魔王ラティアスと邪神パラノアを討ち斃した勇者アスムの下へと向かう、私こと導きの女神ユリファ。
本来なら女神らしく背中から純白の翼を出現させ、魔王城まで一飛びしたいところだけど地上で神の力は使ってはいけないルールがある。
なので徒歩で移動するしかないわ。
とはいえ魔王城付近に降りたので、一時間も歩けば到着するでしょうね。
そうして一時間後。
魔王城はもぬけの殻だった。
比喩ではなく本当に誰とも遭遇せず、私は城内へと侵入している。
配下の魔族や飼いならしたモンスター達もおらず遺体すら転がっていない。
そもそも戦闘した形成すら見られなかった。
(随分と奇妙な感じね……?)
主神ゼーノ様の情報だと、アスムはまだ魔王城にいると言う。
私も転生させた彼の魂を感じ取ることはできるわ。
そうして長い渡り廊下を歩くと、大きな観音開きの扉へと到着した。
謁見の間。
この先に勇者アスムがいる。
なんだか急にドキドキしてきたわ。
……別に嫌いじゃないけど、好みのタイプってわけでもないのにね。
私ったら。
「まぁいいわ」
そう開き直り、私は扉を開けた。
少し薄暗いが魔王城にしては、ごくありふれた広間の部屋だ。
寧ろ殺風景と言っても良いだろう。
だが戦闘を繰り広げた名残りは残っており、所々の石柱や床と壁が酷く破損していた。
にしても随分と香ばしい匂いがするわ……。
そして目の前には一人の青年が悠然と佇んでいる。
彼の姿を見た瞬間、私は本能的に
や、やだぁ! この男性、凄いイケメンで超カッコイイんですけどぉ……!
すらりとした高身長。細身だが引き締まった肉体と、黒く艶やかな長めの前髪と奥で光る切れ長の双眸、綺麗に鼻筋が通った凛々しい容貌。
だけど目立った装備は見られない。一般人のような服装に、首には赤いスカーフが巻かれている。
また両腰には包丁のような奇妙な形をした二本の
とはいえよ。
はっきり言うわ……ドッストライクよ!
めっちゃタイプ、ガチ好き!
でもどうして、こんな素敵な男性が魔王城なんかに?
しかも一人でいるのかしら?
明らかに人族の男性だし、闇の魔力だって感じられないわ……。
寧ろ徹底的に鍛え極めた神々しさを感じてしまう。
いったい何者なのかしら?
その素敵な青年は私に目を合わせてくる。
「……女神様じゃないか? 五年前とは異なる服装だったから一瞬誰かわからなかったぞ」
凛とした涼やかな声で言ってきた。
え? 私の正体を知っている?
ということは……この青年は私が転生させた勇者の誰か?
嘘、全く記憶がないんだけど!
いや、そんな筈ないわ! これほどのイケメン、この私が唾をつけてないなんてことある!?
こほん……言葉が下品でした。注目しないということはあり得ませんね。
「……失礼ながら貴方はどなたでしょうか?」
「忘れたのか? 『日野 明日夢』、あんたが転生させた勇者じゃないか?」
ん? え? アスムって……あの背の低いぽっちゃりくん?
え? えっ、えええええええええええええ――っ!!!
「う、嘘よ! 肉体を蘇生させた時とは雲泥の差じゃない!? もうほぼ原形すらないじゃん! たった五年でどうすればそんなに変われるのよぉぉぉぉ!?」
女神として口が悪いとは思っている。はしたない言動なのも理解しているわ。
けどツッコまずにはいられない。
だってミラクルだもん!
てか神様だって自然の成長でそこまで導くことは不可能よ!
まさか整形でもした!?
いや、そこまで酷いってわけでもなかったじゃん……。
私の問いにアスムは真面目な顔で「う~む」と考え込んでいる。
やばっ、考えている姿も超様になっているぅ!
「……あえて言えば『食事』かな? 成長期もあってか食べ物を変えた途端、急激に身長が伸びたのは間違いない」
た、食べ物!?
確かに当時のアスムは35歳の実年齢から14歳の姿に逆行して異世界に転生させているわ。
けど、いくら成長期だってここまで変わるぅ!?
仮にダイエットしたからって、顔の原形まで豹変するぅぅぅ!?
