オレたちの暮らすスペースコロニーでは、地球とほぼ同じ環境が再現されている。一日は二十四時間だし、一週間は七日だ。降雨装置はまだ開発段階のため、空はいつも快晴。かろうじて温度変化があるので季節もある。
休日も土日と決まっていて、明けた月曜日のことだった。
仕事終わり、早々に帰路へついたオレを千葉が追いかけてきた。
「田村、聞きたいことがある」
「は?」
今日は昨日買ったジャンク品のガラケーを修理する予定だったため、引き止められるのは正直に言って迷惑だった。
しかし、振り返ってみると千葉はどこか不安そうな顔をしており、オレは思わずドキッとしてしまった。
「どこか、二人きりで話せる場所はないか?」
「んなこと言われても……」
戸惑うオレへ千葉は気づいた様子で言う。
「ああ、そうだよな。それじゃあ、僕の部屋にしよう」
「なっ、何でお前の部屋に行かなきゃならねぇんだよ!?」
思わず頬が熱くなるが、千葉は不安そうな顔のままで言う。
「嫌か? それなら田村の部屋でもいい」
「……分かった、そうしよう」
オレは敷地内にある独身寮で暮らしているため、千葉の部屋へ行くより近かった。
独身寮は一人一部屋でワンルームだ。洗濯機は共用部分にあるのを使うしかないのだが、部屋にはユニットバスが設置されていた。
千葉は小型の機械がずらりと並ぶ室内に、多少驚いた顔を見せた。
「これ全部、田村が修理したのか?」
「もちろん。今の機械と違ってどれも古いものだから、いじるのがおもしろいんだ」
そう返しながらオレはグラスに麦茶を注いで、立ち尽くしている千葉に渡してやった。
「はい、どうぞ」
「あ、ああ……ありがとう」
戸惑う千葉にオレはベッドの上に腰かけながら返す。
「テキトーに座れよ」
「そうだな、うん」
ようやく彼が床へ腰を下ろし、オレはたずねる。
「で、聞きたいことってのは何だ?」
千葉は麦茶を一口飲んだ。
「昨日、四区の電気街で見かけたんだ。田村と一緒に歩いてたの、誰なんだ?」
まさか見られていたとは思わなかった。声をかけてくれたらよかったのに、と思いつつオレは正直に答える。
「彼は父親の仕事仲間だ。小さい頃から世話になってて、昨日は久しぶりに会ったから飯でも食おうって話になっただけだ」
「本当に?」
「本当だよ。あの人も古い機械が好きで、オレにとっては師匠みたいなもんなんだ」
すると千葉は麦茶をごくごくと一気に飲み干し、グラスをそっとテーブルへ置いた。
「田村は僕のこと、好きか?」
「へ?」
想定外の質問に気の抜けた返しをしてしまう。
千葉はいつになく真剣な目をしてオレを見つめていた。
「僕のこと、好きか?」
ど、どどどどうしよう。いやいや待て待て、何だこの展開は!?
千葉が膝立ちになって距離を詰めてくる。
オレは頬だけでなく全身が熱くなるようで耐えきれず、壁に背中がつくまで後退してからうずくまった。
「田村、聞かせてくれ」
千葉は本気だ。いや、こいつはいつだって本気だ。思えば出会った時からそうだった。
ゲーム感覚で虚構の住人を消しまくるオレと違い、千葉は常に落ち着き払って合理的に事を進める。その態度が鼻につくこともあったが、一緒のチームに配属されてからは……。
気配で千葉が床へ座ったのが分かった。