父親の仕事の都合で宇宙へ移住したのは十五年前、オレがまだ八歳の時だった。
七年前には地球からの宇宙移住計画が決まり、スペースコロニーが造られた。
間もなく発覚したのがアカシックレコードの問題だ。調査の結果、容量が限界を超えそうになっていることが判明した。
急を要するこの問題に対して、人間たちは価値のない記録を消去することにした。そうして日本で組織されたのが終幕管理局であり、現場担当を「幕引き人」と呼んだ。
オレはその「幕引き人」として働いているのだが。
業務課六組のオフィスへ入ると、毎朝必ず、真っ先に笑顔を向けてくるやつがいる。
「おはよう、
身長百八十六センチ。適度にがっしりとして引き締まった無駄のない体。普段から眼鏡をかけており、常に冷静で物腰やわらか。アメリカの難関大学で天体物理学を学び、在学中にアカシックレコードの調査員として惑星インフィナムへ行った際、情報の解読に貢献。在学中、終幕管理局内で使用される装置やパソコンの一部設計にも
語れば語るほどすごいやつ、
オレはむすっとしたまま彼から視線を外し、班長の
「おはようございます」
「ええ、おはよう。これ、今日の予定ね」
と、彼女が差し出してきたメモパッドにさっと目を走らせ、オレは鞄をロッカーへ突っ込んでからデスクへ向かう。
「もっとおもしろいもん、ねぇんすか?」
「仕事があるだけマシだと思いなさい。それともまた魔物に囲まれたいの?」
と、土屋さんに冷たい視線を投げられ、オレは苦い顔をする。それはつい先週のことだった。
魔物がはびこるファンタジー世界を消去するため向かったのはいいが、あまりに魔物の数が多くて、あろうことかオレは捕まってしまったのだ。
「あの時の田村、最高に可愛かったな」
と、千葉がするりと会話に入ってくる。
オレはとっさに距離を取り、わざと嫌な顔をして見せた。
「ふざけんな」
しかし千葉はにこにこと笑っているばかりだ。
「いつものお前も可愛いけど、触手に締め上げられて苦しそうにする姿には、本気で興奮したよ」
ぞっとする。マジで何なんだ、こいつは。と思うのは脳だけで、オレはその後のことを思い出して顔を真っ赤にさせてしまう。
「やめなさい、千葉くん。田村くんがゆでダコみたいになってるわ」
「古い例えですね、土屋さん」
くすくすと楽しそうに笑う千葉に、オレはそっと背を向ける。
魔物の触手に捕まったオレを助けてくれたのは千葉だった。ガチで興奮していたらしく、現実世界へ戻ってからご褒美のキスを迫られたのだ。
恋愛経験のないオレは逆らうこともできず……くそ、思い出しただけでドキドキしやがる! オレたちはまだ付き合ってねぇっつーの!
深呼吸をして気持ちを落ち着けるオレを置いて、土屋さんと千葉はいつの間にか仕事の話を始めていた。