終幕管理局は六階建てのビルで、スペースコロニーの中では大きい建物だ。
二階に食堂があり、昼食はだいたいそこで済ませるのだが、オレにはどうしても気になって仕方ないことがある。
「千葉、それやめねぇか?」
向かいに座った彼が手を止めて視線をこちらへ向ける。彼の前に置かれているのは肉うどん。そして彼が手にしているのは、毒々しい真っ赤な小瓶。
「辛い方が美味しいんだが?」
と、きょとんとした様子で返す千葉にオレはすかさず言う。
「お前のそれは辛いじゃなくて激辛だ」
千葉はマイデスソースを持ち歩いては、何にでもかけて激辛にしてしまう男だった。
「……それでもかける」
「あっ、お前」
結局うどんは真っ赤に染まり、オレはうんざりとため息をつく。
千葉は満足したのか、嬉しそうな顔で激辛うどんを食べ始めた。
「何でそんなに激辛が好きなんだよ」
オレが牛丼を食べ進めながら呆れ顔でたずねると、千葉はすました顔で答える。
「きっかけは高校時代、友人たちと激辛に挑戦したことがあったからだな。激辛料理を食べるのはあれが初めてだったが、僕だけが完食した」
「お前の舌、おかしいんじゃねぇの」
「よく言われるが、それでも美味しいんだから仕方ない」
分からねぇ。これだけは本当に分からねぇ。
「田村は辛いもの、苦手なんだったな」
「自分から食いたいとは思わねぇだけだ」
「こんなに美味しいのに」
そう言われても、真っ赤に染まった肉うどんは哀れにしか思えない。そのままでも十分美味しいものを、どうしてこいつは激辛にしてしまうのか。
いや、本人がそれでいいって言うんだから、オレが無理にやめさせることもないのだが……うーん、何か嫌なんだよなぁ。
すると千葉が気づいた様子で言う。
「でも、僕がこうして食べるのを田村は嫌がるよな。どうしてだ?」
「いや、それは……なんつーか、
千葉はじっとオレを見つめたかと思うと、唐突にひらめいた。
「素材の味を大事にするタイプか」
「なんか違う気がするけど、だいたい合ってる。っつーか、作り手を馬鹿にしてる感じって言った方がいいな」
「ああ、田村のそういう
「だったらデスソースかけんな。オレを尊重しろ」
言ってしまってからはっとして、オレはじわじわと頬を赤くさせる。まだ付き合ってないのに、オレはいったい何てことを言ってるんだ!?
千葉はにこりと微笑んだ。
「いいな、それ。今後は田村を尊重して、激辛を食べるのは週に一度だけにしよう」
結局毎週食ってんじゃねぇか、というツッコミは内心だけにして、オレは黙って自分の食事に集中した。
千葉はやっぱり嬉しそうな顔をして、真っ赤な肉うどんを食べるのだった。