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第24話「無題」5(一月三十日~二月五日)――笠地蔵六140字小説

笠地蔵六 @kasajizorock


競技場からの帰り道、きみは落ち込んでいた。先輩には逢えなかったし、800Mも予選落ち。学校で一番の脚も、県下の脚自慢たちの前ではモブ扱いだった。悉く予選落ちだった面々の重い足取りの中で、ひとり元気だったのは短距離の彼女。俯き加減のきみの周りを、なぜかにこにこして走り回っていたね。

―――――午後10:48 · 2023年1月30日



十一月最後の部活の後、きみは短距離の彼女に呼び出された。来週からの期末試験に合わせしばらく部活は中止になる。その時期の試験勉強に付き合って欲しいというお願いだった。普通科の彼女と特進科のきみとでは範囲も違う筈だが、わからないところを教えてと強く頼まれればきみだって悪い気はしない。

―――――午後8:50 · 2023年1月31日



冬の初めの肌寒い神社。連なる赤い鳥居の横で、きみと彼女は寄り添って座る。きみが気にして開けた隙間は彼女の動きですぐに埋まった。

先週原宿で作って貰ったという二つ折りのペンダント。開けば中にはきみの名前。上目遣いでにじり寄る彼女にきみは、風邪ひくから帰ろうと告げた。先輩がよぎった。

―――――午後8:36 ・ 2023年2月1日



試験明けの部活に彼女は来なかった。

期末試験の間、きみはずっと考えてた。彼女がきみを好きなのはもう判っていたから。部活で会ったら受け入れようって決めたんだよね。でも来ない人とは逢いようがない。

冬休み明け、きみは友だちから聞かされた。初詣で彼女が男とべったりくっついて歩いてた話を。

―――――午後6:55 · 2023年2月2日



しばらくきみは落ち込んでたね。三学期、彼女はどんどん綺麗になっていったから。廊下ですれ違っても、もうきみに見向きなどしない。そうやってきみは、新しい経験を積む絶好のチャンスを見事に逃した。自らの足踏みの所為でね。でもしょうがない。そんなに簡単にきみという人間が変われるはずもない。

―――――午後9:00 · 2023年2月3日



高二の冬、きみは先輩が短大を目指すことを知った。なぜ、四年制ではなくて敢えて短大を?きみは中二の冬に訪れた、お世辞にも裕福そうには見えなかった先輩の自宅を思い出した。短大だとしたら二年後には社会人になる。進学志望のきみとは、ただでさえ埋まらない立ち位置の差がより一層開いてしまう。

―――――午後7:55 · 2023年2月4日



きみが先輩の進路を知ったのは年賀状。相変わらず、きみと先輩が繋がるチャンネルは住所だけ。だからきみは、二月の初めに手紙を送った。

少し前に読んだ昭和の文豪、宮本輝の『錦繍』を真似て匂い高い文を目指したけれど、やたら漢字が多いだけになってしまった。応援の気持ちが伝わっていればいい。

―――――午後9:22 · 2023年2月5日

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