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第46話 彷徨える勇者

 アスムは舌打ちし、「ユリ達はここで待っていろ」と告げて立ち上がり単独で姿を晒した。


「――怪しい者じゃない。俺は『日野 明日夢』、あんたと同じ勇者だ」


 説明しながら長い前髪を掻き分け、イオリ達に額を見せていた。

 ちなみに『転生勇者』と『転移勇者』は自分の額に『勇者の紋章』が刻まれており、任意で発光させ証明することができる。

 こうして鉢合わせた勇者同士が争わないためと、他国から援助を受けやすくなるための措置だ。


「日野 明日夢? 聞き覚えるある名だ……まさか、魔王軍最強幹部である四天王の『玄武のダドラ』を討ち取り数々の国や集落を救ってきた勇者殿か!?」


 すうっと、勇者イオリから敵意が消えた。

 流石、アスムね。『モンスター飯』に夢中になると同時に勇者の使命を果たしてきただけのことはあるわ。

 どうやら彼の武勇は全大陸に広まっているようだ。


「ああ、そうだ。この辺で誰かが襲われていると知り、急いで駆けつけて来たのだが、どうやら無駄足だった」


「それはかたじけない。私は桐生 伊織と申す……ところで、お主一人か?」


 随分と古風な喋り方をする、勇者イオリ。

 そういえば前世では普通の女子高生だったが、転生する時にキャラ変すると断言していた。

 なんでも子供の頃から時代劇が大好きでドラマと小説にハマっていたとか。

 でもラノベじゃないので自己中心的で人生を舐めたような発言は見られなかったわ。


「……いや、奥に仲間がいる。それじゃ、またどこかで会おう」


 アスムは足早に立ち去ろうとした時だ。


 ぎゅるるるるぅぅぅ。


 イオリと仲間達の腹が鳴る。

 アスムはピタっと足を止めた。


「……あんた、腹が減っているのか?」


 やばい狂人スィッチが入っちゃったみたい。

 イオリは頷き頬を染める。


「い、いや、お恥ずかしい……実はここ三日ほど、まともに食事を取っていない」


「なるほどな。俺で良ければ手料理を振る舞えるが、どうだ?」


「え? 随分と唐突だな……どうだと言われても」


 いきなりの提案でイオリは躊躇する。

 背後に立つ仲間の女子達は、「……あの男、きっとイオリ様にやましい事をしようと考えているに違いありません!」と疑い耳打ちしていた。

 すると、アスムの双眸がカッと見開く。


「――見くびるな! 俺にやましい気持ちなどないッ! 料理人として空腹の者を見過ごせないだけだ! したがって対価と代価は不要! さぁどうする!? 食うのか食わぬのかァあああああッ! てか食えぇぇぇぇぇ!!!」


「す、すまん……仲間達が失礼なことを申した。ではご馳走になろうか、なぁ?」


 狂人モードと化したアスムの剣幕に、イオリは気圧されて仲間の女子達に訊いている。

 一人は戦斧を肩に担ぐ戦士で短い赤髪のドワーフ少女、名は『ダリア』といい端整な顔立ちをしている。


 もう一人は長い亜麻色髪の女聖職者シスターの衣装を纏う『クラリス』という少女と、鍔の広い帽子と黒マントを羽織る藍色髪の|魔法術士ソーサラー『シルビナ』という少女でどちらも綺麗な美貌を持つ人族だ。


 また金髪の長髪を靡かせ弓と矢を携えた美しいエルフの女性は『フィヒル』といい弓術士アーチャー精霊術士エレメンタラーを兼務し、最も小柄で可愛らしいショートヘアの茶髪で幼女の姿をした『オッドリー』は小人妖精族リトルフ盗賊シーフ吟遊詩人バードであるらしい。


