目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
戦の前には出会いあり9

「もうー、張飛ってやつは、手に終えないんですよー!酒の勢いで、暴れるし、負けが続くと、怒って、火を放とうとするんですから!賭場を何だと思ってるんでしょう?!」


童子は、ここぞとばかりに、うっぷんをぶちまける。


「うん、童子よ、詳細は、分かった。しかし、賭場は、お前の父上のもの。お前が、そこまで、怒ることもないだろう?」


「まあ、旦那様ったら。童子の家の大事じゃないですか?火を放つなんて、それは、犯罪ですよ」


童子を諭す孔明に、月英が、妻らしく口添えをする。


しかし。


もっともらしく語っているが、と、均は、思う。


賭場も、放火も、どちらも、ご法度。張飛とやらが、すっかり悪者になっているけれど、どっちもどっちではないのか?


「いや、驚きましたなあ。童子にそのような事情があったとは」


「ええ、何でも、しっかり学を身に付けさせたいとかで、うちの父が、賭場で大負けした時に、あちらの父上様に、負けと、この子を引き換えに、引き取らされたというか。まあ、色々ありましてね」


へえー、童子は、学びたいのか。と、孔明は、感心しているが、またまた、均は、思う。


賭場での負けと引き換えって、そりゃ、いったい、どうゆう仕組だと。


「とにかくです!旦那様、張飛という、ゴロツキには、注意してください!」


「だがなぁー、童子、もう、やりあってしまったのだ、どうすればいいだろう?」


「えーーー!!!父ちゃんに、声かけますっ!街の若い衆を集めますっ!!!」


童子は、今にも飛び出して行きそうな勢いを見せた。


「まあ、童子や、お待ちなさいっ。やりあったって、言っても、言い争い、それも、棗をどうしたとからしいし」


えー、でも!と、童子は譲らない。


「向こうには、関羽という兄貴分も、いるんですよ!」


なんでも、張飛が、暴れたら、連れ帰える事で賭場に現れるらしいが、義が通らぬやら訳のわからない事を言い出して、結局、二人して暴れるのだとか。


「で、また、関羽は、めっぽう強いんです。何せ、シラフ、ですから。張飛も、強いのですが、酒を飲んでますから、火を放とうとしたり、おかしなことばかりするんですよー!」


「ほお、そりゃあ、たいへんだなあ。しかし……」


言ったきり、孔明は、考え込んだ。


「では、仕えていた方は?そして、なぜ、先生のお宅に客人として現れたのだろう?」


「あらまあ、なんだか、ただ事ではない話ですね。童子や、食材に、菓子に、酒に、たんと、仕込んでおきなさい」


え?!


月英の物言いに一同は、驚いた。


なぜ、荒くれ者の話から、大がかりな宴でも開くかのような話になったのだろう。


「……その賭場荒らしは、劉備様の……そして、たしか……」


「はい、奥様、ここのおさ様の所へ、客将として、滞在されてます」


「だから、暇をもて余しているのね。まったく、劉表りゅうひょう様にも困ったものだわ。なんでもかんでも、ホイホイ受け入れちゃうんだから。叔母上にお話した方が良いかしら?」


月英は、つと、首をかしげて、考える。例のごとく、そのなまめかしさに、孔明は、当然当てられており、均も、不味いとばかりに、義姉あねから目をそらした。


が、そうだ。


月英の、父、黄承彦こうしょうげんの妻、つまり、月英の母親の妹は、劉備達を受け入れている、おさの劉表の後妻に入っている。


つまり、月英と、この土地の長は、義理ではあるが、叔父と姪。


叔母上に、と、言うのは、そうゆうことなのだ。


名士と呼ばれる者は、商いだけではない。こうして、有力者とも、血縁関係を結び、力を付けていく。


「あの、義姉上あねうえ様?差し出がましいようですが、ならば、兄の仕官の口添えを……」


「まあ、均様。それは、旦那様が、決めること。それに、劉表様に仕えるだけが、道ではありませんもの、ですよね?旦那様?」


「ああ。私は、どうも……あの方は……」


ゴニョゴニョと、言い訳している兄に、気が進まないのか、と、均は理解したが、黄家と縁組した事で、兄は、すでに、おさ

と、義理ではあるが、繋がりがあり、名士の端くれになっている。


ならば、これから、いくらでも……。


という均の思いを読んでか、月英が、一言。


「そうそう、もっと、旦那様に、相応しい、いえ、仕込みがいのあるお方が、現れますよ。それは、おそらく近いはず。だから、童子、急いで、食材を用意しておいて」


月英は、再度、童子に、言いつけた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?