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第21話 アスム・ヒストリー「覚醒」

「こらぁ、アスム少年! 貴様は何をやっておるのだ!?」


 ガルドが止めに入り、マークからアスムを引き離す。


「そんなにいらないなら俺にくれ! た、頼む!! 是非に譲ってくれぇぇぇぇ!!!」


「バカか貴様ァ! 潜在的に宿っていた固有スキルが他人に渡せるわけないだろうが!」


「嘘だ! だったらあの司祭は何だ!? どうして他人同士がスキルを継承できる!? 爺さんができて俺にできないなんて可笑しいだろ!!!」


「貴様ァ、いい加減にしろ!」


 ガルドが放つ拳骨がアスム頭上にヒットする。


「痛ッ! ガルド君、暴力反対だ! それに俺はキミより年上だぞ!」


「殴られたくなければ己の振舞いを正せ! ハンナもしっかりその愚か者を見ておけよ!」


 アスムはガルドに引きずられ、元いた位置に戻される。


「……痛てて。すまん、ハンナ……キミまで怒られてしまった」


「いえアスム様、大丈夫ですか?」


「ああ流石だよ、ガルド君は……見切って躱そうと思っても途中で拳の軌道を変えてくるんだ……彼の強さは本物だと思う」


「……そういうこと聞いているんじゃ。どうやら大丈夫そうですね」


 ハンナが呆れていると、司祭が「フォフォフォ」と微笑みながらアスムに近づいて来る。


「少年よ。ワシら司祭職を引き継ぐにあたり全能なるゼーノ様の導き下で、〈〈固有能力覚醒スキル・デスペルタル〉を継承し次の世代へと託すことができるのじゃ」


「ならば〈固有能力覚醒スキル・デスペルタル〉という能力に限られると?」


「そのとおりじゃ」


「だったら貴方が元々宿していた固有スキルはどうした? 受け継ぐってことは、受け渡した先代の司祭が無能力者になるってことだよな? それとも〈固有能力覚醒スキル・デスペルタル〉のみコピーされる仕様なのか? あるいは司祭自身が二つ固有スキルを宿した形なのか?」


「うむ、何と説明したら良いのかのぅ……(こいつ面倒くせぇ)」


「司祭様、こやつの事はどうか気にせずお勤めに励んでください。こらぁ、アスム少年! 貴様も勇者だろ、大概にしろよ!」


「……わかったよ、ガルド君(この男の拳撃だけ未だ躱せん)」


 アスムは身を引きつつもブツブツと呟き思考を巡らせる。


(納得いかない。絶対に可笑しい……おそらく固有スキルのコピーと継承のどちらも技術として存在している筈だ。でなければ各国で毎年『固有スキル覚醒儀式』が行われているわけがない。きっと『神の加護』という名目で秘密裏にされているに違いない)


