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第6話 田村の部屋・前編

 オレたちの暮らすスペースコロニーでは、地球とほぼ同じ環境が再現されている。一日は二十四時間だし、一週間は七日だ。降雨装置はまだ開発段階のため、空はいつも快晴。かろうじて温度変化があるので季節もある。

 休日も土日と決まっていて、明けた月曜日のことだった。


 仕事終わり、早々に帰路へついたオレを千葉が追いかけてきた。

「田村、聞きたいことがある」

「は?」

 今日は昨日買ったジャンク品のガラケーを修理する予定だったため、引き止められるのは正直に言って迷惑だった。

 しかし、振り返ってみると千葉はどこか不安そうな顔をしており、オレは思わずドキッとしてしまった。

「どこか、二人きりで話せる場所はないか?」

「んなこと言われても……」

 戸惑うオレへ千葉は気づいた様子で言う。

「ああ、そうだよな。それじゃあ、僕の部屋にしよう」

「なっ、何でお前の部屋に行かなきゃならねぇんだよ!?」

 思わず頬が熱くなるが、千葉は不安そうな顔のままで言う。

「嫌か? それなら田村の部屋でもいい」

「……分かった、そうしよう」

 オレは敷地内にある独身寮で暮らしているため、千葉の部屋へ行くより近かった。


 独身寮は一人一部屋でワンルームだ。洗濯機は共用部分にあるのを使うしかないのだが、部屋にはユニットバスが設置されていた。

 千葉は小型の機械がずらりと並ぶ室内に、多少驚いた顔を見せた。

「これ全部、田村が修理したのか?」

「もちろん。今の機械と違ってどれも古いものだから、いじるのがおもしろいんだ」

 そう返しながらオレはグラスに麦茶を注いで、立ち尽くしている千葉に渡してやった。

「はい、どうぞ」

「あ、ああ……ありがとう」

 戸惑う千葉にオレはベッドの上に腰かけながら返す。

「テキトーに座れよ」

「そうだな、うん」

 ようやく彼が床へ腰を下ろし、オレはたずねる。

「で、聞きたいことってのは何だ?」

 千葉は麦茶を一口飲んだ。

「昨日、四区の電気街で見かけたんだ。田村と一緒に歩いてたの、誰なんだ?」

 まさか見られていたとは思わなかった。声をかけてくれたらよかったのに、と思いつつオレは正直に答える。

「彼は父親の仕事仲間だ。小さい頃から世話になってて、昨日は久しぶりに会ったから飯でも食おうって話になっただけだ」

「本当に?」

「本当だよ。あの人も古い機械が好きで、オレにとっては師匠みたいなもんなんだ」

 すると千葉は麦茶をごくごくと一気に飲み干し、グラスをそっとテーブルへ置いた。

「田村は僕のこと、好きか?」

「へ?」

 想定外の質問に気の抜けた返しをしてしまう。

 千葉はいつになく真剣な目をしてオレを見つめていた。

「僕のこと、好きか?」

 ど、どどどどうしよう。いやいや待て待て、何だこの展開は!?

 千葉が膝立ちになって距離を詰めてくる。

 オレは頬だけでなく全身が熱くなるようで耐えきれず、壁に背中がつくまで後退してからうずくまった。

「田村、聞かせてくれ」

 千葉は本気だ。いや、こいつはいつだって本気だ。思えば出会った時からそうだった。

 ゲーム感覚で虚構の住人を消しまくるオレと違い、千葉は常に落ち着き払って合理的に事を進める。その態度が鼻につくこともあったが、一緒のチームに配属されてからは……。

 気配で千葉が床へ座ったのが分かった。

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