「女神ユリファ! ついにやってくれましたよぉぉぉ!!!」
神界時間の翌日、主神ゼーノ様に呼び出された途端こんなことを言ってきた。
最初はまた怒号が飛ぶかと思ったけど、今回は何か様子が変だ。
「……あのぅ、何をやってくれたのでしょうか?」
「ええ、ついに魔王を斃した勇者が現れたのです!」
「へ~え、それはおめでたい……ん? え、えええええーっ!?」
驚愕する私に、ゼーノ様は双眸を細めて頷く。
どうやら喜びの方だったみたい。
白髭面だか感情が読みにくいわ、まったく。
それはそうと!
「ゼ、ゼーノ様……いったいどの勇者が魔王を? 私が言うのも可笑しいですが、転生させたどの勇者もラノベ脳に侵された変人ばかりです! まさか『気づけば魔王を斃していた』とか某タイトル並みにふざけた無双展開だったのでしょうか!? だったら最初からそれやれっての! あのオタ共がぁぁぁ!!!」
いけない。興奮しすぎて、ゼーノ様の前でつい素の部分が出てしまったわ。
でも仕方ないじゃない。
――だって転生させてから10年よ!
真面目に冒険した10年なら「頑張りましたね」と労ってあげれるけど、奴らの大半は「レッツ、スローライフゥ! ハーレム最高ッ、フゥーッ!」とかほざいて異世界生活をただ満喫していただけだからね!
きっと世界情勢が悪くなったもんだから「スローライフどころじゃない!」と危機感を覚えて、やっとこ重い腰を上げやがったんだわ!
結局あいつら自分のためじゃん!
……はぁ、落ち着いて私。
崩壊前に魔王を斃したのは事実よ。
これで私の降格は無くなったわけじゃない……出世できるか微妙だけど。
取り乱す私に、ゼーノ様はドン引きしながら「話を続けますね」と前置きした。
「魔王を斃した勇者は――ヒノ・アスムです。どのように斃したのかわかりませんが、各地に魔王の支配が解かれたのは事実です!」
ヒノ・アスム?
だ、誰だっけ……はっ!
私はようやく彼のことを思い出す。
――あの妹ちゃん大好き兄ちゃんだ!
彼が……あのぽちゃりくんが……嘘ッ!
わずか5年で魔王を斃したというの!?
そういえば、これまで転生してきた勇者の中で一番やる気を見せていたわ!
やるじゃん、ぽっちゃり!
「さらに勇者アスムは快挙を成し遂げています!」
「快挙? 魔王討伐以外にも……ゼーノ様、それは?」
するとゼーノ様は雰囲気を変えた。
真剣な眼光、どこか重々しい感じ。
それは不機嫌というより嫌悪感を示している。
「……ユリファ、貴女も知っている筈です。今回の魔王を誕生させた元凶は『邪神パラノア』であることを――」
「邪神パラノア……ゼーノ様に反旗した第二級の神ですね?」
「はい。嘗て貴女の先代を務めていた神です。闇堕ちした後、邪神として元上司である私への嫌がらせで邪教徒を扇動し神子として魔王を誕生させ、異世界ゼーノを乗っ取ろうと企てていました……」
これも異世界の神同士で起こる「あるある」だ。
何かしらの理由で落ちぶれた神は出世コースから外され、自らの意志あるいは追放という形で神界から離れて『邪神』と化してしまう。
そして主神が創造した異世界を乗っ取ろうとするケースが、これまで幾つも多発していた。
また魔王とは邪神を祀る邪教徒達が生み出した神子(巫女)であり、最も邪神の影響を受けた口寄せの役目を負っている。
したがって魔王は生娘であることが多い。
今回の手を焼いていた魔王も、『ラティアス』という名で『邪神の巫女』と畏怖される巨大な力を持つ魔女だ。
そうして魔王ラティアスは邪神の力を異世界に顕現させ、圧倒的な力で侵略を続けてきたわけだ。
私こと導きの神ユリファは転生させた勇者を介し、奴らの野望を阻止しようと奮闘してきたのだけど……肝心の勇者達がラノベ脳に侵され、あの怠慢ぶりってわけよ。
主神ゼーノ様は話を続ける。
「そして侵略の達成が近づくにつれ魔王ラティアスはより力を増し、ついには邪神パラノア自身が召喚され、一時的にせよ黙示録として『ゼーノ』を未曾有の危機に追いやったのです」
「も、黙示録!?」
つまり異世界の終わりを意味する、神々の隠語。
神霊である邪神が実体化したら確実にその異世界は終わるとされている。
ま、まさか、そこまで最悪の事態を招いていたとは……私も呑気に仮想ポテチ食べている場合じゃなかったわ。
「――ですが勇者アスムは魔王だけでなく、邪神パラノアさえも討ち取り
「え!? 邪神を斃した!?」
う、嘘でしょ!? 邪神とはいえ実体化した神よ!
