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第45話 サムライ少女の勇者

 すき焼きの鍋に具材が無くなったことで、アスムはマンドレイクで作った『うどん麺』を投入する。

 鍋の中で煮詰まることで、クリーム色の麺が醤油タレ色へと染まった。

 これまた美味しそうだ。


「あまり煮詰めると味が濃くなるので色がついた時が頃合いだ。みんな食べてくれ」


 アスムに進められるまま私達はうどんを木のお椀に麺を移し、ずるるっと啜った。


「あっ! ちゃんと、うどんだわ! 懐かしくて美味しい!」


「茶色のマンドレイクはジャガイモの味がするから、割り下の煮汁とよく合うニャア!」


 私とニャンキーが舌鼓を打つ。

 例えるなら肉じゃがっぽい味かしら? 

 アスムじゃないけど、あまり煮詰めてしまうとジャガイモ風味が無くなるところね。


「……ほう、これは面白い食感だのぅ。麺に若干の歯ごたえがあり、ジャガイモの旨味と煮汁の甘しょっぱさが実によく合う。それにツルツルとした麺の喉越しが最高に爽快じゃ」


 ラティってば、とても推定年齢6歳児のコメントじゃないわね。

 一流の美食家も唸らせるほどの食レポぶりよ。


「本来のうどんは小麦粉を原料とするが、茶色のマンドレイクをすり潰し捏ねることで、同じようにもちもちの食感とコシを再現している。また少量のアメーバを生地に馴染ませることで重曹の代用となり、より麺のコシを生んでいるのだ。ただし入れすぎないのが、程よい弾力となるポイントと言えるだろう」


 アスム曰く、麺を加工すればラーメンやつけ麺にも合うとか。

 使用は多岐に渡るか……モンスター飯、恐るべしね。


「ごちそうさまでした」


 食べ終えた私達は、アスムに習い合掌して頂いた命に感謝した。

 もうお腹いっぱいよ……流石に食べ過ぎたわ。

 あの大食らいのラティでさえ満足したのか眠そうになっている。


 すると、


「――アスム、ここから少し離れた場所で複数の誰かが魔物と戦っているニャア」


 逸早くニャンキーが気づいた。

 危険察知能力の高いミーアは特に聴覚と嗅覚に優れているとか。


「冒険者か?」


「多分そうニャア。相手はオークの群れみたいだニャア」


 オークとは醜悪な豚の顔と緑色の皮膚を持つ筋骨隆々とした大柄の亜人型魔物だ。

 森に棲みつきゴブリンと同様に集団で行動しては冒険者を見境なく襲うらしい。


「今時期、オークの繁殖期でもある。奴らは知的種族の女性を見つけては見境なく襲う習性があるんだ」


「え!? 嫌だぁ……私達よく襲われなかったわね……」


 もろ女神の化身である、これだけの美少女が森の中を歩いているんですもの(自画自賛)。

 お子ちゃまのラティは置いといて、本当なら多くの男達が私を目当てに群がって当たり前よ。


「……オークとて人を選ぶからな」


「ひ、酷い、アスムってば! てか初めて毒吐いた! それって私に女子としての魅力がないと言うの!?」


 憤慨する私に、アスムは面倒くさそうに「そういう意味じゃない」と話を続ける。


「勇者の俺が傍にいるんだ。奴らだって自分から死にに来るわけないだろ? それにニャンキーが支援役サポーターとして、魔物が出没しにくい安全ルートを誘導してくれている。これまでだって野生の魔物と遭遇してなかったのもそのおかげだぞ」


 そ、そういうことね。なーんだ。

 流石はニャンキーね。伊達に月30万のギャラをぼったくってないわ。

 しかし今のキレ方は不味かったかしら? アスムに超面倒くさい女神だと思われなきゃ良いけど……。


「アスム、どうするニャア?」


「ああニャンキー……襲われているのが民間人なら助けるが、冒険者なら自己責任の範囲だ。しかしオークは超気になる。硬い筋肉繊維を処理すれば、ほぼ豚肉だからな……米がないから丼モノは無理として、それ以外の豚肉ポーク料理ならストックする価値はあるだろう」


 アスムにとって助けに入るのは、人命よりも『モンスター飯』に活かせるかの基準らしい。

 そういうわけで、私達はオークに襲われているという現場へと走った。

 うっぷ……た、食べたばかりだから吐き気が……。


 にしてもアスムとニャンキーはとにかく足が速い。

 まぁ歴戦の勇者とパーティメンバーだから当然かもしれないけど。

 そんな彼らにラティが軽い身のこなしでついて行っている。

 結局、私がビリケツだ……あれ? 私女神で最高位聖職者アークビショップの筈よね?


