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第14話 アスム・ヒストリー「転生」

 アスムの大切な妹、コハルちゃんが異世界ゼーノで転生されているかもしれない。

 一部の望みを残し、私達はニャンキーが用意してくれた寝袋に入り就寝することにした。


 けどまるで眠れない。

 久しぶりに肉体を得たこともあるし、そもそも女神だった頃は眠る必要がなかった。

 神界でもパワハラに耐えながら不眠不休で働いていたからね。


 一方でラティは可愛らしくいびきをかいて熟睡中よ。

 私を神界に帰れなくした元凶の癖に全く緊張感のない子だわ……まぁ仕方ないけど。


「痛ッ、なんなの!」


 時折、ラティにお腹を蹴られてしまう。寝相まで悪いとは始末におけないわ。

 私は避難するため仮設テントから出た。

 すぐ傍にはアスムが焚火の番をしており、棒で火を突っつく姿はやたら様になっている。


「ユリ、眠れないのか?」


「ええ、まぁ……アスムは眠らないの?」


「あとでニャンキーと交代することになっている」


 そのニャンキーは焚火の前で丸くなって寝ている。

 臆病な性格ということもあり野宿する際は、野外で寝ていた方がすぐ逃げられるからだとか。

 それに勇者であるアスムの傍で寝ていた方が安全という理由もあるみたい。

 確かにこれ以上の護衛役はいないでしょうね。


 私は毛布に包まりながらチラッとアスムを見つめる。

 五年前とはまるで違う、別人のように変貌を遂げた容姿。


 女神の私がドはまりするほど超カッコイイ……。


 本人は「食べ物を変えたからだ」と言ってたけど未だに信じられないわ。

 けどこれだけの良い男……いくら変態でも恋人の一人もいなかったのかしら?


 それに私って彼の空白の五年間を知らない。

 せいぜいモンスター飯にドハマりし有能な固有スキルを調理スキルに交換したり、聖剣を包丁に作り変えたことぐらいね。


 どっち本末転倒の狂人伝説よ。

 けどきっとそれだけじゃない筈――。


 ちょっとだけ聞いてみよう。


「……アスム、『ゼーノ』転生した時は大変だったんじゃない?」


「まぁな。ユリファのおかげで若返ったのは良かったが……人間関係、いや種族関係か? 今思えば修行や戦いよりも、そっちの方が大変だったかもしれない」


 彼は火を愛でながら身の上話と転生したばかりの頃を淡々と語り始めた。


◇◆◇


「成功しましたぞ! 姫様!」


「これぞ神々の奇跡ッ!」


「ああ勇者様、なんて麗しきお方なのでしょう!」


 遡ること五年前。

 神界で私と別れたアスムは異世界ゼーノに転生した。


 転生先はランダムだけど、主に女神として私の息がかかった……おっと口が悪いわ。

 導きの女神ユリファを祀る神殿に限られている。


 そして転生先は『フォルドナ王国』という大国であり、東大陸に位置する武力にも優れた強国であった。

 けど、このフォルドナ王国は女神としてかなり厄介な側面もある。


「ここは……女神の言うとおり僕達は異世界に『召喚』されたのか?」


「夢じゃなかったのね……」


「どうしょう……私達どうなるの?」


 アスムが目覚めた前方に、三人の男女が床に浮き出された魔法陣の上に立っている。


 一人は長身の爽やか系のイケメンでアイドルのような顔立ち。

 後で知ることになるが、彼は『堂上どうがみ 雄哉ユウヤ』という16歳の高校生だとか。


 もう一人は真面目そうに眼鏡をかけた綺麗で長いストレートヘアの女子高校生、『河北かわきた  りん』で同じく16歳。

 すらりとしたスレンダーな体形でモデルのような知的美少女だ。


 最後の一人は『深瀬ふかせ  奈緒なお』というショートヘアの女子高性。

 他の二人とは同級生であり、小柄で可愛らしいアイドル系の容姿に何より胸が大きい。


 そう、この三人は転生者ではない。


 ――地球からそのまま召喚された『転移者』だ。

 三人の後ろ側で転生者であるアスムがぽっつんといる状況だった。


 これがこの国の厄介な側面よ。


 フォルドナ王国は導きの女神ユリファを祀ると同時に、召喚の女神リエスタも祀っていたのだ。

 日本で例えるなら仏教とキリスト教が派閥に別れて、それぞれ同じ神社か教会内で祀られている感じかしら?

 つまりアスムは転移者達と同時に転生してしまったことになる。


 絶対にリエスタの嫌がらせね!

 あの貧乳の後輩ヅラした第三女神、事あるごとに私に突っかかって来てたから!


