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第44話 ヒポグリフのすき焼き

 アスムが捕獲した魔物を捌き下ごしらえの『魔力抜き』している間、私とラティで食事の準備を始める。

 ニャンキーは鍋と他の調理器具をリュックから取り出し手際よく設置すると、アスムのサポートに入っていた。


「――みんな、今晩は腕によりをかける! どうか期待してくれ!」


 アスムは瞳をキラキラと輝かせている。

 見た目は凄くカッコイイ美麗の男子なのに、やっていることは狂気じみているから違和感しかない。

 多くの女子達が彼のルックスにやられながらも、告白に至らない理由がこの辺にあるわ。

 まぁ変な虫が寄りつかなくていいんだけどね。



【ヒポグリフのすき焼き】

《材料》

・ヒポグリフ(上半身の肉)

・ヒポグリフ(下半身の肉)

・マンドレイクの葉(春菊、白菜の代用)

・マンドレイクの茎(長ネギの代用)

・スライム(余分な水分を抜き加工済み、白滝の代用)

・ピルツメンチ(顔以外のキノコ部位)

・豆腐(自家製)

・バジリスクの溶き卵(イサラン国の町長から頂戴したモノ)×人数分


《調味料》

・謎の酒

・砂糖

・醤油(自家製)

・塩・七味(少々)

・竜油(邪神パラノアの背脂から抽出)


《手順》

1.最初に謎の酒、砂糖、醤油を合わせて割り下を作ります。

2.熱した鍋に竜油を引き、ヒポグリフの肉を適量に入れて表面を焼きます。長ネギも同様に馴染ませるとより美味しくなるでしょう。

3.サッと肉を焼いたら割り下を少量ほど絡ませ、一端お皿に乗せます。

4.鍋に具を入れて半分ほど割り下を入れます。さらにお皿の肉も全て鍋に入れます。

5.割り下の汁が沸騰させ詰めた状態で味見しながら、塩・七味で味を整えて完成です。

8.バジリスクの溶き卵につけて美味しくいただきましょう!



「――完成ッ、ヒポグリフのすき焼きだ! 溶き卵に絡めて食べてくれ!」


 魔法陣が描かれた簡易焜炉コンロの上で大きな鉄鍋の中でぐつぐつと煮込まれている。

確かに『すき焼き』見えるわ。

 醤油の香ばしい匂いに刺激され、思わずお腹が鳴ってしまう。


「でも、よく見たら肉の色や形が異なるわね……アスム、ヒポグリフ以外にも違う肉を使用しているの?」


「いや、肉はヒポグリフのみだ。キメラ型の魔物は部位によって肉質そのモノが異なる。ヒポグリフの場合、上半身が鶏肉で下半身は馬肉だと思っていいぞ」


「1体の魔物で色々な肉を楽しめるのもキメラ型の特徴だニャア」


 つまり見た目どおりの肉質ってわけね。

 もっとも前世で病弱だった私は馬肉すら食べたことないけど……。


「では、いただきます!」


 アスムの号令に従い、私達は合掌して命に感謝した。

 とろっとした黄色い卵にヒポグリフの肉を絡ませ、口の中へと入れる。


「うん、美味しいわ! これ馬の部分ね! 思っていたより柔らかくて口に中で溶けていくみたい!」


「確かに美味じゃ! 濃縮された割り下が肉に沁み込み、溶き卵に絡ませることでより味に深みが増しておる! 鶏肉と馬肉の上品な旨味が合わさり、牛肉や豚肉とは違った味わいが楽しめるではないか! 鶏肉のぷりっとした食感に馬肉のさっぱりとした味わいのエッセンスが舌の上で奏で合うように共演され口の中に広がって行くという、なんとも言えぬ幸福感に満たされてしまうぞ!」


 もうラティてば、いちいち食レポ上手すぎ!

 私の語彙力の無さがバレちゃうからいい加減、台詞に被せるのやめてくれる?


「刻んだピルツメンチと豆腐も煮汁の味がよく染みていて美味いニャア! これならいくらでも食べられるニャア!」


 ニャンキーじゃないけど、本当そのとおりね。

 箸が止まらないわ。

 マンドレイクの葉と茎も煮汁がしんなり染み込んでいて、とても美味しい。

 あっ、そういえば、いつも思っていたんだけど……。


「ねぇ、アスム。《調味料》で出てくる『謎の酒』ってなぁに?」


「……聞かない方がいい」


「どうして?」


 私が問い詰めると、ニャンキーが「ハッ! まさかニャア!?」と声を荒げる。


「アスム! まさか『エルフ酒』を使ったのかニャア! あれだけは流石にやめた方がいいと言った筈ニャア!」


 あのニャンキーが酷く取り乱し不満を唱えている。

 雑食性のミーア族とは思えない反応だわ。


 にしても、


「……エルフ酒って何?」


「これだ」


 アスムは〈アイテムボックス〉から一升瓶を取り出した。

 瓶に中には、にごり酒のような白く濃厚な液体が入っている。


 けど、あれ? 瓶にとても綺麗な女性がピースサインして描かれているわ。

 それに人族じゃない、切れ長の双眸に先端が尖った長い耳……エルフの女性かしら?