 などと疑念を残したまま『スキル覚醒儀式』は再開されていく。


 一般の少年少女達の通過儀式が終わり、いよいよ勇者達の番となった。

 先陣を切ったのはリーダー格でもあるユウヤからだ。


「ハァァァイ! 出ましたぞ、目覚めし固有スキル――〈至高の剣撃波シュプリーム・ソードウェーブ〉!」


 覚醒したスキルは大昔の勇者が覚醒したとされる最強スキルの一つであり、瞬間的に肉体を限界以上に強化させることで圧倒的な剣撃力と斬撃波を放つ能力だとか。

 直後、大聖堂から大歓声が上がりユウヤは注目の的となる。


「は、ははは……これってレアを当てたのか?」


 ユウヤは苦笑いを浮かべながら頬を掻いている。けど満更ではなさそうだ。


「うぉぉぉぉ! やったぞ、ユウヤァァァ! 流石、私が目をかけた自慢の弟子だぁぁぁ!」


 ガルドは本人よりもテンション爆上げで喜んでいる。

 てか、いつ弟子になったんだろうとアスムは思った。

 次にリンの番だ。


「ハァァァイ! 出ましたぞ、目覚めし固有スキル――〈審判の矢ジャッチメント・アロウ〉!」


 こちらも最強クラスのスキルらしく百発百中の命中精度は勿論、矢がない状態でも複数の光の矢を作り如何なる存在だろうと射抜く能力を持つ。

 再び大歓声が起こる。


「……そ、そう? そんなに凄いの? なんだか実感がないわ……」


「流石だ、リン! 私は信じていたぞ! いよっ女傑の鏡ッ! 師として鼻が高いわぁ、ハーッハハハ!」


 戸惑いを見せるリンにガルドは歓喜して褒め称える。

 てか何気に「師」とか言ってるな、ガルド君……っとアスムは思った。

 続いてナオの儀式が行われる。


「ハァァァイ! 出ましたぞ、目覚めし固有スキル――〈無限の魔力形態インフィニティ・マナモード〉!」


 案の定、最強スキルだ。

 一定時間、魔力が減ることがなく高度な魔法を連発して繰り出せる能力であった。


「あはっ。これって凄いんだよね? やった~!」


「おおっ、ナオ! やった……やったぞ! これでフォルドナ王国は安泰だ……我が弟子達に乾杯ッ!」


 素直に喜ぶリンに、ガルドは男泣きする。

 他の二人はまだ理解するとして、ナオはもろ魔法重視の勇者だから流石に至高騎士クルセイダーであるガルド君が師匠ぶるのはお門違いじゃないのか……っとアスムは思った。


 そして最後はアスムのみとなる。


「アスム様ーっ、頑張ってぇ! ファイト!」


 ハンナの大きな声援が聞こえてきた。


(だから何を頑張れと言うのだ?)


 一応、アスムは手を振って司教の前に跪く。

 発光する手を彼の頭に置かれた刹那、司祭は見たことがないほど小刻みに震え始める。


「……来る、来るよ! 何これ!? 嘘でしょ……こんなの来るの? 来ちゃ駄目でしょ? やっぱ来るの? 来ちゃうの!? 来る来る来る来る来るゥゥゥゥ、来だァァァァァァァァ――……!!!」


 司祭は絶叫し白目を向いて倒れてしまった。


「し、司教様ぁ!?」


 ガルドは慌てて駆け寄り安否を確認する。

 全身をひくつかせ口をパクパクさせていた。一応意識はあるようだ。

 司祭は呻き声を上げながら何かを喋っている。


「……で、出ましたぞ、目覚めし固有スキル――〈極限光輝の爆撃滅殺マキシマム・バーストエンド〉! ハアァァァーイッ!!!」


「何だと!? 超伝説級の絶対的最強スキルじゃないか! ア、アスム少年が……信じられん!」


「キャーッ! やりました、アスム様ぁ!! 私は信じてましたぁぁぁ!!!」


 呆然とするガルドを他所にハンナは声高らかに歓喜する。

 周囲も「マ、マジで?」と異様などよめきを見せていた。

 唯一、ユウヤだけは顔を顰め「チッ」と舌打ちしている。


「〈極限光輝の爆撃滅殺マキシマム・バーストエンド〉? 何だ、それは? 料理に活かせるのか?」


 当のアスム本人は何を言われたのかわからず立ち上がり首を傾げている。

 するとガルドが彼の両肩を掴み、真剣な眼差しを向けてきた。


「バッキャロー! いいかよく聞け、アスム少年! 〈極限光輝の爆撃滅殺マキシマム・バーストエンド〉はどんな敵だろうと触れることで爆殺させる破壊の能力だ! つまりだ! 貴様は魔王を一撃で斃せる力を得たということだぁぁぁ!!!」


「ええぇぇーっ! 超いらねぇーっ!! ハズレじゃねぇぇぇかぁぁぁぁ!!!」


「ハズレとなんだ!? 話聞いてたか!? 貴様は世界を救うスキルを手に入れたんだぞ! もう無双だぞ、無双ッ!」


「……ガルド君、それは違う。確かに破壊力は抜群そうだ……けど料理に活かせないだろ?」


「料理は関係ないだろ!? 貴様は勇者だろ!? ならまず魔王斃せよ!」


「無論、勇者の使命を忘れたわけじゃない……が、どうも怪しい。どうせ一発放ったらしばらく動けないとか縛りがあるんだろ?」


 アスムの問いに、司祭はむくっと起き上がった。


「そのとおりじゃ。〈極限光輝の爆撃滅殺マキシマム・バーストエンド〉は超膨大な光属性の魔力を掌に集中させ一度に放つ絶大の破壊スキルである。その反動と魔力切れで3分はまともに動けぬじゃろう」


「ほらな。もし魔王が先読みして俺の攻撃を躱したらどうする? 案外、影武者を囮にして、動けなくなった隙を狙ってくるかもしれんぞ!」


「そういうこと言ったらキリがないだろ? 卑屈なことを言うな。まぁ貴様が期待できる固有スキルに目覚めたのは事実だ。これで私も肩の荷が軽くなったというもの、ハーッハハハ!」


 高笑いするガルドに、アスムは「チッ」と舌打ちする。


「……わかった、少し頭を冷やしたい。ガルド君達は先に城へ戻ってくれ」


「んじゃそうさせてもらいますぅ。ハンナ、アスム少年のことを頼むぞ」


「はい」


 こうしてガルドとユウヤ達は立ち去り、他のみんなも帰って行く。

 大聖堂にはアスムとハンナだけが残された。


「ったく、他人事だと思って……まぁいい、考えはある。いくぞ、ハンナ」


「……はい。あのぅ、どちらへ行かれるのです?」


「マーク少年のところに行く。蛇の道は蛇だ――」

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