「正解デース!」
声も高らかに舞い降りてきたのは天使か堕天使か使い魔か。顔ちっさ。颯爽と風を渦巻かせながら砂埃が舞う。どこかニヤケているような口元は自信家の特徴でもあるし、羽を汚さずには生きていけない海鳥の宿命のようでもある。紫だろうか紺だろうか、色そのものは強くて圧力を感じるのに透けている。
これが助っ人。おれは思う。コクリと
ちらり、仲富を見ると、これはこれでまた。
声にならない声がうるさい。すると、
「やあ、仔猫ちゃん。ご無沙汰してましたね」
え。まさか。
仲富を
「紹介するわ」
「あらためまして、敬虔なるご令息ご令嬢のおふたかた。われこそは深遠なる…」
「こいつが
「ちょっと、ちょっと、ちょっと。自己紹介くらいさせてくれよ」
だが不思議。あんなに冷たくて無機質な受け答えしかしないと思っていた
すると仲富が「セイレーンさま」と吐息をもらすように声を流した。
「やあ」
もうすでに仲富は崩れてしまいそうだった。工事現場の解体工事で最後の仕上げ、どかんと一発いきますか。
だが仲富は、しっかりと立ち尽くしている。その
「大丈夫よ、手短に済ますわ」
おれがなにか言いかけた途端に、
「ですよね!」と仲富が語りだしてしまった「蓮は顔に出るの、すぐに。しかも本人コレがわかっていないっていうより、わざとのフシもあるんですよ」と。
「ほほう」
「それが蓮のいいところ」と
「ではではお祭りデース!」
祭りなのか?
ちょっとだけ、いやな予感がする。でも一応、
「
「セイレーンでいいよ」にやにやというよりニコニコか、とても上機嫌そうに見える。腹の底から上機嫌のような明るくて軽快なテンションの声が心地良く伝わってくる、「
「わたしもネーアクでいいよって言ってるよ?」と
「ではセイレーンどの、どうかよろしくお願いします」でもなにをどうよろしくなんだっけ。具体性に欠ける展開だが、まあいい。それよりおれは元に戻ったときのほうが心配だ。
宇宙は、おれたちを安全かつ平和な空間に招待する。時間にとらわれずに多くを学べるのは利点だ。その一方で、この空間から追い出されるときだ、まさに追い出される状況となるため、時と場所を指定できない。宇宙も指定できないらしい。うそつけ。そんなに高度に発達した文明と技術なのだから、できないことなどあるまい。だが、数年前の
ごもっとも。
それにしても、どうしたものか。仲富が
『ああ、それはね?』ダイレクトに脳内で声が響いた、これは
脳内だけで『会話…できるとか?』と思った次の瞬間に、
『いかにもだよ、正解デース』と声が響く。目の前の
『これ、仲富にも聞こえてる?』と脳内で確認すると、
『いや、いま蓮としゃべってるのは、
そうなんだ、と納得すると、
『そうデース』と言われる。軽め、軽く、軽い、なんなんだこのひと。ひとじゃないか。でも、ふと思った、
もしかしたらおれがなりたいと思っているおれのような感じ?
いま考えたことも伝わってしまうのかなと
『いちおう説明しておくね?』と
『僕たちの姿は君たちが望む姿を
『なるほど、やはりね?』自分で思っておいて矛盾してしまうが、なにがどうなるほどでやはりなのか、わからない。むしろ謎。いや、少しはわかる気もする。
『僕は
おれは絶句する。頭の中でも絶句できるんだな?
『君は気づいていないかもしれないが、
『うそ!?』
おれは思わず実際に声を出してしまいそうだった、『いや、いくらなんでもそれはない。ないな。だって、おれの好みって』
『そう、それ。それだよ、それ。そもそもそれがズレてるの』と
『いかにもだよ? 会話の回線は無数に使いこなせるから。チャンネルは、ひとつとは限らない。君たちのラジオは、どこかを受信しているときは別のを受信できないと思うけど、ラジオそのものが複数だったら? 同じデース』
『理屈はわかるけど、わかるんだけど』と、やっとのことで思うことができた。伝えるのって、簡単じゃないんだな。子供の頃はテレパシーが使えればすごく楽なのにと考えていたが、結局どちらにせよ相手に伝わるようにするには工夫が必要になる。思う、これだって技術が問われるのかもしれない。思うだけで伝わるのは簡単だけれど、誤解や勘違いまで
『それに』と、おれが問いただそうとした次の瞬間、清廉がピシっと言う、
『希望の姿とは、もしも君が異性だったらどういうひとになりたいか。君が好きな異性ではない。君自身が異性化した場合の理想形だよ』
『おれが異性化』なぞるように思い巡らせ、さらに『おれが、じゃあ女の子だったらってこと?』そう思ったら即座に
『君は
…おれが
理解が追いつかなかった。
それ以上に、もう本当に集中力が限界で、仲富を
なにか風邪をこじらせたときみたいだな。そもそも、なにもかもが幻と言われてしまえば、それきりだろう。心細くて叫びそうだった。叫びたいときほど無口になってしまうのは、どうしてなんだろうね?