ま、まさか……禁断の魔法に手を染めたとか?
いえ、その気配はないみたい。
アスムは紛れもない勇者……身体から漲る魔力の質でそれだけは認識できる。
――ならば受け入れるしかないわ。
そうよ、寧ろ好都合じゃない。
こんな超イケメンが私と同じ神になることができるんだもの……。
ゼーノ様に頼んでアスムが神になった暁には、主神に昇格した私の下で働くようお願いしてみるわ。
そして二人で永遠の『イケメン異世界パラダイス』を創造するのよ!
フフフ、今から涎……いえ、気持ちが高揚します。
私は興奮を抑え、コホンとお淑やかに咳払いをする。
「とりあえず状況は理解しました――勇者アスム、よくぞ魔王ラティアスと邪神パラノアを打ち斃しゼーノの地を救ってくれました。その褒美として、貴方には私と同じ『神になる権利』が与えられたのです。さぁ、私と共に神界へと参りましょう!」
「――断る」
「は?」
「断ると言ったんだ。俺は神にはならん!」
即答で拒否するアスム。
つづけさまに奇妙なことを言い出した。
「――セカンドライフは『モンスター飯』の料理人になる!」
「いや、モンスター飯って何ッ!?」
私は女神としての威厳キャラを忘れるほど猛烈に問い質した。
まさか『神になれる権利』を拒否する理由が、『モンスター飯の料理人になる』とか意味不明な思想だったからだ。
「モンスター飯とは、この世界に存在する『魔物』を食材にした料理だ。この世界では一部の種族しか口にしない『寄食』扱いだが、俺は身に着けた料理スキルを駆使し、専門の料理人として食文化の改革を目指すつもりだ!」
キラキラと瞳を輝かせて力説する勇者アスム。
素敵だけど、どこかイッちゃっている感じがする……。
そういえば彼、女神の〈鑑定眼〉で記された備考欄で「狂気的グルメ志向」と表示されていたわ。
……まさか、え? そゆこと?
ふとアスムは、「ああ、そうだった」と何かを思い出す素振りを見せる。
「言い忘れていたことがある、女神ユリファ……やはり『様』は着けた方がいいか? 見た目からして俺より年下に見えるから呼びづらいのだが?」
「ユリファで構いませんよ(今はね)。それでどうしましたか?」
「そうか助かる……ユリファ、あんたさっき魔王ラティアスと邪神を打ち斃したと言ってたよな?」
「はい、そうですね」
「確かに俺は邪神パラノアを斃した……奴の正体は九つ頭を持つ巨大な黒竜であり、神と名乗るだけあって相当な苦戦を強いられた。正直、こちらが狩られても可笑しくない戦いだった」
「でしょうね、それで?」
「だが俺は魔王ラティアスとは戦っていない」
「え? それはどういうことでしょうか? 既に魔王は誰かに斃されていたと?」
「違う」
すると、アスムは奥側の薄い暗闇の方へと指を差して何かを示す。
「――魔王ラティアスなら、先程からあそこで飯を食っている」
「え、ええええーっ!?」
私は驚愕し暗闇の方へと視線を向ける。
確かに誰かいる。
巨大な黒い物体を背にし、むしゃむしゃと大皿に乗った唐揚げのような物をほうばっていた。
けど、あれ?
――とても小さな女の子だ。
見た目は6歳くらいだろうか?
艶のある紫色の長い髪、真っ白で柔らかそうな肌、くりっとした大きな金色の瞳。
随分とぶかぶかの黒い衣を纏っており、細い肩と胸元を露出している。
一見して可愛らしい幼女だけど……。
ん? あれれ~、よく見ると頭に山羊のような小さな角が生えているわ。
ま、まさか……あんな小さい女の子が……。
「あのぅ、アスムさん……ひょっとしてあの女の子が魔王ラティアスとでも?」
「そうだ。最初は大人びた魔女だったが、邪神パラノアを斃したらあのような幼女となったんだ。それで腹が減ったと言うから、俺が『竜田揚げ』を作り提供したというわけだ」
え!? ということは魔王を飛び越えて、ラスボスである邪神の方を先に斃しちゃったの!?
それはそれでなんか凄いんだけど!
てか魔王、ワレ生きてたんかい!
ところで何しれっと竜田揚げ食ってんのよ!?