だから覚えておくといい。
僕と佞悪のやりとりがどう見えるのか。
察しがいい君のことだ、もうわかるよね?
君が見ている僕と佞悪、そこの彼女が見ている佞悪と僕。
君と彼女の関係そのものなんだよ。
『え?』
おれは、ふいうちに驚く。なんの話だ。
「そろそろ時間ね」と佞悪が告げた、「もういかなくちゃ」
「そうだね」と清廉が相槌を打つ、「君たちも限界だろう?」
集中力のこと、かな。時間を気にしなくていい空間なのに、おれたち人間の集中力の限界ゆえに、ここを出なければならない。しかも自分の意思を働かせることはできない。選択の余地もない。ただ、ありのままを受け止めるしかなかった。…これ、何年ぶりかな。そうだったね。すごく、恐ろしい。正直なぜか怖い。三度も体験してきて、もしかすると四度目かもしれないのに、ちっともだ。
すると、
「かしこ!」と、佞悪が叫んだ。ああ、変わらない。知っている。昔のままだ。
だが続いて清廉もなにかを言いたそうにしているのが
「
清廉と佞悪が並んだ。まるで息ピッタリ合った関係なのだとわかる。無意味な感情かもしれないが、ちょっと
『君が見ている僕と佞悪、君と彼女の関係そのもの』
おれは仲富にとってのセイレーンにはなれないし、そもそも海帆は海帆でしかないだろう。佞悪はどこをどう観察しても佞悪でしかない。
『君と彼女の関係そのものなんだよ』
穏やかな空間に生まれ育ってしまった微風は、いまや嵐を呼ぶ渦となっていて、荒々しさに満ちていた。
ぴったりくっついて並ぶ清廉と佞悪、くちびるを閉じたまま。けれども言葉が宙に浮かびあがっていく。声は脳内で反響し、しかし聞きとるのが困難になっていった。佞悪の声で『あなかしこ』と聞こえたような気がした次の瞬間。
渦巻く先にあるのは青い空、ああ、そうだったね。これが見えたら限界なんだ。