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第22話 アスム・ヒストリー「交換」

 現在。


 アスムは火の番をしながら転生した当時の出来事を語ってくれている。

 今のところ、ぶっちゃけ微妙としか言えなかった。


 けどアスムが『モンスター飯』以外のことで、ここまで詳細に話してくれる機会は滅多にないだろうから、私は黙って聞くことに撤している。


「……固有スキルは強力であればあるほど何かしら致命的な縛りが生じるものだ。俺が最初に獲得した〈極限光輝の爆撃滅殺マキシマム・バーストエンド〉が、その典型的と言えるだろう」


「反動と魔力切れで3分間ほど動けなくなること? 確かにヒットすれば絶対だけど不発だった場合リスクは高いわね」


「そうだ、ユリ。勿論それもある。ガルド君からは『固有スキルはここぞという時に使うものだ』とか色々愚痴られたが、そんなの百も承知だ……俺にとってそれよりも致命的な欠点があった」


「欠点? 何それ?」


「――威力が強力すぎて狩りをした際、貴重な魔物を素材どころか肉片一つ残らず粉砕してしまうことだ。モンスター飯の料理人を目指す上で本末転倒のハズレとしか言えない固有スキルだと思わないか?」


「結局そっちかよ!」


◇◆◇


 話は過去に戻る。


 アスムは見習い神官のハンナを連れて大聖堂を出た。

 悲壮感を漂わせながらトボトボと歩き憔悴するマークと、そんな彼を慰めている幼馴染のローラを見かける。


「そこの少年、待ってくれ!」


「……ん? お前はさっきの太チョか? 俺になんの用だ……もう放っておいてくれよ」


「そうよ! 貴方、お城の人達に護衛されていたわね? どこかの貴族なの? どちらでもいいわ! もうマークに関わらないで!」


 絶望し生気のないマークを庇うようにローラが非難してくる。

 どう見てもマークの胸ぐらを掴み怒鳴り散らしたアスムが悪い。

 けどアスムは然程意に介していない。

 この男、『狂気的グルメ志向』に陥ると周囲の迷惑を顧みないところがある。


「その節はすまん。だが俺はどうしてもキミに興味がある……どうか話を聞いてくれないか?」


「話だって?」


 マークの問いにアスムは力強く頷き詳細を説明した。


 束の間。


「――なっ! 固有スキルを交換してほしいだと!? んなことできるワケないだろ!?」


「何故そう言える? 前例はあるぞ、俺が食ってかかった司祭だ。あの老人は血筋でもないのに〈固有能力覚醒スキル・デスペルタル〉という固有スキルを継承している。しかも一度ではない、歴代に渡り延々とだ。さらに唯一無二のスキルが各国規模の大聖堂において司祭全員が宿している点にも注目するべきだろう」


「そんなの『神の加護』だと聞くぞ」


「出たわ、神の加護……そう言えば、この世界の種族達の大半が納得する都合の良い、まさしく魔法の言葉だな。俺は女神に会ったことがある――彼女の説明では勇者にだけ共通して〈アイテムボックス〉という収納スキルを恩寵ギブトとして与えるが、宿された固有スキルは別だと言っていたぞ」


「女神? 勇者? ま、まさか……あんた、勇者なのか!? そのナリで!」


「嘘でしょ! そんなお腹で!?」


 マークとローラが失礼な意味で驚いている。


「……腹は関係ないだろ? この腹には妹との大切な思い出が詰まっているんだ。んなことはどうでもいい。俺の憶測では固有スキルのコピーと交換する技術が存在する筈だ。それを使って、マーク少年が覚醒した〈調理材料の慧眼イングレディエント・キーンアイ〉と交換したい……是非に俺に譲ってくれ! 頼む!」


 アスムは地面に両膝をつけ深々と頭を下げて見せた。

 その狂気的な潔さに、マークとローラだけじゃなく付き添いのハンナさえも絶句する。


「お、俺だって出来るならそうしたいよ……けど太チョ、あんた勇者なんだろ? だったら、こんな料理スキルなんて不要じゃないか?」


「いや、いる! 欲しい! 絶対に欲しい! 俺にはどうしても必要なんだ! 頼むぅぅぅ!!!」


 アスムは屈んだままマークの足にしがみつき懇願する。

 その欲望のためなら見境がない態度に、マークはドン引きしつつ頷いた。


「……わかったよ。どうせ俺には不要なスキルだ。けど交換すると言ったってどうするんだ? まさか司祭を拉致して方法を聞き出すとか……やっべ、こいつ超やべぇ!」


「何言ってんの、マーク少年? そんな悪いこと俺がするわけないだろ? こう見ても勇者だ。そんなさも犯罪めいたことなどするものか。多少裏技こそ使うが誰かに迷惑をかけるような真似はしない」