「これぞ奇跡です! 勇者様ぁ、どうかフォルドナ王国をお救いください!」


 美しいドレスを身に纏う長い金髪の美少女が両手を組み呼び掛けてきた。

 しかもアスムではなく、イケメン高校生のユウヤに対して。


「あなたはいったい?」


「申し遅れました、わたくしはシーリア。このフォルドナ王国の第一王女ですわ」


 シーリアは名乗ると青い瞳を潤ませながら、ぐいぐいとユウヤに寄り添っている。

 この女、なんかあざとくね?

 何かちょっと前の自分を見ている気分なのは気のせい?


「さぁ勇者様方、国王がお待ちです。ささ、どうぞ」


 神官風の男がユウヤ達を誘導する。

 三人は「は、はぁ」と状況が飲み込めないまま王女達と共に部屋から出て行く。


「あ、あのぅ……俺はどうしたらいいんだ?」


 ぽっつんとアスムだけが広間に残されていた。

 間もなくして、別の小柄で華奢な少女風の神官が慌てた形相で走りながら戻って来る。


「ハァハァハァ……し、失礼しました! もうお一人いらっしゃいましたね! すっかり忘れて……いえ気づきませんでした!」


 がっつりスルーされたアスム。

 彼曰く、「俺は昔から影が薄かった」と証言している。


 少女神官は『ハンナ』と名乗り、女神ユリファ(私)に信仰する見習い神官だとか。

 短めの薄茶色髪で瞳は琥珀色をしており、温厚そうで可愛らしい容貌を持つ少女だ。

 後に15歳であると語られている。


「あのぅ、勇者様……失礼ながら、この場で鑑定してもよろしいでしょうか?」


 ハンナという見習い神官は脇に抱えていた石板を差し出して見せてきた。


「なんだ、それは?」


 アスムは率直に訊ねた。

 見た目こそ、ぽっちゃりとした14歳。

 しかし精神年齢が35歳だけに、15歳の見習い神官少女ハンナに対し、ついタメ口となってしまっている。


 それでもハンナは嫌な顔せず説明してくれた。


「これは勇者様の潜在能力ポテンシャルを確認するための鑑定祭器です。この石板に手を触れて頂くことで、勇者様の魔力属性や戦闘に適した系統が判明いたします。また潜在能力が高ければ高いほど、石板に刻まれた呪文語ルーン文字が発光し、貴方様の潜在能力ポテンシャルを鑑定することができます」


 ハンナの説明によると、石板の文字は白色・黄色・緑色・青色・赤色の順で輝く仕組みで、赤色が最も高く勇者としての将来性が期待できるようだ。


 フォルドナ王国はその結果を基に各勇者達の使用する武器や訓練などを提供し、教育していく方針であった。


「……他の三人は触れたのか?」


「ええ、勿論! ユウヤ様とリン様の適性が高く、特にユウヤ様が触れた石板は眩いほど赤く光っておりました! ナオ様は緑色と……少し心もたないですが反面、魔力属性が抜群で十分に期待できる逸材でありました!」


 たとえ潜在能力ポテンシャルが低くても、後の『スキル覚醒儀式』で手にする固有スキルでカバーできるので落ちこぼれ扱いにはならない。

 そもそも女神に選ばれた時点で、彼らは常人よりも勇者達の適正と潜在能力ポテンシャルが高いと言えるだろう。


「そうか……なら俺も触れておこうか」


 アスムは躊躇しながらも石板に触れた。

 そこから魔法陣が浮かび上がり、何か文字が浮かび上がる。

 すると、ハンナは「ええ!?」と声を荒げた。


「魔力属性は『光』ですが全統系の使用が可能! 戦闘スタイルは万能タイプ……つまりどのような武器でも使いこなすハイスペックのオールラウンダー!?」


「そんなに凄いのか?」


「凄いなんてものでは――きゃぁぁぁ!」


 次第に石板に刻まれた文字が発光し始める。

 それはハンナが説明したどの色でもなかった。


 視界を奪うほどの――黄金色の輝き!


 さらに、


 ボウッ!


 突如、石板から爆音が鳴り響き粉々に砕かれてしまった。


「わぁっ!」


 その勢いで、ハンナは思いっきり尻餅をついてしまう。


「はわぁぁぁぁ……う、嘘でしょ? こんなことって……」


 腰を抜かしながら酷く狼狽していた。

 ある意味、前代未聞の珍事。そう捉えることもできる。


 けど女神の私は理解した。


 ――想いが強い魂ほど、転生時の肉体あるいは潜在能力ポテンシャルに影響される。


 そう、アスムはこの時から一線を画す超越した才能を秘めていたのだ。

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