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戦の前には計があり5

均は、驚きを隠せなかった。


「こ、こ、これは、いったい!」


「さあ、さあ、均様、荷降ろしを手伝ってください!」


童子が仕切る。


孔明一行が、いきなり戻って来た。それも、何故か、ようさんの荷馬車に乗って。そして、荷台には、しこたま、荷が積み込まれていた。


その後を、ノロノロと、馬に揺られる孔明と月英の姿が──。


「揚さん、どうも、お世話になりました。こちらを」


言って、童子が荷台から、何やら引っ張り出し、手渡している。


「いや、こりゃ、どうも、干し肉とは、また、豪勢な!」


楊は、農作業の日々でくたびれきった顔を緩ませた。どだい、肉など、こんな田舎では食べるどころか、手に入れることも皆無だった。


「あー、荷降ろし、手伝うわ、これだけあると大変だろ?それに、下女さんよ、早く馬から降りねぇと。旦那と、一緒に馬に乗ってたなんて、奥方に知れたら、えらい目にあうよ」


「あら、ほんと!揚さん気が利くわー!」


いやいや、それほどでも、と、照れ笑いしながら、陽は、荷物を降ろして行く。


「あー、もう、玄関前に、置いてもらえば、あとは、こちらで」


「おお、そうかい?」


などと、忙しげではあるが、どこか、和やかな雰囲気に、均は、立ちすくんでいるのみだった。


「あー、均様、この、漬物壺、裏へ運んでください!」


童子が叫ぶ。


「あ、ああ、すまん、どらどら」


均は、慌てて荷台に駆け寄った。


幾つもの壺がある。童子の言うように、醤油漬や、糀漬、その他、諸々の調味料に混じって酒壺があった。


おそらく、楊には見つかりたくない、と、言うことなのだろう。だから、先に干し肉を渡して、気を逸らしたに違いない。


漬物、ならば、楊も、特に気に止めることはないだろう。しかし、酒が混じっているとなると、やっかみをうけるのは、わかっていた。


それにしても──。


持てるだけ持って来た。そんな感じが拭えない均は、はたと、気がつく。


兄と義姉あねは、馬で相乗りし帰って来た。その、馬は……。


「うん、姑殿が、馬も持って行けと……、これは、均、お前がつかいなさい」


孔明が言った。


はあ、と、答えながら、結局、月英の実家から、拝借してきた物ばかりということか、と、均は、理解する。


父親である、黄承彦こうしょうげんが、娘可愛さで、色々と持たせたのだろう。いや、義姉あねのことだ、勝手に積み込んだのかもしれないが、どうあれ、揚同様に、均の顔もいくばくか、緩んでいた。これだけ食材があれば、大助かり、そして、馬まで手に入った。


月英は、当然、さっさと家へ入って行く。奥様のお相手をしなければ、とかなんとか、言って。


ついでに、孔明を、病み上がりですからお休みくださいと、引っ張って。


こうして、どうにかこうにか、荷を降ろし、楊も帰ろうとしていたその時、


「ご免」


どこか、聞き覚えのある声がした。


皆が、一斉に振り返ると……。


楊は、ひゃーー!と、悲鳴を上げ、荷台で、小さくなった。


そして、童子は、あーーー!鎌がないっっ!!!と、叫び、均は、く、くわを、取ってくると、駆け出そうとするが、足を上手く運こべないでいる。


「……すまぬ、作業の途中であったか、実は……」


「やめてくれー!は、話はついてるだろうがっ!張飛!!」


楊が、しどろもどろになりながら、受け取っていた、干し肉の包みを投げつけ、馬に鞭打ち、脱兎ごとく、荷馬車ごと逃げ出した。


「童子、いったい……」


「均様!いったいも何も!しつこいぞ!張飛!」


放り投げられた包みを受けた、張飛は、干し肉か!と、ご機嫌だった。


「あー、つまり、楊さんの、なにがしかに、こいつら達が、しつこくつけ回していると、いうことだな?童子?」


「ええ、父ちゃんが、まとめたのに、うちの、父ちゃんの顔にまで、泥を塗るのかっ!!」


「まあ、まて、童子!こちらに、武器はない。丸腰だ。喧嘩ごしは、まずい」


均は、童子をなだめつつ、現れた、例の三人組、劉備、関羽、張飛に、どう、対抗すれば良いのかと思案するが、どう、考えても、丸腰で勝てる相手ではない。


ここは──。


「奥様を呼ぶしかないですね」


童子は、バタバタと、家の中へ駆け込み助っ人を呼びに行った。

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