──そして、翌朝。
いつものように、早朝から馬に乗り孔明は、師の所へ向かった。
もちろん、月英は、
「あれ?なんだか、今朝は、兄上、ご機嫌ですね」
側で、同じく見送り事を行っている、均が、呟いた。
「そうねぇ、まったく、一晩中あれだけ動いて、疲れてないのかしら?あの方は」
はあー、と、ため息をつく、
目元には、うっすら、隈が出来ており、それが、また、何やら儚さを醸し出し、男ならば、誰しも見とれてしまうだろうという、風情を漂わせている。
「……おかけで、こちらは、疲れっぱなし……」
月英の愚痴に、均は、思わず、握っていた
……そ、そ、それは、つまり、昨夜も、夫婦の交わり事を……兄は、昼間の苛立ちを、妻の身体へぶつけたのか、いや、
「や、やや、な、な、なんと、申し訳ありません。う、うっかり、驚き、鍬を、鍬を、わ、私、畑仕事へまいりますのでっ!!」
均は、鍬を掴み取ると、転がるように、畑へ向かった。
その慌てように、月英は、はっとする。
「ち、ちょっと、均様ーーー!違いますよー!誤解ですって!」
そして、自分は庵でも、探すべきだと思う。そうでなければ、毎朝、このようなことに、遭遇してしまう。
やはり、新婚夫婦と、共に暮らすのは無理がある。いや、こちらが、もたない。
均は、あんなこと、こんなこと、あらゆる事を想像していた。
「あー、もう!完全に、勘違いしてますわ。均様ーー!昨夜は、交わってませんよーー!」
月英の叫びに、ぶっ、と、吹き出す者がいた。
振り替えると、童子が、目を泳がせながら、立ちすくんでいる。
「お、おや、お前、いたの」
月英は、取り繕うが、なにやら、こちらも、子供の癖に、大きな勘違いをしているようだ。
「あー、昨夜は、旦那様の討論に付き合わされて、この土地の安定の為には、今は、長は、劉表様でもよかろうが、果たして、いつまで、もつのやら、とか、北方の曹操様とは、帝を擁護されている以上、正面切ってやりあえない。と、なると、どう、上手く逃げるか、やはり、ここは、どーのこーのと、落ちつきなく、部屋の中をうろうろされて、うん、そうだ!なんて、叫ばれては、私も眠れませんよ」
誰に語る訳でもなく、もちろん、ばつの悪さからか、童子に語っている訳でもなく、あくまでも、
「どうしたのです?
「村の農家で、食材を分けてもらうのです」
童子は、早速動いていた。朝早くのほうが、街の市場へ出荷する前に当たるので、なにかと手に入りやすいのだと言い、遅れを取ってはいけませんからと、駆け出した。
「まあ、なんだか、今日は、居心地の悪い日になりそうだけど、仕方ないわね」
月英は、呟き、欠伸を噛みしめる。
そして、もう一眠りと、家へ踵を返すのだが、その表情は、なんとも言い表せない、しいて言えば、虎視眈々としたものだった。
「さてさて、劉備様は、どう判断されるのかしら?そして、荒くれ者の、張飛とやらが、共としてやって来たら……、旦那様より、童子のほうが、大騒ぎすることでしょうねぇー」
ふふふ、と、自らの企みに酔ったかのように、笑みを浮かべ、
「旦那様が戻って来たら……これまた、黄夫人ーー!なんて、叫ぶのかしら?」
そう、きっと、今日あたり、師から、一言二言、助言を受けるはず。
何か、確信があるのか、月英の面持ちは、一瞬、引き締まる。
「さあ、始まりに備え、しっかりと休みましょう!」
月英は、大きく伸びをすると、足取り軽く家の中へ入って行った。