくれないならそれでもいい。でも、これからは恋人同士だ」
いつの間にそんなことに、と混乱する頭と裏腹に、オレは小さくうなずいてしまった。
「うん」
「可愛いな、お前は」
と、千葉はどこか呆れたようにくすりと笑い、言った。
「下の名前で呼んでもいいか?」
な、名前呼び……!?
「
さらりとそんなことを口にしてしまう彼に、オレはただただ恥ずかしさをこらえる。
すると彼が顔を近づけて、ついばむようなキスをした。
「僕のことも名前で呼んで。
とろけるような甘い声で耳元にささやかれて、オレは軽くめまいを覚えた。
「航太……」
ああ、ついに呼んでしまった。
にこりと嬉しそうに笑って、航太はまたキスをした。苦しくなるほど幸福なキスだった。