導きの女神ユリファこと、私が最も推していた女勇者イオリは極度の方向オンチだった。
しかもパーティの仲間達も同様に重病だとか。
逆によく今まで生きてこれたわ……。
「……まぁ、うん。人には必ず欠点が存在するものだ。俺もよく『自己中心的で協調性がない』とか『トチ狂っている』と、仲間の
「……さ、流石にそこまで言われたことはないけどな。と、とにかく有名な明日夢殿に会えて良かった。良ければ我らと魔王と邪神を斃すため一緒に行動せぬか?」
「ちょい、イオリ様! 男連れて行くなんて聞いてないよ!」
「そのとおりです! 勇者はイオリ様お一人で十分です!」
「流石に男性の加入は反対よ! パーティの輪が乱れるわ!」
「……あくまでイオリ様一筋」
「それに、どうせ手柄を独り占めにするに決まっているよぉ! イオリ様とこのメンバーで伝説作るって決めたじゃん!」
ダリア、クラリス、シルビナ、フィヒル、オッドリーが猛反発している。
そういうことか……彼女らはそっち系なのね。
所謂ユリファ、じゃなかった――『百合』なのよ!
みんな勇者イオリにラブリーで集ったメンバーばかりなんだわ!
だから超イケメンのアスムに一切靡かなかったのね!
「……すまん、明日夢殿。今のは忘れてくれ」
「構わん、気にするな……(これは既に俺が魔王を無力化し大ボスの邪神を斃したってことは、言わない方がいいのか?)」
あのアスムが気を遣っている……それくらい天然女子の集まりなのね。
解体作業を終え、次に『魔力抜き』の工程となる。
「そちらにはシスターがいるから聖水が作れるだろ? あと鍋はあるか?」
「すまん、我らは携帯食しか持ち歩かぬ主義だ」
「そうか……ニャンキー来てくれ!」
アスムに呼ばれ、ニャンキーが茂みから出て行く。
「はい、ニャア!」
「あわわわわ、ネコにゃん!?」
ニャンキーの姿を見た、勇者イオリがデレ始める。
しかも凛々しい顔つきが蕩けそうになるほど破顔していた。
そういえば彼女の備考欄は「大の猫好き」だったわね。
「俺の仲間で
「す、すまない……ミーア族の方ですな。噂には聞いていたが、このような愛らしい存在だったとは……」
「よろしくニャア」
「くぅ~っ! ニャンキー殿ッ、ちょ、ちょっとでいいからモフらせてもらえぬか!?」
「駄目ニャア。こう見ても35歳で妻と五人の子持ちニャア。猫扱いしても良いけど、ペット扱いは迷惑だニャア」
え!? ニャンキーってば五人も子供がいるの!?
ニャアニャア言っている癖にやることやっているのね……だからお金にがめついのか。
はっきりと拒否られたイオリは「そうか……」と寂しそうに頷いている。
「ではニャンキー、鍋と調理道具一式を用意してくれ。それと伊織さん達には『モンスター飯』を伝授する。これで今後も食料が尽きても飢えることはないだろう」
「う、うむ、かたじけない(そこまで頼んでないのだがな……これが自己中心的ということか)」
イオリと仲間達は軽く引きながら、アスムから『モンスター飯』の調理法を教授された。
最初は半信半疑だった女子達も次第に興味が湧いたのか真剣に見入っている。
「なるほどね……そうやってシビエの魔力を抜くのね」
「まさか浄化作用にある聖水にそのような使い方をするなど……聖職者なら絶対にやりません」
常に知識を求める|
「先人達の知恵だ。生きるために四の五の言っていられない場合もある。醜く食料を奪い合うより、余程健全だと思うがな」
「明日夢殿の言うとおりだ。これは是非に学ぶ必要があるぞ」
イオリは理解を示し、パーティの女子達に呼びかけた。
全員が勇者イオリにラブリーだけに「はい!」と従順さを見せている。
そして一通りの下ごしらえが終わり、アスムは調理を始めた。
【オークのポークソテー】
《材料》
・オークのロース肉
・マンドレイク茶色(ポテトサラダ用)
・マンドレイクの葉(みじん切り)
《調味料》
・胡椒
・塩
・自家製 植物油