「以前、魔王討伐で立ち寄ったエルフの里で手に入れた代物だ。またの名を『口噛み酒』と言い、この瓶に描かれているエルフのお姉さんが身を清めデンプンを含んだ植物を食べて、容器へと吐き出し発酵させ――」


「――おい! それってヤバ系のお酒じゃないの!?」


「違うぞ、ユリ。人族の貴族の間では大人気の酒だ――何しろ俺が前世の知識を用いて流行らせた。人族の大半が、エルフの美しさに憧れているからな……」


「事の発端はお前かい!? つーか、もろ『奇食』じゃない! いくら清めたと言ったって、所詮は唾液じゃないのよ!? オゥエッ、今までなんてモノを『モンスター飯』にブッ込んでいたのぉぉぉぉ!!!」


「ちなみに貴婦人バージョンとして男性エルフの噛み酒もあるぞ」


「知るか、バカ野郎ォォォォォッ!!!」


 私が涙目でブチギレれると、アスムは「ユリ、すまん」と謝ってきた。


「……全部、冗談だ。俺がそんなの入れるわけがないだろ? この瓶はあくまでコレクション用だ」


「……本当にぃ?」


 こいつ、なまじ冷静系クールイケメンだけに感情が読みにくいのよね……。

 アスムは再度〈アイテムボックス〉から別の一升瓶を取り出し見せてくる。


「本当だ。普段は米を発酵させ微量の食塩で整えた、俺オリジナルの料理酒だ」


「な、な~んだ。それなら安心ね……もう、アスムったら!」


「すまない……が、今のご時世、米は超貴重だ。もしこの料理酒を使い切ってしまったら、つい使用してしまうかもしれん。その時のために、今からユリに謝っておこうと思ったんだ」


「やめてぇ! そんなクソ予告いらないから! てか使わせねーよ!」


 そんなアスムの話によると、以前訪れたエルフの里が魔王軍に侵略されていたことから始まったとか。

 勇者としてアスム達が魔王軍を全滅させたが、エルフの里は長きに渡る搾取により飢え死に寸前まで陥っていた。


 アスムは見捨てられず慈善で『モンスター飯』を振る舞い、一時的に飢えを凌いだが、これからの事を考えエルフの長老に前世の知識を活かした『エルフ酒』をプロデュースしたらしい。

 それから『エルフ酒』は富裕層の人族を中心に爆発的に売れ、エルフの里も裕福になったそうだ。


 またアスム曰く、「ポイントは一升瓶に描かれている、どのエルフが噛んだ酒が判別できることにある」と熱く語っている。

 はっきり言って如何わしさ満点ね……少なくとも勇者が考案する商売じゃないわ。


「――ユリ、女神のお前ならわかる筈だ。確かに奇食ではあるが、おかげで多くのエルフ達が飢えを回避し生活が大幅に改善された。俺は一つの成功だと評価している。元サラリーマンとして言えばウィンウィンだ」


「……もう、わかったわよ。そのお酒だけは絶対に使わないでよね」


「わかった、約束しよう(多分)。それと、すき焼きのシメとして予めこういうものを作ってみた」


 アスムは〈アイテムボックス〉から布に包まった麺を取り出した。

 均等に太く揃えられた「うどんの麺」だ。


「……うどんに見えるわね?」


「そのとおりだ。ただしマンドレイクで作った麺だ――」



【マンドレイクのうどん麺】

《材料》

・茶色のマンドレイク


《調味料》

・塩

・強力粉

・自家製の植物油

・アメーバ(極少量のみ。※麺に弾力と粘りが生まれます)


《手順》

1.マンドレイクの皮を剥き布に包み、柔らかくなるまで蒸します。

2.ボールの器に入れて、熱いうちにすり潰して塩と少量のアメーバを加えます。

3.潰しながら強力粉を数回に分けて入れます。

4.まとまってきたら植物油を入れて練り込みます。

5.再び布に入れ、15分ほど常温で寝かせます。

6.綿棒で伸ばし、好みの太さに切ったら完成です。



「日野家では、すき焼きのシメは雑炊と決まっていたが……やはり物価高で米が手に入りにくい状況だ。だから、うどん風にしてみたというわけだ」


 何故か申し訳なさそうに語る、勇者アスム。

 正直どうでもいい内容だけど、お鍋の具も空になり美味しそうだから食べてみることにした。


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