「ああ、やっぱり」
仲富がつぶやく、「蓮のところにいたのね」
おれたちふたりの前に現れた
「ひさしぶりね」仲富が言う「よかった。頼りになるわ」
頼りになるわ?
その言葉を聞いて、なるほどと思う。仲富が頼っていたのは、おれではない。こいつのほうだ、
姿かたちは認可元素の理論に基づき、おれたち人間と同じようなもの。使い魔たちが現れるのは、人間が精神的に変換点を迎えるときだという。女性の姿をして、女性が身にふりかけていそうな香りを漂わせて、この
おれは自分が男なのだと、いやがおうでも思い知らされる瞬間。いままで出会ったことのある女の子たちよりも、かわいい。見た目だけは、な。くらくらする。その香りのせい。わなわなする。おかしい、おれって、こんなにも、どうかしちゃうものだったのか。幼なじみや同世代の女の子の裸は見ていて自然にふるまえるが、こいつ、この
あ、なんか、おかしくなりそう。
おれは黙って、
おれの想いに反応したかのように、にやあ。
すると「あ。ネーちゃん笑った」と仲富が気づく。その声は、さきほどまでのトーンと異なる。おれとふたり会話しているときとは、あきらかに声そのものに色がついた。せいちゃんとやらと通話しているときとも異なる。あきらかに仲富は、
なあ、
いまこうして
「ええ」
おれは身震いする。まじかよ、まじなのか。いま、どういう状況だ?
仲富からの相談というか依頼というか、でも仲富本人のことではなくて、従姉妹だっけ?
おれは
でも、ちょっとながらも、知っていることがある。海百合女子の制服、白いセーラー服、やや背が高めな女子、で予備校の模試成績は常に上位。
「よかったー」と仲富が小さな声で叫ぶ「もうホントにホントで頼りにしてます!」
すると
おれはすぐにでも質問したくてたまらない『いったいぜんたい、なにごとだというのですか。
しかし
「いやあ、それにしてもやっぱりすごい。ネーちゃんはホントぶれないよねぇ」
仲富はご機嫌模様である。
「しかもなになにどうしたの、今日それ。聞いてないんですけど。その姿。いままでとは、まるっきり違う強めな
しかもなぜか興奮気味だ。
すると、
「コーディネートはコーデねえと」
嘘だろ、おい。
「くはぁ!」と仲富は悶え苦しむ乙女のように天を仰いだ「いまそれ禁句ダメもう無理っ」と言いつつ
「
おれは言葉を選びながら申しあげる。
すると隣からツンツン肩で責め立てられて「ふんふん、蓮はこういう女の子が好きなんね~」と
「この静寂も?」
ん? という声が漏れた仲富。おれが見ると、なにかを自覚したのか空を見あげた。仲富の目には初夏の青空が見えているのだろうか。それとも。
おれたちの目の前にいる
この静寂、車の不在に
「え、なに」
と隣で仲富が驚く、
「あ、ごめ」んなさい、いきなり動いてしまって。おれは心から申し訳なく思って謝った、
「こんなに近くで突っ立てるから静電気くらうのさ、ぼおっとしてんじゃねえよ?」
「な」と仲富が目を丸くして「ぼおっとって…てか、その言い方!」
「いいから少し黙れよ、おまえ」おれは優しく
「ま」
仲富は言葉を詰まらせた。おれを小突くのも忘れたらしい。しばしお互いの目を見て、なにかを覗き込む。あるのか、ないのか、眼球じっと見つめあう。
眼球は惑星だよ、と昔この
「まあ、たしかに?」と仲富の疑問符が浮かびあがった、「ネーちゃんが服を着ているって時点で気づくべきだったわ」
そこかよ。
まあ、たしかに普段の
「でもすごい似合ってる」仲富が小さな声で騒ぐ「まるでどこかの南国少女か、はたまた熱帯雨林の巫女さんなのか、どっちにしろ蓮が好きそうな格好で、えっちなんだけどエグクなくて、もう目も当たられないくらい見とれちゃうんですけど!」と声を押し殺しながら絶叫して
「ねえ、ひょっとして蓮のリクエストなの?」
有線放送かよ。
「いやもうむり、むりでしょもう、そんなの服着てないときよりなんか不思議えっちすぎて、ちょっと蓮、いったいどうやってリクエストしたのよ!」
してないし。だが、
「そんなのかんたん」と
「やっぱり!」仲富が言うが、もうこちらなど見ていない。
やばいな、こういうのも、もしかすると使い魔による魅了のひとつなのでは?
おれは冷静に分析する。
簡単ってことだろうな? たとえばそう、
『蓮の頭を覗けばどういうのが好みかなんてすぐよ』と言うのも、それはそれ。そりゃあ頭の中を覗けば簡単にわかるってことだろうし、そんなことされたらおれは無防備なんだし抵抗しようがない。どういうのが好みかなんてすぐよ、とは言ったけれど『その好みがコレでした』とは言っていない。つまり仲富が指摘する『蓮はこういう女の子が好きなんね』も『えっちなんたけど』も、それはあくまでも今この瞬間の
だがたしかに不思議というより妙だ。いつもならば、こんなとき、泉の乙女のように裸体そのままでふいに
なぜ、人間界における水着のような、いでたちを?
下着というより、あきらかに水着っぽい質感。つるつるすべすべ、
しかもなぜ透け透けシースルーな
わかっている、見えている、でも、
そうか。
これが仲富の趣味ではないにしても、仲富が遠慮なく
すると、ちょっとあっけにとられたような表情になった
「ええ」
と
天使かよ。いや悪魔だろ。違うな、地球人の知識など
疑問は尽きなく湧いてくるが、なすすべもなく『わかったよ…わかりました』と、おれは