「そ、そお? ならいいけど……って、マーク少年というのを止めてくれ。どうみても太チョの方が年下だろ?」


「太チョじゃない、俺は明日夢だ。年齢に関しては、まぁいいだろう……とにかく俺について来てくれ」


「……アスム様、せっかく覚醒した〈極限光輝の爆撃滅殺マキシマム・バーストエンド〉を破棄されるのですか?」


 ハンナは怪訝した表情を浮かべ訊いてきた。

 彼女の立場だと当然そういった反応だろう。


「破棄じゃない交換だ。俺にとって〈調理材料の慧眼イングレディエント・キーンアイ〉はそれ以上に価値のあるスキルだと思っている。勇者としてもだ」


「……わかりました。私はアスム様を信じています!」


 こうしてアスムはマーク達を連れて、とある場所を目指す。


 そこは冒険者ギルドだった。

 相変わらず施設内は冒険者達で賑わっている。

 冒険者を目指すマークとローラは瞳を輝かせながら周囲を見渡していた。


「やぁ、ゲイツ。久しぶりだな?」


「アスムさん、ちぃーす! って、まだ三日ぶりっすけど」


 声を掛けられた厳つい筋肉隆々の戦士がヘラヘラ笑いながら近づいてくる。


「げぇ! まさか暴風のゲイツ!?」


「あの素行が悪いけど、『竜殺し』で有名な屈強の冒険者!?」


 マークとローラが驚愕すると、ゲイツは「ああ?」と二人を睨みつける。


「んだぁ、ガキ共? オレに文句があるのかぁ、ああ!?」


「やめろ、ゲイツ。この二人は俺の大切な友人だ。無礼は絶対に許さないからな」


 アスムは凄むと、ゲイツは強面の顔を緩ませ満面な笑みを浮かべ始める。


「な~んだぁ。アスムさんのダチっすか? お二人さん、どうかオレのことはゲイツと呼んでくださいっす!」


「「は、はぁ……」」


 態度を豹変させるゲイツに、マークとローラは顔を引くつかせる。


「……アスム様、いつの間にこのような輩と親密に?」


「ああハンナ、あとで詳しく話す。それよりゲイツ、お前に聞きたいことがあるんだ」


「オレにっすか? いいっすよ。立ち話もなんですので、酒場の方で話さないっすか?」


 アスム達はゲイツの案内で併設された酒場へとついて行く。

 テーブルにはゲイツの仲間達もおり全員が立ち上がり「アスムさん、チィース!」と頭を下げて見せてきた。

 その様子を目の当たりにし、マーク達は言葉を失ってしまう。


 アスムは用意された椅子に腰を下し、ゲイツ達に固有スキル交換する方法について聞いた。


「……なるほどっすね。闇ルートでそういうのを生業にしている連中がいるのは聞いたことあるっすよ」


「本当か、ゲイツ!?」


「うぃす。なんでも王族や貴族の息子とかがハズレのスキルに覚醒してしまった時とか、裏でそういう所を利用しているって噂っす」


「そうか、やっぱりな! 至高騎士クルセイダーのガルド君は潔癖そうだからな……そういった貴族間の裏事情を知らなかったのだろう。それでそこは何処にある!?」


「裏通りの闇市にあるとか。オレ達でよければ探すの手伝うっす」


「おお、ありがとう! 助かるよ、ゲイツ!」


「いえ、オレらアスムさんに憧れているんで……けど貴族の御用達であるだけに結構な金額になるんじゃないっすか?」


「ぐっ、金か……大体いくらくらいの相場だ?」


「よくわかんないっすけど……1000万Gとかっすかね」


「あるわけないだろ(30万Gすら用意できないのに)……マークはどうだ?」


「5千G(五千円)くらいならなんとか……」


「ハンナは?」


「見習い神官の私に聞かれても……ごめんなさい」


 当然、ローラも持ち合わせはないと言う。


「マジか……ここまで来て思わぬ壁にぶつかるとはな」


 アスムは、この異世界ゼーノも前世で過ごしてきた日本と同様に世知辛いのだと初めて知った。

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