はい、と応えて私は頷いた。目の前の不安顔がみるみる破れて満面の笑顔に。なんて劇的な変貌。
私の初めての交際はこうして始まった。
二か月の試用期間が長いか短いかわからないけど、十月にスタートしたこの恋も師走の声を聞く頃には彼の部屋に泊まるようにさえなっていた。順調? それとも急ぎ過ぎ?
お散歩、映画、動物園に水族館。ドライブ、夜景に豪華なディナー。ふかふかなベッドと朝の珈琲だって体験した。どれも皆ふつうに楽しかった。その中で一番興味を得たのは彼の部屋。ううん。正確に言えば、一人暮らしの生活。
勧められて私も実家を出た。彼は自分の部屋を推してきたけど、私が欲したのはそれじゃない。
焦げ茶色のフローリングに大きな窓と白い壁紙の、言ってみれば普通の間取りのワンルーム。でも手を入れだせば、そこはオンリーワンルーム。
予算と折り合いつけながら機能的でシンプルな家具をゼロから揃える。本棚、ソファ、ライティングデスク。キッチンに凝りはじめ、近所の梅や桜に詳しくなってきて、気づけば彼が意識から消えていた。嫌いじゃないし、手空きなときに誘われれば逢ってもいい。でも正直その程度。
思えばこの頃から壊れていたのかもしれない。