 以上の五人が勇者イオリのパーティメンバーだ。

 しかし勇者も含め全員女子とは珍しい編成ね。

 けど不思議に全員が超イケメンのアスムに対し盛りのついた雌犬のように魅了されることなく、「この男、ヤバくね?」と寧ろ警戒度を上げている。

 私的には見ていて安心できるわ……。


「アタイらは確かに空腹だ……別に断る理由はない」


「けど怪しいです。これまで色々な『転生勇者』を見てきましたが、どれも承認欲求ばかりを満たしたがる自分勝手な者ばかり……イオリ様のような清き正しき精神は皆無です」


 了承するダリアの一方で、疑惑の眼差しを向けるクラリス。


「フィヒル、精霊達は彼のことなんて言っているの?」


「……嘘はない。ただ『狂気的なグルメ志向』だと囁いている」


 シルビナの問いに、フィヒルはぼそっとまんまを言い当てる。


「胡散臭いなぁ……ねぇお兄さん、それってどんな料理?」


「――モンスター飯だ」


 オッドリーの質問に、アスムはきっぱりと答える。

 途端、女子達の動きが止まった。

 案の定、「え? え?」と誰もが首を傾げている。


「……ちょっと待て。それってまさか魔物を食べるのか?」


「そうだ、ドワーフの女戦士よ」


「魔物なんて悍ましい輩など食べられるわけないじゃないですか!?」


「シスター、何故そう言える? ミーア族など獣人族、それにオーガ族は食べる文化があるぞ」


「……それは知っているわ。けど『ゲテモノ食』よね? それに同じ知的種族でも、私達と彼らとでは育った環境や体質がまるで異なるわ」


「出たぞ、インテリ系の魔法使いらしい偏見的なモノの見方……ならば、そこのエルフの姉さんはどうだ? エルフだって超ヤバ系のゲテモノ料理が存在するぞ。過去にご馳走になった俺でさえ、心が折れかけて涙目になった程のパンチの効いたヤツだ……」


「……もしかして『ユニコーンの馬糞ライス』のこと言ってるの? 確かに美味しくないけどタンパク質とミネラルが豊富で身体にいいんだからね」


「そう、エルフ姉さんの言うとおりだ。多少不味くても俺達は生きるため時に糞さえも食らう。ならばどうして魔物は食えないという道理になる? 偏見以外の何者でもないじゃないか?」


「いくら腹ペコだろうと、ボク達はそこまで落ちぶれてないっつーの。あと魔物は魔素が強すぎて、大抵の種族は食べたら死んじゃうって話だよ!」


「リトルフのお嬢さん、それは下処理の問題だ。ミーア族らはきちんと『魔力抜き』して食べれる状態まで処理した上で食べている。俺の考案した『モンスター飯』は、奇食やゲテモノの類ではなく、あくまで美味しさを追求したレシピだと断言しよう」


 アスムの自信満々に言い切る態度に、女子達は論破されたのか次第に何も言えなくなる。

 彼女らも空腹なのもあるけど、この男も『モンスター飯』になると、人が変わったように弁舌となるから厄介だ。


「私は日野殿の提案に乗らせてもらう。嘗て過ごした日本でも、私が大好きな納豆など外国では『奇食』扱いだったからな……何事も偏見はよくないぞ」


「明日夢で結構だ。桐生さんと言ったな。流石は同じ日本人だ。食材はそこに斃れている、オークの肉を使うが血抜きなど手伝ってくれるか?」


「伊織で良いぞ、明日夢殿。わたった、手伝おう――」


 何故か意気投合し、オークの解体とした処理を始める勇者二人。

 仲間の女子達も「イオリ様がそう言うのなら……」と渋々と作業を手伝い始めている。

 グロいのにシュールな絵面だわ……。


 対して私達は、ずっと茂みに身を隠したままだ。

 一緒に隠れているニャンキーから「女神さんは良しとして、ラティは半魔族だから姿を見せない方がいいニャア」と注意を呼び掛けてきた。

 確かに見つかったら、ややっこしいことになりそうね。


「……ところで伊織さん、おたくらはここで何をしていたんだ?」


 血抜きしてジビエの肉を削ぎ落しながら、アスムは何気に訊いている。


「無論、魔王討伐のため旅を続けている。だが難航していてな……かれこれ一週間ほど、この森から抜け出せないでいる。おかげで食料も尽きこの有様だ……」


「は? 一週間? こんな普通の森でどういうことだ? 実は呪われているのか?」


「呪いと言えばそうとも言える……まぁ転生前からなのだが、私は些か方向オンチなところがあってな。学校もスマホのナビがなければ、まともに通えたことがない」


「……些かね。なら仲間に頼ればいいだろ? そちらのパーティには森の妖精族であるエルフや、方向感覚に優れたリトルフもいるじゃないか?」


「残念なことにパーティ全員が私と同様に方向オンチなのだよ。何故か、はぐれないのは奇跡と言っていいだろう……皆、腕は超一流で統率力も抜群なのだがな」


 イオリの話によると、それがきっかけで他の冒険者から除け者にされて集まったメンバー達だとか。


 なるほど……それで、しばらく行方を晦ませていたのね。

 意外なポンコツぶりに、あの狂人勇者アスムでさえ絶句して何も言えないでいるわ。


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