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戦の前には計があり4

「ああ、劉備様は、いたく気にされていて。やはり、先生の弟君だけはある。とか、おっしゃっていた。どうすれば、よいのかと、こちらへ、尋ねられる始末。しかし、事情がさっぱりで、とりあえず、また、訪ねては?なんて、誤魔化した」


「えーーーー!!!そんな、誤魔化しっ!また、奴らが来たら、どうするんですかっ!」


慌てる童子に、


「なあ、いったい、何があったんだ?もしかして、なつめの事を、お前の旦那様は、まだ、愚痴ったとかか?」


徐庶じょしょは、問うが、誰も聞く耳持たず状態で、留守の間に、何があったのか、これは、戻った方が、均の身の安全が保たれるのではないかとか、童子と月英は、顔を付き合わせている。


一方、孔明は、完全に置き去りになっていた。


「なんだか、ひともめありそうだなぁ。諸葛亮よ、こりゃあ、帰らせてもらう。お前の顔も見れた、そして、なんといっても、これだ!助かる」


徐庶は言うと、土産の包みを大切に懐に仕舞い込み、じゃあ、と、席を立った。


「ああ、門まで送って行くよ」


「すまんな。正直、屋敷が広すぎて、玄関まで行き着く自信がなかったのだ」


ハハハと、二人は笑い合う。


「なあ、諸葛亮よ。お前も、決め時ではないのか?今は、多少、問題のある主君ではあるが、お前とならば、一国一城の主になれそうな、いや、天下すらとれそうな気がするのだ」


「……天下……とは、また冗談を……」


「いや、冗談ではない。諸葛亮、お前の鬼嫁が、えらく、劉備様を、気に入っているではないか。いや、むしろ、すでに、仕官している想定で話をしている。人を見る目は、おそらく、我らより、上ぞ。何せ、名士の娘。それなりの人間に会って来ているはずだ。己が妻の勘を信じてみては、どうだ?」


孔明は、返事に詰まった。


そもそも、今まで、色々ありすぎた。その心象が、またよろしくない。


司馬徽しばき先生も、お前が、本命だと、推挙されていたぞ」


「本命?」


「ああ、諸葛亮、お前は、間違いなく、伏竜鳳雛ふくりゅうほうすうだ」


「徐庶……」


急に黙り混んだ孔明に、徐庶は、焦った。


「いや、どうした?!誉めすぎたかっ!!いやいや、これは、本心ぞ!!お前には、人にない才がある!」


「……私もそう思っている。そして、やっと、わかってくれる者が現れた……」


「え?!」


感極まったのか、孔明は、少しばかり涙ぐんでいる。


しかし──。


どこから、出てくる、その、自信?!


徐庶は、言ったものの、開いた口が塞がらなかった。


まあ、それが、諸葛亮という男、なのだが……。


いつものことか、と、含み笑いながら、やっと、たどり着いた玄関の扉を開けようとするが、なかなか、開かない。


「ん?!どうなっている!この扉!入る時は、パーンと、勝手に開いたであろう?」


「あー、あれは、この細工のせいだ。扉を開ける時には、この綱を内側から、引っ張らなければならないのだ」


言って、孔明は、綱をぐっと、引っ張った。


たちまち、扉は、パーンと開く。


「……諸葛亮よ、結局、誰か扉係が、必要ということだろう?そんか、まどろっこしいこと、しなくても、自分で開けた方が早いだろに」


「うん、細工を施してみて、気がついた。だがな徐庶。姑殿も、黄夫人も、大喜びしてくれたのだ。なんと、面白い仕組みだとね」


孔明は、呆れる徐庶へ向かって、微笑んだ。


「……そうか。それならば、なおのこと。諸葛亮よ……皆が、喜ぶ、国を作らぬか?今、その時期が巡って来ておるのではなかろうか?」


「皆が喜ぶ……国……」


おお、と、徐庶は、頷き、いずれ、また会おう。劉備様の元でと、言って外へ出ようとしたとたん、どん、と、ぶつかる音と共に、徐庶の叫びが上がった。


「あっ、すまぬ。綱を引いてなかった。扉が、閉じたまだった。徐庶よ、大丈夫か?」


「何でも良いから、はよう、こんな細工、外してしまえ!!」


徐庶は、顔を押さえながら、肩を怒らせ、黄家を去って行った。


「うん、やはり、まだまだ、改善の余地があるなぁ。これでは、使い物にならない」


孔明は、扉の細工を見ながら、ぶつくさ言った。


そして──。


その姿を除き見る二つの影が……。


「童子、帰りますよ」


「奥様、奴等が、やって来るのは、近いということですか?!」


「ええ、今度は、きちんと、決めないと」


「わかりました!」


童子は、帰宅の準備に取りかかりますと、駆け出して行く。


「……上手く、まとまってくれればよいのだけど……」


月英は、あーでもないこーでもないと、扉の細工をいじっている夫を見た。

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