土曜朝の出会いの興奮は翌日曜日も
「リュウよ。元気がいいのは結構だけど、調子乗り過ぎて怪我するなよ」
社長の苦言も、軽快に走り回る今の僕の耳には素通りだ。軽く手を振って、解体前のブースに残った資料や機材を台車に乗せる。
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風間さんからの面札オファーはその場で受けた。というか、受諾しない選択肢は無い。彼の目の前で、いただいた名刺のアドレス宛にスマートフォンからメールを送り、月曜以降に日程詳細を返していただく手筈となった。
それまで出口の見当たらない濃い霧に包まれていた状態だった視界が嘘のように、
なにこの無敵感。内定取ってた連中って、みんな半年間この感覚で暮らしてたの? 羨まし過ぎる。だが僕も、遅ればせながら仲間入りだぜ。ぐふふふふ。
確度の高い面接とは言え、まだ先方と会ってすらいないという状況でこれほど盛り上がってていいのかと諫める声も自分の中に無かったワケではないが、とにかく僕は舞い上がっていた。
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月曜日の正午ごろ、相変わらずハイになったまま万年炬燵にくるまってスマートフォンをいじっていた僕は、ツイッターのタイムラインに上がったとあるRTに手が止まった。
月波 @tsukiandnami
参加された皆さん、読んでくださった皆さん、そしてなによりも、企画し開催し取りまとめてくださった板野かもさん、本当にお疲れ様でした。
ボクの作品は138位。17ptをくださった方々には御礼しかありません。本当にありがとうございました
―――――午後0:06 · 2023年1月30日
先日投稿した匿名掌編コンテストの参加者が書いたツイート。僕もフォローしている運営側が拾ったものらしい。
そっか、集計終わったのか。結局あんまりたくさんは読めなかったな。そう思いながら指を滑らせると、その人のセルフリプライが表示された。
月波 @tsukiandnami
ちなみにボクのはこれです。
お目汚しを(笑)
―――――午後0:21 · 2023年1月30日
記事の引用するツイートの画像に見覚えがあった。
『恋の盛衰(半年周期説)』
先週頭ごろに読んで気になった掌編のタイトル。僕は画像の掌編を読み返した。たしかにこれだ。そうか。僕の連作と似た匂いを感じたこの作品は、このひとが書いたものだったのか。
月波と名乗るそのユーザーはツイートで自作を披露するタイプの創作さんらしい。とりあえずフォローして、そのひとの過去ツイートを遡る。アカウント開設は去年のクリスマスイブ。僕の蔵六とほぼほぼ同じ時期だ。連作ツイートを始めたのも同じく一月一日から。似たようなこと考える人がいるんだな。
最初の頃のつぶやきはぼっち感が一杯で痛々しい。のっけに語られている聖夜の予定のドタキャンがツイッター開設の動機だったんじゃないかと推測された。僕は画面を戻して、ボクっ娘の彼女(たぶん女性)の書いた掌編を読み返してみる。十月につきあいはじめて二か月後のひとり暮らしから気持ちが離れていく。これが彼女自身の身に起こったことならば、一昨年の秋から去年の新春にかけての話なんじゃないのかな。すでに警報が鳴っていたような関係は、丸一年かけて去年の師走に瓦解した。あの『恋の盛衰(半年周期説)』という小説は、そんな彼女の振り返りだったんじゃないだろうか。
炬燵の中の僕は、見たことも会ったことも無いひとの事情を勝手に想像していた。
てことは、連作の方もそんな話になってるのかな。べたべたの恋愛モノだったりしたら、ちょっと嫌かも。
『白い部屋』と題された連作は、そんな物語ではなかった。どうやら高校生らしい「ボク」が目覚めると、そこは見たことも無い白い部屋だった。そんな場面からはじまるその小説は、ジャンルで言えば転生モノになるだろう。しかし連載一週間をかけて明かされたその場所は、意外なことに
ISSのラボ内で展開される会話劇は、思いのほかしっかりSFしていた。一か月経っても恋愛要素が入り込む隙は微塵も無く、そこにはいないその世界の天才少女の行動や思考を、観測者役の共同研究者と少女の肉体に入れ替わり転生してきた別世界線少女のふたりが語り合いながら検証していくという極めて真面目な筋運び。
「いや、これはフツーに面白いじゃん」
一月二十九日付の最新話までを一気に読み終えた僕は、思わずそう口に出していた。改めて月波さんのタイムラインに戻った僕は、全話にいいねを投入し、その勢いで彼女への感想を足した引用RTをツイートする。
時間は十二時半を回ったところ。学食のランチを思い描き、僕は覚悟を決めて
定番の肉炒め定食を食べながらスマートフォンを開くと、ボクっ娘月波さんから返信が届いていた。一週間前、まだどなたの作品か知らないときに書いたコメントも読んでいたとのこと。しかもそのときから、僕のあの恥ずかしい連作も読まれているんだとか。うーん。いつもながらだけど、SNSってのはすごいな。全然知らない人なのに、ちょっとコメントしただけでここまで深掘りされてたりして。
匿名コンでの僕の作品がどれかを尋ねられたので、そちらの方は敢えて返信ではなく、普通の引用RTで投げておいた。月波さんが女性だと仮定して、男性アカウントからぐいぐい来られるのって嫌じゃないかな、と思って。
ちなみに僕の書いた