 間もなくして、茂みの中に身を隠しているアスム達と合流する。

 何故か加勢することなく、じっと様子を見ているようだ。

 追いついた私はしゃがみこみ、アスムの隣で身を潜めた。


「はぁはぁはぁ……わ、脇腹が痛い。アスム、どうしたの?」


「……チッ、杞憂だったか。あれは冒険者じゃない――勇者パーティだ」


「え、勇者!?」


 危なく大声を上げそうになり、咄嗟に唇を抑える。

 こっそりと身を乗り出して隙間から確認した。


 約20匹のオークに囲まれている、6人の女子達で編成された冒険者風のパーティだ。

 背の高い黒髪の少女を中心に陣形を組んでいる。


(あの真ん中の少女が勇者ね……)


 艶のある腰元まで長い黒髪のポニーテールを靡かせ、凛とした雰囲気を持つ容姿端麗の美少女。

 袴のような和装に軽装の装甲が施されているも、高身長で身体は引き締まっておりスタイルの良さが伺えていた。

 腰元には細長い鞘に収められた日本刀に酷似した剣を携え、柄を握りながら低い姿勢で身構えている。


「――あの子は、キリュウ・イオリ! 私が転生させた勇者よ!」


 そう、思い出したわ。

 あの美少女の名は――『桐生 伊織』。

 アスムの次に転生させた勇者よ。


 前世の日本では実家が古流武術の道場で、幼い頃から英才教育を受けていた正真正銘のサムライガール。剣道の全国大会で優勝したことのある実力者だ。

 確か大の猫好きで、トラックに轢かれそうになった子猫を庇って命を落としたとか。

 転生した当初は13歳の姿だったから、あれから四年を経て今は17歳くらいね。


 最初に会った時から真面目で礼儀正しく、ラノベ脳に侵されていない素直な子だったから、私の中では「魔王討伐に一番期待できる勇者」として推していたわ。

 でもある日突然、姿を晦まし消息不明となったのよ……神界から女神が勇者に向けて催促する『夢チャンネル』にも応答できなくなってしまったわ。

 まさかこんなところで会えるとはね……でもどうして森の中でオークに囲まれているの?


「皆、私から離れるな!」


 勇者イオリが凛とした声で叫ぶと、彼女の足元から光の輪が浮き出され地面に沿う形で展開された。

 よく見ると取り囲む10匹のオーク達が輪の中へと入っている。


「――〈絶刃領域アブソルート・ブレイド〉!」


 イオリは刀剣を抜き放ち、眼前のオークに斬り掛かった。

 しかし、まだ距離がある。どう見ても刃が届かない位置だ。


 が、


 斬、斬、斬、斬、斬、斬、斬、斬、斬、斬――ッ!!!


 光の輪に入った10匹のオークが一瞬で斬られ、胴体と下半身が両断された。

 鮮やかな断面から血飛沫が舞い次々と地面に倒れていく。

 その有様を残りのオークが唖然として見入っている。


「今のうちだ! みんなァ行くよぉぉぉ!」


 叫んだのは、寸胴な体格をしたドワーフの少女だ。

 身の丈ほどの大きな戦斧を軽々と掲げて、オークを斬りつけ薙ぎ払った。

 それを皮切りに他の仲間達も戦闘を開始する。


 ほんの数秒ほどで、オーク達は殲滅されていった。

 私達はその光景を茂みに隠れながら見入っている。


「つ、強いわ……勇者イオリは勿論、パーティ全体の統率と連携が抜群ね」


「ユリの言うとおりだ。それに勇者イオリが放った剣技は、おそらく固有スキル能力か……あの円に入った敵を全て斬る能力。刀が届かない範囲だろうと関係ないらしい……しかも仲間だけは無傷という、絶対的な攻防一体のスキルのようだ」


 アスムはいつの間にか〈調理材料の慧眼イングレディエント・キーンアイ〉を発動し、魔法陣が浮き出された赤い双眸で一部始終を見定めていた。

 その本質を見極める固有スキルで、イオリが勇者なのか見抜いたようね。


「……アスム、すぐここから離れた方が良いニャア」


「そうだな、ニャンキー。長居は無用だ」


「どうして? 同じ勇者だし挨拶くらいしておけば? イオリ、とても良い子よ」


「かもしれん。だがそうとも言えない部分もある。特に『転生勇者』は『転移勇者』と違い、ややっこしい性格が多い」


 アスムさん、「おまいう?」ってツッコミたかったけど今は我慢するわ。

 だがその時だ。


「――そこにいるのは誰だ!?」


 不意にイオリの声が木霊する。

 がっつりと茂みに隠れる私達の方を見ていた。


 どうやら気づかれたみたいね……。


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