「全員まとめて死にやがれぇ!」
オレは手にした大きな鎌を振り下ろし、虚構世界の住人たちを一気に消していく。
今回の目標はよく分からない世界だった。幼い子どもが想像したものらしいが、やたらと住人が多く、鎌でぶっ刺しても血が出ない。ただ、すぅっと消えていくだけである。
見た目もなんとなく人間の形をしているばかりで、少々薄気味悪かった。しかし、作者にもすっかり忘れ去られたような、価値のない物語を消すのがオレたちの仕事だ。
無事に消去を完了させてオフィスへ戻ると、B班の
「土屋さん、お願いがあるんです!」
「え、何?」
きょとんとする彼女へ、同じくB班の
「実は
「もう一件、今日中に消しておきたい虚構があるんですが、協力してもらえませんか?」
A班は虚構を消しに行って、まだ戻ってきていない。頼れるのは土屋さんだけ、ということらしい。
「なるほど。じゃあ、報告書は二人に頼んだわ」
「分かりました」
と、千葉が返し、土屋さんは二人へ言った。
「さっそく行きましょう」
「ありがとうございます、助かりました!」
「ありがとうございます!」
土屋さんが彼らを連れて廊下へ出ていくと、途端に室内は静かになった。
千葉はすでに椅子へ座ってパソコンを起動させており、オレもしぶしぶと自分の席へ着く。報告書はパソコンを使って書くのだが、とっくに慣れたから十分もかからない。
じきに退屈な時間がやってきた。オレは席を立って隅にあるソファへ寝転び、千葉はキーボードをたたきながら言う。
「なぁ、田村」
「何だよ?」
ソファからだと彼の背中がほぼ真正面に見える。
「虚構世界で血が出ないって、ちょっと困っちゃうよな」
「は?」
「前提として、オレたち現実世界の人間は、虚構において実体を持たない」
厳密に言えば虚構の住人も実体を持っていないが、血が出るか出ないかはその虚構の設定による。
「さっきの虚構のように、設定そのものが曖昧だと僕たちも怪我をしないし、痛くもない。それが残念でならないんだ」
「マゾヒスト?」
「いや、どちらかというとサディストだ」
訂正されたが、まあそうだろうなと思ってはいた。普段は優しいくせに、変なところで意地悪してくるし。
すると千葉が声のトーンを変えることなく言った。
「血にまみれて苦痛にあえぐ田村を、一度でいいから見てみたいしな」
どんな顔でそんなことを言いやがるのか、とても気になったが確かめる気にもならない。
「オレを殺してぇのか?」
「いや。僕なりに愛したいだけだ」
意味が分からない。やっぱり千葉は変なやつだ。
「ところで、お前はマゾか?」
くるりと彼が振り返り、オレは機嫌の悪い顔で言う。
「知らねぇよ」
「ああ、童貞だもんな」
当然のように言われ、とっさにオレは起き上がった。
「バーカバーカ! うっせぇ! 黙れ!!」
「大丈夫だ、安心しろ。僕が責任を持って教えるから」
「意味分かんねぇよ、このクソメガネが!」
オレはありったけの