・自家製 醤油
・自家製バター
・調理酒(自家製)
・ニンニク(イサラン国で購入)
・小麦粉(パンを粉末状にしたもの)
《手順》
1. オーク肉の下準備として肉に塩と胡椒を振り、軽く小麦粉をまぶします。
(こうすることで焼いた時に肉汁が閉じ込められ、より美味しく召し上がられるでしょう)
2.フライパンに植物油を入れて中火で熱し、オーク肉を入れます。片面を3~4分ほど焼き、こんがりと焼き色がついたら裏返します。
3.両面にバターとニンニクを加え香りが立つまで炒めましょう。
4.調理酒を加え、アルコールを飛ばしながら煮詰め、さらに醤油を加えて全体に絡めます。
5.オーク肉にしっかりと味を染み込ませて盛りつけた後、マンドレイクのポテトサラダとみじん切りにした葉を添えて完成です。
「――完成! オークのポークソテーだ!」
アスムはドヤ顔で出来上がった人数分の料理を簡易テーブルに並べた。
隠れているこっちまで匂いが漂ってくる。
思わず生唾を飲んでしまうほど。
さっきあれだけ、すき焼きとシメのうどんを食べたばかりなのに……。
女神の私でさえ、こうですもの。
当然、隣の方では、
「わ、妾も! 妾も食べさせてたもうぅぅぅぅ!!!」
案の定、食いしん坊のラティが茂みから飛び出そうとしている。
私は慌てて半魔族の幼女を抱きかかえた。
「ちょっと駄目よ! あんたが一番出て行ったらマズイんだからね!」
「ユリ~ぃ、離してたもう! 妾も食べたいのじゃ~!」
ぐっ! こ、こいつ、力強ぇ!
こんな小っちゃい子なのに、なんて馬鹿力なの!?
けど私だって
負けるもんですかぁぁぁ!
「根性ぉぉぉぉ、ぐおぉぉぉぉぉ――!!!」
「離してたもうぅぅぅぅぅぅ!!!」
かくして誰の目にも触れることなく元魔王と女神の攻防戦が続く。
「……明日夢殿。随分と奥側の茂みが騒がしいのだが? お主のお仲間ではないか?」
「まぁな。しかし先程、食事したばかりだ。イオリさん達はどうか気にしないで食べてほしい。あと、みんなちゃんと『いただきます』してくれよ。命を頂く感謝を込めるためだ」
アスムは指示しながらニャンキーに向けて、「ユリ達の様子を見てやってくれ」と頼んだ。
勇者イオリとパーティ女子達は合掌し「いただきます!」と声を揃えて食べ始める。
「うむ、これは旨い! 肉質も柔らかくて、とてもジューシーだ!」
「ああ、とてもオークの肉なんて思えないねぇ! 香ばしい風味に肉汁の旨味が溢れているよぉ!」
イオリとダリアは大絶賛した。
「……もう少し硬いお肉を想像していたのですが意外すぎる美味しさです。何故でしょうか?」
「きっと調理前の下ごしらえのおかげね? 勇者アスムは物凄い速さで筋肉繊維を切ったり叩いてほぐしていたもの……本当、美味しいわ」
「そのとおりだ。俺はこの技を〈
アスムは美味しそうに食べるクラリスとシルビナの問いに機嫌よく答えている。
「……これが『モンスター飯』……醤油風味が香ばしくて凄く美味しい。そんなに油こくないし胃にも優しいね」
「うん、いくらでも食べられるよぉ! ポテトサラダもお肉にあって美味しい!」
フィヒルとオッドリーが舌鼓していると、アスムは〈アイテムボックス〉から食パンの入ったバケットを取り出した。
「おかわりはある、沢山食べてくれ。あと食パンに肉とサラダを挟んで食べるも美味いぞ。名づけてポークソテーサンドだ」
「おお、明日夢殿……勇者とは思えぬ器用さと気配りの良さ。お主はいったい何者なのだ?」
「伊織さん、見てのとおり勇者だ。セカンドライフは『モンスター飯』専門の料理人を目指し研鑽を積んでいる」
「素晴らしき目標だ! 是非それが叶うよう、一日でも早く魔王と邪神を打ち斃すよう、共に頑張ろうではないか!?」
「あ、ああ……(正直に言うべきか言わぬべきか、迷うな)」
ラティが生きていることは超トップシークレットだけに、嘘が苦手なアスムは戸惑っている様子だった。