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第25話 アスム・ヒストリー「目的」

 アスムの思惑に再び周囲からどよめきが巻き起こる。

 今度はシーリア王女が「静粛に」と告げて静まり返った。


「……ちょっと何を言っているのかわからんな。金は良しとして、冒険者を行うことで何の利点があるのだ? 勇者アスムよ、意図を申してみよ」


「はい王様。私はなんと言いましょうか……些か他人との協調性に欠いていると自負しております」


「おまっ、そこ気づいてたの!? 些かじゃねーだろ! てか気づいておいて、その振る舞いなの!? 無自覚じゃなく、もう確信犯だからな!」


「ガルド、やめい」


「ハッ、陛下……申し訳ございません」


「勇者アスムよ、それで?」


「はい、このまま城の生活に甘んじても周囲に迷惑をかけてしまうのは必至です。教育係のガルド君は勿論、他の勇者達に対しても成長の妨げになるかと」


「ア、アスム少年……貴様はそこまで考えていたというのか?」


 単純でチョロいガルドは少しだけ見直した。

 アスムは頷き話を続ける。


「――ならば私は魔王軍襲来という『来るべき日』に向けて、実戦を交えた様々な自主訓練をしてきたいと思います。ついでに1000万Gの借金もギルドに返したいと考えています。また外の世界を知るためにも己で研鑽を重ね、一年後に必ず戻ってくるとお約束いたしましょう」


「うむ、其方は若い割に弁が立つな……その割には正直者だ。わかった認めよう。30万Gも現金で支給しようではないか」


「はい! ありがとうございます!」


「ただし条件がある」


 ノイス国王は、何気にボーッと立っていたハンナに視線を向ける。


「ハンナよ、貴様も勇者アスムと共に行動を共にするのだ」


「えっ! 私もですか!?」


「そうだ。そして定期的にガルドに報告しろ、良いな?」


「わ、わかりました! 今度こそアスム様を立派な勇者として導きましょう!」


 やたら気合を入れるハンナに周囲は「大丈夫か、この子……」と不安視の眼差しが向けられていた。

 国王の意図として、ハンナはドジっ子の見習い神官ではあるが一通りの回復魔法が使える才女でもあるとか。

 暴走勇者のアスムの監視役だけでなく回復術士ヒーラーとしての任命も含まれていたようだ。


 かくして尋問は終わり、アスムは翌日に王城を離れることになった。


◇◆◇


 三日後。


 アスムは一通りの荷物を〈アイテムボックス〉に収納し、ハンナを連れて城門を出ようと移動する。


 すると門の前に、ユウヤとリンとナオの勇者達が待っていた。

 ちなみに彼ら三人は城に残り訓練を続けていくことになっている。

 アスムは立ち止まり軽く頭を下げた。


「みんなにも色々と迷惑をかけたかもしれん。そこは悪かったと思っている」


「別によ。けど明日夢君はどうして、そんなに意固地なのか気になっていたけどね。私達を避けているようで、そうとも見えないし……」


「……凛さん、俺にはやるべき事がある。キミら転移者と違い魔王を斃せば終わりというわけにはいかない。その後、異世界ゼーノでのセカンドライフや人生設計も含めてな……そのために必死で足掻いているだけだよ」


「明日夢君ってば凄いねぇ。まだ中学生でしょ? お姉さん、感心しちゃうなぁ」


「……奈緒さん。何度も言っているが俺の精神年齢は35歳だ。しかも二度目のやり直しとなれば、それくらい考えて当然だろ? (ぶっちゃけキミらに年下扱いがされるのが嫌で避けていたところもあるんだぞ)」


「そう頑張ってね、明日夢君」


「何かあったら、いつでも戻って来て良いから」


 リンとナオの優しい言葉に、アスムは「ありがとう」と感謝の意を伝える。

 何気に壁際の方で距離を置いて立っているユウヤと目が合う。


「明日夢、僕はお前のような身勝手な奴はどうでもいいと思っている。魔王は僕達で斃すから、お前はこの世界で勝手に好きなように生きろ」


「……そう願うよ、雄哉君」


 アスムはユウヤ達と別れ門橋を渡った。


 しばらく歩くと一頭の騎馬が追いかけて来る。

 跨っている人物はガルドだった。


 騎馬はアスムの近くで停まり、ガルドが降りて駆け寄って来た。


「アスム少年」


「やぁガルド君、どうしたんだ?」


「これをやる、餞別だ!」


 ガルドはぶっきら棒に腰に携えていた両手持ちの剣バスタードソードを差し出した。


「……ありがとう。ガルド君には一番世話になったかもしれん。昨日の模擬戦闘でも実は手を抜いていただろ?」


 アスムの問いに、ガルドは「フン」と鼻を鳴らす。


「……正直、貴様のような奴は見たことがない。反骨精神とは違う、ただの狂人ではあるが……だが私の教え子には変わりない。しかし『鑑定祭器』で低評価だったにもかかわらず実力は本物だ、そこは認めよう……だから持っていけ、業物の剣だ」


