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第11話 あの青い空は限界の証

 だから覚えておくといい。

 僕と佞悪のやりとりがどう見えるのか。

 察しがいい君のことだ、もうわかるよね?

 君が見ている僕と佞悪、そこの彼女が見ている佞悪と僕。


 君と彼女の関係そのものなんだよ。



 『え?』

 おれは、ふいうちに驚く。なんの話だ。


 「そろそろ時間ね」と佞悪が告げた、「もういかなくちゃ」

 「そうだね」と清廉が相槌を打つ、「君たちも限界だろう?」

 集中力のこと、かな。時間を気にしなくていい空間なのに、おれたち人間の集中力の限界ゆえに、ここを出なければならない。しかも自分の意思を働かせることはできない。選択の余地もない。ただ、ありのままを受け止めるしかなかった。…これ、何年ぶりかな。そうだったね。すごく、恐ろしい。正直なぜか怖い。三度も体験してきて、もしかすると四度目かもしれないのに、ちっともだ。おそれは体の軸を圧迫しているし、だがどこかでこのような心境を楽しんで゛いるのかもしれない。

 すると、


 「かしこ!」と、佞悪が叫んだ。ああ、変わらない。知っている。昔のままだ。

 だが続いて清廉もなにかを言いたそうにしているのがていてわかった。最後のアドバイスか、それとも。ふわっと浮いた、そんな気がした。渦巻く空気が宙を進む、上へ、上へ、上へ。舞いあがる透明に連なって形あるものも巻き込まれる。葉、枯枝、土、小石。人工物は見当たらない。まるで宇宙の掃除機が一斉清掃をするみたいで、吸い込まれていくしかない。おれたちも吸い込まれるのだろうか。そのとき、


 「恐惶 謹言きょうこうきんげん」と清廉が小さくとなえた。


 清廉と佞悪が並んだ。まるで息ピッタリ合った関係なのだとわかる。無意味な感情かもしれないが、ちょっとうらやましく感じてしまう。でも、さっきなんだか言われたよなあ?


 『君が見ている僕と佞悪、君と彼女の関係そのもの』

 おれは仲富にとってのセイレーンにはなれないし、そもそも海帆は海帆でしかないだろう。佞悪はどこをどう観察しても佞悪でしかない。

 『君と彼女の関係そのものなんだよ』

 穏やかな空間に生まれ育ってしまった微風は、いまや嵐を呼ぶ渦となっていて、荒々しさに満ちていた。

 ぴったりくっついて並ぶ清廉と佞悪、くちびるを閉じたまま。けれども言葉が宙に浮かびあがっていく。声は脳内で反響し、しかし聞きとるのが困難になっていった。佞悪の声で『あなかしこ』と聞こえたような気がした次の瞬間。

 渦巻く先にあるのは青い空、ああ、そうだったね。これが見えたら限界なんだ。





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