火曜日の朝、出掛ける前にツイッターを確かめたら、私が書いたコンテストの掌編小説が引用RTされていました。
笠地蔵六@kasajizorock
とても真摯で正直なモノローグ。
恋愛もひとを構成する一要素にすぎないのだろう。
―――午後1:19 · 2023年1月23日
見覚えの無い方からいただいたその短い感想は、あの頃の私が伝えたかったことを正確に言い当てていました。
そうなのです。私は直人との関係を否定していたわけでは無かったのです。でもそれは要素の一つに過ぎない。私という存在を構成する様々な考えや興味、行動、それらの中に同じようにあるパラメーターのひとつだった。
それがそこにあることで豊かになったり安心できたりする部分はたしかにある。でもそれは、例えばここで独り暮らしをしてる私だけど、連絡を取ったりわざわざ確認したりしなくても母や父がいて彼らが私を忘れたり見捨てたりしないという絶対的なバックボーンと同じようなもので、疑ったり省みたりする必要すらないと思っていたのです。
そんな甘えた考えを無条件で引き受けてくれる他人なんて、いるはずありません。
笠地蔵六と名乗るそのアカウントをフォローして、彼に宛ててるのが特定できないよう気をつけて書いたお礼のツイートをひとつ。
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昼前に気づいたら、外は大雨でした。強烈な横風でバケツの水を直接オフィスの窓に投げ出すみたいな降りは怖いくらいです。記録的な寒波も襲ってきてるということなので夜には雪に変わるんじゃないかって話でした。
そんな日に限って営業さんから忘れ物の連絡が入ったりするのです。昼休みから明けたオフィスで電話を受けている係長の様子を敏感に感じ取った男の人たちは急に忙しそうなふりを始めます。空気を察した後輩の女の子も用事とか言って給湯室に隠れちゃう。で、要領が悪くて逃げ遅れた私のもとに、当然のように係長の指示が落ちてくるのです。分厚い見本カタログ二冊を三駅先の駅歩五分にあるお得意さんのところまで持っていけ、と。この雨の中を!
行ってきましたよ、降りしきるみぞれ交じりの雨の中。覚悟はしてたけど、帰り道のビル風でビニール傘がおしゃかになって、最後の百メートルは空封筒だけが雨避けでしたよ。もちろん、全身びしょ濡れ。会社なんかに戻らずに、そのままうちに帰っちゃおうかって本気で考えましたから。戻りましたけどね。
身を挺した甲斐もあり、翌二十五日は在宅勤務とのお達しを勝ち取ることができました。みんな喜んでたけど、もっと私にお礼を言うべきじゃないかしら。そんなことを考えていた私は、先週末に伝えられた栄さんのアポのことなどすっかり忘れていました。
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翌朝は明け方までの雪も止み、危ぶまれていた交通ダイヤは大きな混乱も無く、行こうと思えばさほど問題もなく出社できそうでした。でもせっかくの在宅を棒に振る気はこれっぽっちもありません。始業ぎりぎりまでベッドで過ごし、時間になったらファンヒーターと布団で代用した簡易炬燵に移って仕事をはじめます。
お昼前に入ったLINEで、栄さんの来社を思い出しました。そういえばランチにも誘われていた。でも今さら出掛ける気にはなりません。そもそも今日は化粧すらしていないのです。
できるだけ丁寧に
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在宅勤務は何がいいって、お洗濯や煮物といった家事を同時にこなせることが最大の利点。おかげで前日の雨で汚れたスカートなんかもちゃんとお洒落着洗いできたりして。夕方なんて表計算の資料をつくりながらカレーまで煮込んじゃいました。自宅でのお仕事、最高!
夜も食事と入浴を早くに終えて、備蓄してた缶のソフトカクテルを開けて、ゆったりまったりスペース巡り。寝る準備まで整えてのずぼらな格好で髪にドライヤーを当てながらスマートフォンの画面を眺めていると、最近頻繁のやりとりしてる方々のアイコンがスペースの表示に並んでいました。ポチッと。
吃驚しました。おふたりの参加されているスペースはすでに何度もお聴きしているし、コメントを拾ってもらったこともいくつかありますから、月波という私のアカウントを憶えておられても不思議はありません。ですが、これまで一度もスピーカーに上がったことのない私を、こんな出会い頭みたいなタイミングで誘ってくださるなんて。
逡巡はしましたが、これも僥倖と気持ちを切り替えます。今夜の私は気持ちがとてもゆったりしてるし、今の参加者は谷下さんと清水さんのおふたりだけ。スピーカーデビューの場として、こんなにもプレッシャー無く入れるチャンスはなかなかないかもしれない。私は承諾ボタンをタップしました。