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第5話 邪神竜の竜田揚げ

【邪神竜の竜田揚げ】

《材料》

・邪神パラノアの肩肉と胸肉の部位


《調味料》

・謎の酒

・自家製の醤油

・みりん

・砂糖

・すりおろしニンニク

・自家製の片栗粉


《手順》

1.一口大に切った邪神竜の肉をボウルに入れます。

2.調味料を入れ、よく揉みます。

3.10分以上置きます。

4.肉を片栗粉につけて180℃の油で揚げていきます。

5.衣がこんがり焼けたら出来上がりです。



「――完成! これが邪神竜の竜田揚げだ!」


 完成じゃねえっつーの。

 そろそろ殴っていいかしら?


 結局、30分も待たされたわ。

 その間、真相を話してくれればいいのに、こいつてば料理に夢中で出てくる台詞はモンスター飯のうんちくばかりよ。


「うっひょーっ! アスムよ、待ってたぞい!」


 一方で幼女化した魔王ラティアスは手を叩いてはしゃいでいる。

 見た目はとても無邪気で可愛らしいのになんか腹が立ってきたわ。

 つーかそれ……あんたのご主人様の成れの果てだからね。


 けど、この大皿に乗った大量の竜田揚げ。

 カラっと揚げられた色合いもそうだけど、何より香ばしくて良い香り。


 凄く美味しそう……。


 お腹が空いているだけに尚更ね。

 このまま空腹だとイラついて仕方ないし。


 私は用意された箸で一つを器用に摘まむ。嘗て日本人だったから、これくらいできて当然よ。

 対して魔王ラティアスはフォークでブッ刺している。これも文化の違いってやつだ。

 そのまま口へと運び咀嚼する。


「――ん! お、美味しい!」


 嘘ッ、邪神の肉なのにめちゃ美味しいんだけど!

 何これ! 記憶にある竜田揚げの中で一番美味しいわ!

 やばい……止まらない! 次々とほうばってしまう。

 清く美しい女神なのに私ったらはしたないわ。


 そんな私が食べている光景をアスムが双眸を細め見守るように微笑んでいる。


「……良かった。女神でも味覚は共通なんだな。沢山あるから食べてくれ」


 な、何よ、このイケメン! 優しすぎて惚れちゃうじゃない!

 さっきまで、あれだけボコボコにしてやりたかったのに!


 まぁ元々性格は悪くないからね……ただモンスター飯に取り憑かれた狂人なだけよ。

 あっ、それってもう致命的か……。

 私がそう思う一方で、魔王ラティアスはというと、


「うむ、いくら食べても飽きぬなぁ! まるで鶏肉と牛肉の中間くらいの味じゃろうか!? さくさくとした衣の食感に中はふわふわ柔らかく、ジューシーな肉汁とニンニク醤油の旨味が口いっぱいに広がっていくではないか!」


 こ、こいつ、食レポうめぇ!?

 見た目は6歳児なのに食通への並々ならぬ拘りを感じるわ!

 いったい何者なの!? って、魔王だということすっかり忘れていたわ……。


 そうしてお腹が満たされたところ。


「アスム、そろそろお話して頂いてよろしいでしょうか?」


「ん? おかわりか? わかった、食材は大量にあるから待っていろ」


「ちげーよ! 邪神パラノアの件についてぇ!」


 つい素でブチギレてしまう、女神の私。

 だって、このままだとエンドレスに邪神の竜田揚げを食べさせられちゃうわ。

 いくら美味しくたって、そればっかだと流石に胃もたれしちゃうでしょ。

 あっ、いや、そうじやなくて……。


 そんな私の隣では、既に完食した魔王ラティアスが無邪気に皿を掲げている。


「アスム~、妾はまだ食べれるぞい。もう一皿、作ってたもう!」


「あんたは少し遠慮しなさいよ! 自分の立場わかっているの!? ずっと黙っていたけどその肉、あんた達が祀っていた邪神パラノアだからね! 仕えていた魔王のあんたが一番食べちゃいけない筈でしょ!?」


「ん、妾が魔王? 邪神……パラノア? 誰のことじゃ?」


 私の指摘に魔王はくりっとした瞳を丸くして首を傾げている。

 え? まさか気づいていない? だって後ろでがっつり死んでいるじゃん。

 それに自分が魔王だってことも忘れているの!?


「ユリファ、ラティの喋り方はこうだが、どうやら魔王だった頃の記憶を失っているらしい。だから無害と判断し、空腹のニーズに応えてモンスター飯を振舞っていたところもある。あと本人の要望で『ラティ』と呼ぶようにした」


 アスムが説明してくる。

 そういえば彼女、最初は大人びた魔女であり邪神パラノアを先に斃したら幼児化したと言ってたわね。

 ということは、この幼女の姿が本来のラティアス!?


