「もうー、張飛ってやつは、手に終えないんですよー!酒の勢いで、暴れるし、負けが続くと、怒って、火を放とうとするんですから!賭場を何だと思ってるんでしょう?!」
童子は、ここぞとばかりに、うっぷんをぶちまける。
「うん、童子よ、詳細は、分かった。しかし、賭場は、お前の父上のもの。お前が、そこまで、怒ることもないだろう?」
「まあ、旦那様ったら。童子の家の大事じゃないですか?火を放つなんて、それは、犯罪ですよ」
童子を諭す孔明に、月英が、妻らしく口添えをする。
しかし。
もっともらしく語っているが、と、均は、思う。
賭場も、放火も、どちらも、ご法度。張飛とやらが、すっかり悪者になっているけれど、どっちもどっちではないのか?
「いや、驚きましたなあ。童子にそのような事情があったとは」
「ええ、何でも、しっかり学を身に付けさせたいとかで、うちの父が、賭場で大負けした時に、あちらの父上様に、負けと、この子を引き換えに、引き取らされたというか。まあ、色々ありましてね」
へえー、童子は、学びたいのか。と、孔明は、感心しているが、またまた、均は、思う。
賭場での負けと引き換えって、そりゃ、いったい、どうゆう仕組だと。
「とにかくです!旦那様、張飛という、ゴロツキには、注意してください!」
「だがなぁー、童子、もう、やりあってしまったのだ、どうすればいいだろう?」
「えーーー!!!父ちゃんに、声かけますっ!街の若い衆を集めますっ!!!」
童子は、今にも飛び出して行きそうな勢いを見せた。
「まあ、童子や、お待ちなさいっ。やりあったって、言っても、言い争い、それも、棗をどうしたとからしいし」
えー、でも!と、童子は譲らない。
「向こうには、関羽という兄貴分も、いるんですよ!」
なんでも、張飛が、暴れたら、連れ帰える事で賭場に現れるらしいが、義が通らぬやら訳のわからない事を言い出して、結局、二人して暴れるのだとか。
「で、また、関羽は、めっぽう強いんです。何せ、シラフ、ですから。張飛も、強いのですが、酒を飲んでますから、火を放とうとしたり、おかしなことばかりするんですよー!」
「ほお、そりゃあ、たいへんだなあ。しかし……」
言ったきり、孔明は、考え込んだ。
「では、仕えていた方は?そして、なぜ、先生のお宅に客人として現れたのだろう?」
「あらまあ、なんだか、ただ事ではない話ですね。童子や、食材に、菓子に、酒に、たんと、仕込んでおきなさい」
え?!
月英の物言いに一同は、驚いた。
なぜ、荒くれ者の話から、大がかりな宴でも開くかのような話になったのだろう。
「……その賭場荒らしは、劉備様の……そして、たしか……」
「はい、奥様、ここの
「だから、暇をもて余しているのね。まったく、
月英は、つと、首をかしげて、考える。例のごとく、そのなまめかしさに、孔明は、当然当てられており、均も、不味いとばかりに、
が、そうだ。
月英の、父、
つまり、月英と、この土地の長は、義理ではあるが、叔父と姪。
叔母上に、と、言うのは、そうゆうことなのだ。
名士と呼ばれる者は、商いだけではない。こうして、有力者とも、血縁関係を結び、力を付けていく。
「あの、
「まあ、均様。それは、旦那様が、決めること。それに、劉表様に仕えるだけが、道ではありませんもの、ですよね?旦那様?」
「ああ。私は、どうも……あの方は……」
ゴニョゴニョと、言い訳している兄に、気が進まないのか、と、均は理解したが、黄家と縁組した事で、兄は、すでに、
と、義理ではあるが、繋がりがあり、名士の端くれになっている。
ならば、これから、いくらでも……。
という均の思いを読んでか、月英が、一言。
「そうそう、もっと、旦那様に、相応しい、いえ、仕込みがいのあるお方が、現れますよ。それは、おそらく近いはず。だから、童子、急いで、食材を用意しておいて」
月英は、再度、童子に、言いつけた。