月波 @tsukiandnami
夏の盛りの嵐の夜、ボクは父さんに呼ばれた。
「母さんの病気は酷くなった。聞けばゆっくり進む病だそうだが、あの痣の具合ではあと一年がいいところらしい。治すには特別な薬が要るのだが、遥か先にある街でしか手に入らない。嵐が止んだらリヒラが街に向かう。エミール、彼と一緒に街へ行ってこい」
―――――午後8:29 · 2023年2月27日
収穫前だったが、そもそもが人の少ない村だからボクが欠けてもなんとかなる、と爺さんたちは言ってくれた。
「アガ(母の名前)のことは心配するな。新しい種のためにもアグリコラ(父の名前)や儂らでちゃんと守ってやる。お前は街で別嬪になってこい」
違うよ爺さん。ボクは薬を買いに行くだけだよ。
―――――午後6:00 · 2023年2月28日
父さん、母さん、村の爺さんたちに見送られ旅立ってもう五日。町はおろか、人の気配すら感じられない山道をボクらは進んでいた。どこを向いてるかなんてまったくわからず、ただ前を歩くリヒラの背中に遅れないようついていくだけ。朝はスープ、夜は黒パンと干し肉。その繰り返しに、ボクは時間を失う。
―――――午後6:47 · 2023年3月1日
十日目に初めて人の住む場所に着いた。ボクの村よりもだいぶ人の多いところ。ボクは生まれて初めて自分と同じくらいの人や、もっとずっと小さい子と会った。それも十人くらい!初めて見る男の子は紅い髪をしてて、しきりにボクの黒髪を変だと言ってきた。でもボクはなんて応えればいいのかわからない。
―――――午後6:30 · 2023年3月2日
その村でリヒラは買い物をした。父さん手製の道具や母さんが織った布も、
「彼はエミールが好きなんだよ」
リヒラは言うけど、どういう意味?
―――――午後6:30 · 2023年3月3日
ヤクーにはボクが名前を付けた。カリ。世話するのもボクの仕事。
七日間ほど滞在したボクたちは、木枯らしが吹き始める前にその村を発った。
―――――午後6:40 · 2023年3月4日
雪が降り出して数日、ボクのアルハイドも重なって、移動できる時間も限られてきた。弱音を吐きそうになったある朝、遠くに一条の煙が上がるのが見えた。
「夜までにあそこに着くぞ」
リヒラの言葉にボクも奮い立つ。ボクが元気になったのを見てカリも
―――――午後6:30 · 2023年3月5日