「……アスム、どうか話してくれませんか? これはとても重要なことなのです。話によっては主神ゼーノ様に報告し指示を仰がなければいけません」


「わかった。早急におかわりを作ろう」


「だからちげーって! いい加減モンスター飯から離れろよ!」


 何よ、こいつ……もう会話にならないわ。

 残念とおり越して、もう狂気よ。


 私の壮絶なツッコミに、アスムは「ああ、そうだったな。すまん」と素直に謝罪する。

 なまじイケメンで温厚だけに罪深い男だと思った。


「俺は邪神の存在を知り、ずっと魔王城を探していた……そして、ついに城を見つけて潜入に成功し、目的であった邪神パラノアと戦闘になったのだ。その時はラティも大人びた魔女の姿であり何やらワーギャーと叫んでいたが、俺は無視し先にラティの気を失わせ無力化し、次に邪神を狩ることに成功したというわけだ」


 アスムはざっくりと説明してくる。

 色々とツッコミたいけど大体の要所わかったわ。

 とりあえずゼーノ様に報告よ!


 私は異空間収納こと〈アイテムボックス〉のスキルを発動する。

 このスキルは、導きの女神である私が勇者を異世界へと転生させる際に与える基礎スキルで、異空間を任意で作りその中に30個までの物質を保管できる能力だ。

 勿論、アスムも使えるスキルよ。


 そして〈アイテムボックス〉から透明の水晶球を取り出し天井に向けて放った。

 水晶球は天井すれすれで停止し、眩く光輝を放つ。

 光に照らされた床から立体的な映像が浮かび上がった。


 スキンヘッドで白髭を蓄えた老人風の神、主神ゼーノ様の姿だ。

 けどあれ? なんか寝そべってくつろいでいるわ……あっ、寝ながら仮想ポテチ食べてるぅ!


 ゼーノ様は私達の存在に気づき、「ハッ!?」と瞳を丸くして起き上がる。


『め、女神ユリファ! 呼び掛けるなら事前に言ってください! 抜き打ちは卑怯ですよ!』


 何よ、私が悪いって言うの?

 つーかあんたも私を地上に行かせておいて、自分だけ呑気にくつろいでいたわよね?

 自分で作った異世界だってのにそれでいいわけ?


「……申し訳ございません。ですが急を要する事態が発生しました」


 正直、文句の一つでも言ってやりたいけど、後のパワハラが怖いから堪えるわ。


 私の説明を聞き、ゼーノ様は『うむ……』と項垂れている。

 そのまま幼女化した魔王ラティアスを一瞥して、こう言い放つ。


『おそらく、その子供は魔王を誕生させるため、邪教徒共らによって生贄にされたのでしょう。邪神の巫女としての人身御供、人柱と言えます』


「人柱!? そんな、こんな幼い子を……酷い!」


『邪教徒はそういった闇に魅入られた非人道的なカルト集団なのです』


 さらにゼーノ様は説明してくれる。

 邪教徒達は適正の高い人族の子供を拉致し、生贄とすることで邪神の神子こと『巫女』を作り、邪神の力を行使して地上に厄災をもたらしていた。

 さらに巫女は力を増すことで魔王となり、ピーク時には邪神を地上に現出させる力を宿すらしい。


 まさに魔王ラティアスはその領域に達しており、邪神パラノアを実体化させることに成功した。

 だが勇者アスムによって邪神パラノアが斃されたことで、魔王ラティアスはその呪縛が解かれ生贄にされる以前であった幼女の姿へと戻される。

 同時に魔王だった頃の記憶が消失したようなのだ。


 けど幾つか疑念が残るわ。


「……ゼーノ様、だとしたらラティアスは元々人族の娘だということですか?」


『そのとおりです。しかも生まれながら神霊と共有する才能に恵まれていたと思います。それで邪教徒達に目をつけられ生贄として捧げられたのではないかと』


「ですがこの者、魔族のような角が生えております。それに話し方も、子供にしてはなんか上から目線で偉そうです」


『偉そうなのは置いといて、きっと未だ魔王である名残りがあるのではないでしょうか? 例えるなら身体に刻まれた刺青タトゥーと同様、元凶である邪神パラノアが去り魔王の呪縛から逃れても、人族ではなく半魔族として魔王の部分が残されてしまったと思われます』


 つまり一生消えない呪いのようなものなのでしょうか?

 こんな幼く可愛らしい子なのになんて可哀想……。


「ではゼーノ様、この魔王ラティアスは如何なさいましょう?」


『――殺生するしかありません』


「え?」


『邪神を斃しても、その子供が魔王であることに変わりないのです!』


「はぁ!?」


 いきなり何言っちゃっているのよ、この爺ぃ!

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