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第3話 マイデスソース

 終幕管理局は六階建てのビルで、スペースコロニーの中では大きい建物だ。

 二階に食堂があり、昼食はだいたいそこで済ませるのだが、オレにはどうしても気になって仕方ないことがある。

「千葉、それやめねぇか?」

 向かいに座った彼が手を止めて視線をこちらへ向ける。彼の前に置かれているのは肉うどん。そして彼が手にしているのは、毒々しい真っ赤な小瓶。

「辛い方が美味しいんだが?」

 と、きょとんとした様子で返す千葉にオレはすかさず言う。

「お前のそれは辛いじゃなくて激辛だ」

 千葉はマイデスソースを持ち歩いては、何にでもかけて激辛にしてしまう男だった。

「……それでもかける」

「あっ、お前」

 結局うどんは真っ赤に染まり、オレはうんざりとため息をつく。

 千葉は満足したのか、嬉しそうな顔で激辛うどんを食べ始めた。

「何でそんなに激辛が好きなんだよ」

 オレが牛丼を食べ進めながら呆れ顔でたずねると、千葉はすました顔で答える。

「きっかけは高校時代、友人たちと激辛に挑戦したことがあったからだな。激辛料理を食べるのはあれが初めてだったが、僕だけが完食した」

「お前の舌、おかしいんじゃねぇの」

「よく言われるが、それでも美味しいんだから仕方ない」

 分からねぇ。これだけは本当に分からねぇ。

「田村は辛いもの、苦手なんだったな」

「自分から食いたいとは思わねぇだけだ」

「こんなに美味しいのに」

 そう言われても、真っ赤に染まった肉うどんは哀れにしか思えない。そのままでも十分美味しいものを、どうしてこいつは激辛にしてしまうのか。

 いや、本人がそれでいいって言うんだから、オレが無理にやめさせることもないのだが……うーん、何か嫌なんだよなぁ。

 すると千葉が気づいた様子で言う。

「でも、僕がこうして食べるのを田村は嫌がるよな。どうしてだ?」

「いや、それは……なんつーか、侮辱ぶじょくしてる感じがする」

 千葉はじっとオレを見つめたかと思うと、唐突にひらめいた。

「素材の味を大事にするタイプか」

「なんか違う気がするけど、だいたい合ってる。っつーか、作り手を馬鹿にしてる感じって言った方がいいな」

「ああ、田村のそういう素朴そぼくなところ、すごく好きだぞ」

「だったらデスソースかけんな。オレを尊重しろ」

 言ってしまってからはっとして、オレはじわじわと頬を赤くさせる。まだ付き合ってないのに、オレはいったい何てことを言ってるんだ!?

 千葉はにこりと微笑んだ。

「いいな、それ。今後は田村を尊重して、激辛を食べるのは週に一度だけにしよう」

 結局毎週食ってんじゃねぇか、というツッコミは内心だけにして、オレは黙って自分の食事に集中した。

 千葉はやっぱり嬉しそうな顔をして、真っ赤な肉うどんを食べるのだった。

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