「おー!こりゃ、また、豪勢だ!さすがだなぁ!」
通された客間の卓に並べられた食事に
主食は、粥。
「ええ、旦那様は、病み上がりですから、栄養のあるものを摂っていただかないと」
孔明の隣に座る、月英は、匙で粥をすくうと、はい、旦那様。冷ましてますよ。と、孔明へ、差し出している。
いわゆる、あーん、を、目の前で繰り広げられて、徐庶は、咳払いをした。
「侍女よ、やり過ぎではないか?奥方にみつかったら、ひどい目にあうぞ」
なんとなく、やけになりつつ、串焼き肉を食いちぎるように食べ、徐庶は言う。
「あー、大丈夫ですよ。私達夫婦ですから」
「あー、そうか、そうか、夫婦だから、粥をふうふうしてるわけだな」
「あらやだっ!徐庶様ったら、お上手!」
「お?そうか?……って、おいっ!!!!ちょっと、待ったっーーーー!!!」
叫ぶ徐庶の口からは、噛み砕いた肉片が飛び散った。
「あれ!まあ!やだわっ!!徐庶様ったら!!童子や!新しいおかずを持ってきて!!口の中のものが、飛び散って!!!」
「ど、どうゆうことだっ!!!諸葛亮よっ!!何も聞いてないぞっ!!!」
「聞いてないもなにも……言ってないので……」
孔明は、居心地悪そうに、ゴニョゴニョ言っている。
「だって、勝手に勘違いされて。それはそれで、面白かったから」
童子が、新しい皿を運んで来つつ、会話に割って入った。
「……と、いうことは、お主達、よってたかって、人のことを、笑い者にしておったのかっ!」
徐庶は、食べ終わった串焼き肉の串を振り回しながら、腹立ち紛れに、一人喋り続けた。
「あー、なんだ、そもそも、
徐庶は、かなりのご立腹ぶりで、次々と、肉の串焼きにかぶりつく。
「まあまあ、人の噂を鵜呑みにされた、あなた様が悪いのですよ。そんな具合で、いざ、出陣、と、なったとき、劉備様をお守りできる策を練ることなどできましょうか?」
ん?!
と、徐庶の手が止まった。
「……肉が、旨い……つい、食ってしまったわ……諸葛亮、お前の体の為、だったのだろう、これは……」
皿には、すでに、肉の串焼きは、なかった。
「構わんよ、毎日、肉を食べさせられるのも、なかなか、苦なるもの、残せば、叱られるし……、徐庶、お前が食してくれてよかった」
叱られる──。
ハハハ、と、徐庶は、笑った。
「見かけがどうあれ、諸葛亮、お前の嫁御は、噂通り、かなりの、悪妻じゃないかっ!」
「病み上がり、まだ、食も細い時に、肉ばかり食わされて、残せば叱られると、そりゃー、お前の事を本当に心配してるのかねぇー」
ニヤニヤしながら、徐庶は、月英を見た。
「あらまっ!なんですって!人の家で、肉を食べ尽くして、
月英の細い眉が、つり上がる。
「あー、まあまあ、黄夫人、相手は、徐庶ですよ、どうか、気を静めてください」
孔明の一言に、徐庶は、ぶっと、吹き出した。
「相手は、徐庶、とは、聞き捨てならないねー、まったく、お前さん達は、似た者同士、いい夫婦、いや、相棒だなあ」
あー、参った、参ったと、徐庶は、何故か、上機嫌だった。
「まっ、腹が一杯になれば、人間、機嫌が良くなります」
童子が、わかったような事を言いつつ、包みを徐庶へ、差し出した。
「徐庶様、母上様に」
干し肉だった。
「やっ!こ、これは、奥方!要らぬ気遣いをさせてしもうて!このような高価なもの!!」
ホホホ、性悪、身勝手、醜女ですから、家の物にも、勝手に手をだしますわよ。どうぞ、お気になさらずに。月英は、どうせ、父の金で買うものなのだから、などと、他人事だった。
「で、ですが、黄夫人、あまり、勝手に、と、言うのも……」
「あのなあー、諸葛亮よ、姑殿は、お前を気に入っているんだろ?干し肉の一束、二束ぐらい、病み上がりの体のためだと言っておけば、なあ、奥方?」
「そうそう!さすがは、徐庶様!さぞかし、劉備様の元でも、重宝されているのでは?」
へっ?!
と、徐庶は、うっかり、声を上げ、渋い顔つきをした。
「戦が起こって、出陣、など、今のこの地では、ありえない。さらに、劉備様は、特に、役職に就かれているわけではなく、ただの、客人扱い。私の出番など無く。その方に付いたのが、果たして……」
そして、すまん。と、徐庶は、孔明へ頭数を下げた。