笠地蔵六 @kasajizorock
生徒会室は三階トイレの横にある。四脚の長机を二列に繋げ、メンバー全員が席に着いたらもう一杯の細長い部屋。物語なんかのとは大違いだ。でも居心地は最高。クラスのボスと折合えないきみにとっては教室より百倍良い。終業後の空白時間が苦手なきみは、馴染みの放送部員に今日も偽の呼び出しを頼む。
―――――午後6:02 · 2023年1月9日
担当する委員会の初会合。今日だけはきみが司会だ。議題は役員指名。根回しした委員長が耳打ちする。
「私の友だちを書記にするから」
名前が呼ばれ後列から立ち上がった女子。近づく姿にきみは見惚れる。運動部らしいショートボブ。凛々しいまなざし。はにかんだ口許。きみはもう完全に取り込まれた。
―――――午後10:02 · 2023年1月10日
弟に彼女ができた。という噂を人伝に聞いた。そんなこと、きみは家ではひと言も聞いてない。相手が同じ学年と聞き、きみは胸を撫でおろす。容姿と実力を兼ね備えた女子テニス部の次期主将らしい。顔と名前くらいはきみだって知ってる。お前の弟とならお似合いだよなと言う友人に、きみは曖昧に頷いた。
―――――午後9:09 · 2023年1月11日
美術部の展示にはまばらにしか客が来ない。そもそも立地が悪い。生徒会を理由にしてクラスのシフトを免除させたきみは、秋の日差しを浴びながらぼうっと店番してるだけ。入口に現れた人影がきみに声を掛けてくる。先輩だ。約束通り見に来てくれた。立ち上がって案内するきみは、今日一番に輝いている。
―――――午後8:55 · 2023年1月12日
今日も帰宅路とは逆の本屋で立ち読み。先輩が通り過ぎるのを待っている。九回試して全球空振り。十回めも外れかな。木枯らし吹く表に踏み出したところで、歩いてくる先輩と鉢合わせ。にこやかな笑顔にテンパってるきみ。
「受験、頑張ってください」
鞄の中からキットカット。ずっと用意してたんだね。
―――――午後8:12 · 2023年1月13日
大好きな風景画家の古民家を模写して葉書の中に閉じ込める。たった一枚の年賀状を仕上げるためにきみは数日がかりだったね。その特別な一枚、宛名はもちろんあの先輩。あの人と同じ学び舎でいられるのもあと三か月。それまでにきみは想いを伝えたい。でもそれは今じゃない。先輩の受験が終わるまでは。
―――――午後10:29 · 2023年1月14日
「生徒会OB仲間と初日の出観にいってくる」年越し蕎麦をかっこんだきみは紅白が終わるのも待たず家を出た。日の出なんて真っ赤な嘘。本当はあの年賀状を先輩の家のポストに直接届けるため。夜の道、スマホからイヤホンを伝って流れるのはクリープハイプ。今度会ったらなにをしようか。今度会ったら。
―――――午後9:04 · 2023年1月15日