 鞘から剣を抜くと鮮やかな青銀色の剣身を覗かせた。

 それは鋼よりも硬く貴重な物質とされるミスリル製の剣だ。


「うん、実に良い剣だ……材質といい包丁に改造するのに的している」


「き、貴様、今なんて言った? やめろよ、おい! 陛下から頂いた超高価なミスリル製だぞ! やっぱ返せ!」


 ガルドは奪い取ろうとするも、アスムはひょいと躱してハンナの手を取り走り出した。


「じゃあな、ガルド君! 一年後に会おう!」


「うっせーっ! 戻ってくんな、イカレ勇者ッ!」


 悪態つくもガルドは後を追うことなく踵を返し騎馬に跨る。

 心なしか微笑み見送っているように思えた。


「……アスム様、本当はガルド様と仲良しなのでは?」


「ああ、ハンナ。彼はこの異世界ゼーノで初めての友達だと思っている。前世でも、俺のためにあそこまで本気で親身になってくれる人はいなかった……ガルド君は良い人だ」


 それからアスムとハンナは真っすぐ冒険者ギルドに向かった。


 ギルドには支援役サポーターのミーア族、ニャンキーが大きなリュックを背負って待機している。


「にゃアスム、待っていたニャア」


「ああニャンキー、今日から頼む」


 軽く挨拶を交わし、アスムは契約金を渡した。


「これからも毎月30万Gずつ渡せば、俺について来てくれるのか?」


「先約がいなければそうするニャア。けど数カ月に1回は村に戻るから、その時はお休みを頂くニャア」


「構わない、それで頼む。こっちはハンナだ。一度会っているだろ?」


「うにゃ。神官のお姉さん、よろしくニャア」


「はい、お願いします! (か、可愛い~、見てるだけで癒されます!)」


 しかしハンナはこの後、衝撃を受けることになる。

 一見して可愛らしい猫の姿をしたニャンキーだが、実は年齢30歳のベテラン冒険者で妻子持ちだということを――。


「よし、では早速、受付場に行くぞ! 沢山クエストをこなし借金を返し、ニャンキーの雇用代を稼ぐぞ!」


「アスム様……私達の生活費はどうなされるのです? ノイス陛下から資金援助を受けられているとか?」


 気合を入れるアスムにハンナが恐る恐る訊いてきた。


「ん? いや王様からは30万Gしか頂いていない。その借金もあったな……やれやれ」


「え? その30万Gって今ニャンキーさんに渡しましたよね? ってことは、私達は無一文ですか?」


「そうなる。だからクエストを受けるのだろ?」


「ええ!? なんか杜撰ッ! 固有スキルの交換では、あれだけの行動力を見せていたってのにぃぃぃ!!!」


 もしかしてアスムは己の目的以外では適当かもしれないと、ハンナは気づき始める。


「まぁ確かに杜撰な部分は認めよう。当面は野宿でありきの自給自足だからな。しかし、そのためにニャンキーを雇っているんだぞ」


「おお、アスム……ついにアレを実行するかニャア?」


「あれってなんです?」


 二人の問いに、アスムはニヤッと口端を吊り上げる。


「……俺はこの時をずっと待っていた。誰にも束縛されず自分の思うままに研鑽を重ねられ、いつでも新鮮で最高の食材を手に入れられる環境……まさしく冒険者職がうってつけだと思わないか、ハンナ君?」


「え? え? 研鑽はまだわかるとして食材って何ですか!?」


「――モンスター、つまり魔物肉だよ」


「魔物!? ま、まさか、アスム様……魔物を食べる気ですか!? お腹壊すじゃすみませんよ!」


「無論、百も承知だ。ハンナ、これはトップシークレットだぞ……ニャンキーを雇ったのは、彼が魔物を食べれるよう処理する方法を知る先人猫という理由がある。俺は彼からその方法を学び、至高かつ究極のレシピを完成させるつもりだ」


「レシピですか?」


 ハンナの問いに、アスムは「そうだ」と首肯する。

 間を溜め重々しく口を開いた。


「――モンスター飯。この革命的な料理をそう命名した」

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