いち勇者が決して太刀打ちできる存在じゃないわ……信じられないんですけど。
「……ゼーノ様。ひょっとして話、盛ってます?」
「失礼ですよ、女神ユリファ。ですが貴女が疑うのも無理のないことですね……私ですら未だに信じられません。ですが実体を消滅させられた邪神パラノアは既に神界に送還されており、『無窮の牢獄』に監禁されています。いずれ神格が失われ消滅することでしょう」
そう、地上で神という存在を殺すことは決して誰にもできない。
ただし実体化した肉体を滅ぼすことはできる。
肉体を失った邪神は精神体である『神霊』に戻り、そのまま神界へと強制送還されていく。
ゼーノ様が仰ったとおり、完全に消滅するまで永久に牢獄へと入れられてしまうのだ。
それが神にとって唯一『死』と言える極刑である。
っということは、アスムは魔王を斃しただけじゃなく邪神パラノアの肉体を滅ぼし神霊に戻すことに成功したってこと?
やばっ、あの子超やばっ!
どんだけ頑張ったのよぉぉぉ!?
「……では、ゼーノ様。勇者アスムは……私達を同じ存在へと昇格されるということですね?」
恐る恐る訊く私の問いに、ゼーノ様は首肯する。
「ええ、間違いなく勇者アスムには、我らと同じ異世界の神になる権利が与えられます!」
異世界の神になる権利。
それが魔王を斃した勇者のみに与えられる最大のご褒美だ。
何を隠そう、私やゼーノ様も嘗ては地球で不遇の死を遂げ勇者として転生した人間であった。
魔王を斃したご褒美として異世界の神となった経過がある。
したがって地球が私達異世界の神にとっての母星であり、『主軸世界』と呼ばれる所以でもあった。
特にアスムは邪神パラノアを斃しているわ。
神への昇格は間違いないでしょうね。
まぁ神様も決して楽な仕事じゃないんだけど……特に上司となる主神次第じゃ、とんだブラック企業よ。
とはいえ、ぽっちゃりアスムくんも転生前は社畜のサラリーマンの筈。
真面目な性格だし頑張ってくれると思うわ。
「――っというわけで、女神ユリファ。これからゼーノへ赴き詳細を確認するのです」
「え? 私がですか?」
「はい。ヒノ・アスムは導きの女神である貴女が召喚した勇者です。したがって貴女の目で直接確認する義務があります」
出たわ、謎の屁理屈とパワハラぶり。
この白髭、面倒ごとは全て私に押しつけるのよ!
けど文句は言えない……主神の指示は絶対なのだから。
「わかりました、ゼーノ様。必ずや務めを果たしましょう」
「はい。それと勇者アスムに『神になる権利』のことをお伝えください。彼ならきっと良い神となるでしょう」
「御意」
こうして私は異世界ゼーノの地に降り立つことになった。
ぶっちゃけ面倒くさいけど仕方ないわ。
アスムのおかげで、私は降格せずに済んだのだから……そこは凄く感謝しているんだけどね。
正直、彼が私好みのイケメンだと、もっとやる気も出るんだけど……なんちゃって。
◇◆◇
異空間の門を潜り、私はゼーノの大地に舞い降りた。
この瞬間、私は女神ではなく
主神ゼーノ様の計らいで人族としての肉体を得た私。
女神の衣とは異なり法衣服を身に纏っているが、持ち前の美貌と抜群のスタイルは健在だ。
地上で神としての力を行使するのは禁忌だが、それ以外は何でもありの強キャラとも言える。
「さぁて、アスムくんに会いに魔王城まで行きますかぁ」
私は軽い気持ちで彼に会いに向かった。
けどこの後、
快挙どころか、とんでもない事態へと発展していたと知ることになる――。